女性活用を阻む「日本的転勤」という大問題 「地域限定正社員」では解決しない!

女性雇用女性活用を阻む「日本的転勤」という大問題 「地域限定正社員」では解決しない!

こんにちは、女性活用ジャーナリスト/研究者の中野円佳です。昨年の夏、某メディアで女性記者が大量に退職していることが話題になりました。この女性たちの行動の根本的な原因は、昼も夜もない報道現場の問題というよりは、転勤問題だと私は思っています。

マスコミで働く女性に立ちはだかる「転勤問題」

私もマスコミで働いていたので、あの雰囲気はよくわかります

私自身、最近までマスコミで働いていましたが、経済新聞であったことから東京にいる記者の比率が高く、転勤問題にそこまで頭を抱えることはありませんでした。ただ、同業の中でも全国系メディアは、地方にいる期間が合計5~10年に及ぶなど、長く、かつ複数回になることが一般的です。

特に大手全国系メディアでは、入社後まずは地方の支局に配属され、その期間に目立った成果を出し、本社の希望ポストを得ていくような仕組みだったりするのですが、もし地方にいる駆け出し時代に子どもを産んでしまうと、キャリアパスが見えなくなってしまいます。

最近やや変わりつつあるようですが、社内婚だった場合には同じ職種で同じ都道府県には配属しないなどの「前例主義」があった企業もあり、同じ職種である限り、定年まで夫婦一緒に住める目途がほとんどたたなかったというのがこれまでの状況です。

これに加えて、昨今の「卵子老化」についての一連の報道。妊娠や不妊についての知識が世の中に広く知られる契機がメディアで作られたことを、もっとも微妙な気持ちでとらえていたのはメディアの中の女性たちかもしれません。卵子老化を世に知らしめたメディア自体が、女性記者に対しては高齢出産を推奨する、つまり「東京に配属されてから産んでくれ」という方法しか解を出せていなかったからです。

自分の組織が対応できていないことを報道するなと言い出したら報道がゆがみますから、組織の対応にかかわらず重要な事実が広く報道されること自体はすばらしいと思います。でも、実際にメディアの中で子育てと両立している多くのケースは、30代後半、自らの領域をある程度確立してから産んでいる人ばかりだったりするわけです。

もちろん、それ以外にも、職種転換を図るなど、さまざまな努力で単身赴任ママをしている人もいます。でも、若手は「この会社にいる限り、早めに産むのをあきらめるか、家族が一緒に住むのをあきらめるかなのね」と思ってしまう。カイシャ側にはどうせ辞めるんだから女性を採るのをやめよう、減らそうという風潮も出てきているでしょう。

視聴者・読者としては、均質な人たちばかりで番組や紙面を作らないでほしいですし、たくましく生き残っているワーキングマザーたちの視点が活きた発信も増えているとは感じます。組織の中に多様性があってこそ、メディアの中立性というのは出てくるものだとも思います。マスコミに就職した若い女の子たちのためではなく、メディアのあり方を考えるうえで、これでいいのだろうかという疑問を感じます。

限定社員は「スキルを高める機会」が少ない

メディアの話でつい長くなりましたが、ここから転勤問題について考えてみたいのです。まず、そもそも日本の会社では、転勤やジョブローテーションが頻繁すぎる面があると思います。人を動かすのはコストですから、本当に必要な転勤なのか、もう少し見直す余地もあるのではないでしょうか。

とはいえ、そうすると不本意なところに配属になった人、配属先の人間関係に悩んでいる人がなかなか抜け出せないなど、ジョブローテーションのいい部分も失われてしまう可能性はあると思います。ある程度転勤やジョブローテーションが頻繁な中では、社員全員の個別の事情に配慮していられないというのも会社側の本音だと思います。

そこで出てくるのが、昨今話題になっている「限定正社員」です。転勤の場合は「私はこの地域でずっと働きたい」と宣言する「地域限定正社員」ですが、これらは転勤問題の解になるでしょうか。

