就業率85%!フランス女性「働き方」の秘密 すべてを自分で抱えこんだりしない

女性雇用就業率85%!フランス女性「働き方」の秘密 すべてを自分で抱えこんだりしない

フランスの合計特殊出生率(女性1人が生涯に産む子どもの平均数)は2.01で、日本の1.42よりずっと高い。ヨーロッパではアイルランドに次ぐ2位だ。就業率85%と働く女性が多い一方で、子どもは多く産まれている。どうしてそれが可能なのか。

保育施設の充実や、家族支援政策の成果はもちろんあるが、それだけではないはず。8月下旬にフランスを旅して、子だくさん家庭や、働く人の権利が優先される実態を見て、その理由がわかるような気がした。

家族がみな家事をこなせれば、働く主婦の負担はぐんと軽くなるのだが・・・ /PIXTA

フランス西部に住むアラン(仮名)とニナ(仮名)の夫婦は、共働きで2歳から19歳までの2男2女を育てている。数日間滞在した一家の自宅は、庭つきの一戸建て。ときおり、近くの教会の鐘の音が聞こえる閑静な住宅街にある。

妻ニナは「家にずっといるより、外で他の人と会って話をしていたい」という希望もあり、働き続けてきた。これまで仕事を続けられたのは、社会制度によるところが大きいと感じている。それでも、最初の子どもの保育所を探す際には、なかなか預け先が見つからず、20カ所ほど電話してようやく探し当てたという。

4人目の子どもを産んだときには、周囲には「もう仕事は辞めて家にいたほうがいい」と言う人もいた。しかし、自分の意志を大切にした。昼間は仕事に出かけ、夜や休日は家族と過ごすという生活が、自分には合っているのだという。

そんな母親の負担を減らそうと、19歳の長女は末っ子の次男の世話をかいがいしく焼く。ぐずれば抱っこ、のどが渇けば牛乳を与える。洋服を汚せば着替えさせる。大きな子どもが小さな子どもの子育てにかかわる。少子化が進む日本ではあまり見られなくなった光景に心が和む。

夫はミルフィーユ作りもお手の物

食事は夫婦のどちらかが用意するが、中学生の次女は姉とともに準備や後片付けを手伝う。掃除はもっぱら、夫アランの担当だ。この夏、ニナと2人の娘たちが米国に数日間旅行した際、アランが小学生の長男と次男とともに留守番したという。イクメンで家事が得意なアランだから、ニナも安心して旅行に出発できたのだろう。

そんなアランのフットワークの軽さと家事能力の高さをある日、まざまざと見せつけられた。午前、一緒に近くの港町のマルシェ(市場)へ。アランは慣れた様子で、オマールエビを品定めして購入。昼にはオーブンで焼いてふるまってくれた。午後は別の港へ。趣味のヨットに乗せてくれる。沖合で風を受け、ヨットは静かに進む。アランは大きな帆を張ったり、降ろして収納したり。かなり体力のいる趣味だ。

新鮮な魚介類を買って調理するのは、アランにとってイベントではなく日常のこと

夕方帰宅すると、「秘密のデザートを作る」と言って長男と台所にこもる。その日の夕食はニナが用意したが、締めくくりには、ミルフィーユが登場した。パイ生地の間にカスタードクリームとイチゴ、フランボワーズ(キイチゴ)がはさまっている。男性2人でこんなかわいらしいお菓子を作っていたのかと思うと、ほほえましい。

夕食後、シャワーを浴びるため浴室へ行くと、アランが浴槽の掃除中。「ちょっと待って。はい、きれいになったから、どうぞ」と言う。入浴を済ませ、台所を通りかかると、アランは食器洗い乾燥機にお皿を入れているところ。まさに、大活躍の一日だった。

長男と次男がボール遊びをして騒いだり、けんかして次男が泣き叫んだり。長女と次女が口論して次女がむくれたり、アランの冗談にみんなで笑ったり。子だくさん家庭はにぎやかだ。アランとニナは目に余る場合は注意するが、基本的に子どもの自主性に任せている。個性豊かな子どもたちを見ているだけで、楽しい。やっぱり子どもは宝物なのだ。