総合職とは給与面などで差がつけられている場合が多いですが、「いつ転勤を命じられてもどこにでも行けます」という総合職はそれなりの負担を飲んでいるわけですから、多少の処遇の差があるのも合理的だと思います。

ただ、問題はあります。仕事の量や質は同じなのに、それだけで給与体系や、得られる成長機会なども非限定社員に比べかなり限られてしまう事例も多いのです。先日登壇させていただいたRIETIのシンポジウムで、慶應義塾大学の鶴光太郎先生が興味深いデータを紹介していました。

働く人への調査で「スキルを高める機会」があると、仕事や生活の満足度が高まるそうなのですが、限定正社員(すでに導入されている一般職など)では、その「スキルを高める機会」が少ないというのです。

色々な制約があってなお「やりがい」をもって働きたいというのは、とかくワガママと受け取られがちですが、私は『「育休世代」のジレンマ』でこの「やりがい」が失われてしまうと、結局は「子どもを預けてまで働く意味を感じない」など就労継続自体の意欲を失わせることにつながると指摘してきました。

最近になって「やりがい」の要素が女性の就労に大きく影響していることを指摘する研究や調査も増えてきました。仕事はそもそも生活のためのもので、「やりがい」があるかないかで就労するかどうかを選ぶのは高所得世帯の道楽のように見えるかもしれませんが、高所得でもそうでなくても、家事育児といった家庭でのケア責任を抱えている人にとって、そのケアを誰かに委託して働くのはコストがかかることで、一種の投資なのです。それをしてでも働きたいと思う、心理的な意味も含めた「効用」は働き続けるうえで重要です。

限定正社員が、こうした「スキルを高められる機会」のような「やりがい」の意味でも均等な待遇を得られることできればライフステージにより限定を解くこともできるような柔軟な選択ができる制度になっていくと、家庭とのバランスはとりやすくなりそうです。

男性が選べること

前回記事との関連で言えば、女性だけではなく、男性がこうした制度を使えるようになっていくことが非常に重要だと思います。多くの企業で、限定正社員職を選んでいるのはほとんど女性です。

企業側は「男女問わず募集しているのですが、ほとんど女性しかこないんですよ」と言いますが、新卒採用のパンフレットにある一般職や地域限定職のページには女性の先輩しか出てこない、その職種について女子学生向けセミナーでしか説明しないという対応をしていては当然の流れだと思います。

男性にはある意味、限定正社員という選択肢はなく、正社員または非正規社員という極端な2つから選ばされているという面もあると思います。限定正社員の制度を設けている企業で起こりがちなのは、「限定正社員っていう制度があるのに、わざわざ総合職を選んでるんだったら、総合職を選んでいる限りはフルコミットしてね」と、主に男性の総合職がますます酷使されるケース。

夫がそういう企業で長時間労働、転勤も頻繁、妻は限定正社員でそれに合わせようとする……という形だと、結局夫婦の役割分担は固定化しますし、企業内でも女性の活躍は増えていかないでしょう。

また、就職時に選んだコースで一生固定されるのではなく、時期によって変えられることも重要です。総合職と一般職で言えば、「転換制度」を導入する企業は増えているものの、企業にとって都合のいい転換だけ認めているように見えるケースもありますし、実際に選ぶ人は少ないというケースも多いです。

多様な雇用形態が出てくると企業の人事管理上も複雑になってしまうという事情があるのかもしれません。でも、同一労働同一賃金を実現している組織で、雇用形態に限らずスキルアップをすることができ、それを評価できる仕組みがあれば、本来は能力や成果だけを見ればいいはずです。

ザ・年功序列の企業は減ってきているとは思いますが、勤続年数や雇用形態に関わらず、その人の仕事をどう評価をどうするのかということを明示化していくことが解決策のひとつとなりそうです。

次回は、こうした問題に先進企業がどのように対応しているのかという事例のご紹介とともに、もうひとつの転勤問題、「配偶者の転勤についていくのか?」という問題について取り上げたいと思います。