母親だけに家事や育児を押しつけられるのでは、女性は子どもを産むことをためらうだろう。家事や育児を家族で分担していたアラン一家を通して、女性が子どもを産み、働き続けるためには、家族の協力が欠かせないと再認識させられた。

二の次にされる顧客へのサービス

女性だけでなくあらゆる労働者の権利が守られていることもあり、充実した休暇を過ごすことができる

フランスの法定労働時間は週35時間、年間の法定有給休暇は5週間。こうした労働環境が「共働き、子だくさん」を可能にしているのだが、一方でこれに伴う不便も少なくない。働く人の権利が顧客サービスよりも優先される、フランスならではの苦労を味わったのも今回の旅だった。

アラン一家の自宅を辞して、パリへ向かう列車に乗り込もうとしたときのことだ。同行した夫がレンタカーを駅の駐車場に止め、車のカギを返却しようとした。駅前の事務所は営業時間外だったため、返却ポストにカギを入れた。しばらくして、夫は「しまった」と叫ぶ。パスポートの入ったリュックを、レンタカーの後部座席に残したままだった。

日曜日のこの日、事務所の営業時間は午後3時から6時。開くまで待っていたら、予約していた列車に乗り遅れてしまう。リュックはガラス越しに車外から丸見えなので、車上狙いの多いフランスでは盗難の危険も大きい。見送りに来てくれたアラン夫婦とともに、「緊急時の連絡電話」にかけてみるが、「ホームページを見るように」といった音声案内が流れるばかり。

列車の予約を変更して3時まで待とうと、駅の窓口へ向かう。ところが、そこには長蛇の列。バカンスを終え移動する人が多いのに、2つしか窓口が開いていない。おまけに、案内板には「今日のパリ行きは満席」と書いてある。

万事休す。なかなか進まない行列に並んで途方に暮れていると、アランがやって来て、「大丈夫だ」という。たまたま、通りかかった駅長に窮状を話すと、レンタカー会社の従業員に連絡をとってくれたという。事務所の奥で書類の整理をしていた従業員が、ドアを開けて車のカギを渡してくれ、リュックを取り戻すことができた。こちらの不注意もあるが、レンタカー事務所の営業時間がもっと長ければ、こんなに気をもむこともなかっただろう。

パリに到着し、タクシーでホテルへ向かおうと乗り場へ。バカンスから戻った人がここでも長蛇の列を作っている。ところが、タクシーが少ない。運転手もバカンスをとっているからだ。30分待って、ようやく乗り込むことができた。

レジ係が殺気立つ閉店間際のスーパー

8月のパリはオペラもバレエも休演。オーケストラのコンサートも休演。有名レストランも休業中。知らずに来た旅行者は、とまどうことだろう。多くの個人商店もバカンスで休業している中、スーパーは通常通り営業している。うっかり閉店間際に入ったスーパーで、働く人の真情も垣間見た。

そのスーパーは午後9時閉店なのだが、日本のスーパー並みにもっと遅い時間と勘違いし、のんびりおみやげをカゴに入れていた。すると警備員が近寄ってきて、「レジを閉める」と告げる。時計の針は午後8時50分を指している。おみやげ満載のカゴを持って、慌ててレジに向かうと、4つほどのレジにお客が数人ずつ並んでいる。

うちひとつに並ぼうとすると、レジ係が「閉鎖」という札を出して阻止する。午後9時までに会計できなかったら、カゴの中身を置いて店を出ないといけないのだろうか。「閉鎖」でないところに並ぶと、レジ係が「ここはカードか小切手専用のレジだけど」。幸い、クレジットカードを持っていた。順番を待っている間に、別の女性レジ係が警備員に怒鳴る。

「まだ、店内に大勢人が残っているの?!」

殺気立った雰囲気の中、どうにか午後9時までに会計を済ますことができた。広い店内に閉じ込められては大変と、急ぎ足で店を出る。働く人の権利を守るためには、買い物の時間も考慮しなくてはいけないのだ。

にぎやかな大家族に、管轄外の「仕事」をしてくれた駅長、時間通りに仕事を終えようとキリキリしているレジ係。短期間の旅行者にも、フランスは多様な顔を見せてくれた。