総合「マイナンバー商戦」はここまで沸騰している 個人番号の通知まで、あと1カ月半
国民一人ひとりに異なる個人番号が付与され、社会保障、税、災害対策の行政手続きで利用される、「マイナンバー制度」。

今年10月から個人番号が通知され、2016年1月からは企業が従業員の源泉徴収票を作成する際にマイナンバーを記入する必要が生じるなど、さまざまな場面で運用が始まる予定だ。国や地方自治体のシステム改修はほぼ終了しており、これからは民間企業の対応が本格化する。
とはいえ、ベネッセコーポレーションの顧客情報漏洩事件を例に挙げるまでもなく、マイナンバーが漏洩した際の痛手は甚大である。また、故意に情報を漏らすと懲役4年以下、もしくは罰金200万円以下の刑事罰が科せられる。企業としては、マイナンバーを扱う担当者を明確にする必要があり、当該者には重圧がのしかかる。
市場規模は1兆円とも
そこでにわかに盛り上がり始めているのが、マイナンバーの関連ビジネスだ。たとえばNECは、昨年12月から企業向けセミナーを70回以上開催。会場はつねに超満員で、個別でも150社以上に説明会を実施してきた「市場規模は官民合計で1兆円程度。このうち6~7割を民間が占める」と、富士通総研の榎並利博・主席研究員は分析する。
しかも、マイナンバーは今後、法改正により民間でも活用できる可能性が広がっていく“変化する制度”だ。銀行預金口座や医療情報をマイナンバーに「ひも付け」する案も検討されており、将来的には市場規模がさらに拡大すると見る向きは多い。
企業側の実務において最初の関門となるのが、従業員とその家族のマイナンバーを収集する作業だろう。
野村総合研究所は、マイナンバーの収集代行ビジネスに力を入れる一社だ。同社は2014年1月のNISA(少額投資非課税制度)導入のときに、口座開設の代行を金融機関から受託。そのときのノウハウをマイナンバー収集にも生かせると考えている。
収集方法は、マイナンバーを郵送してもらい、それを機械で読み取るというもの。NISA導入の際には、本人確認のための書類不備の割合が10%超に上った。システム上ですべての作業を完結できれば効率的だが、結局は督促などの人的作業が必要となるため、今回も人海戦術を採る。
NISAの場合は、数カ月で300万口座分の本人確認を行った。「今回は、それをはるかに上回る数をこなすことになる」と、渋谷直人・新事業企画室長は想定する。自社だけでは人手不足となるのは必至と考えており、大日本印刷やもしもしホットラインなどと提携し、今から人手確保に奔走している。
管理業務にも大きな商機
収集が終わってからも、企業側には、マイナンバーの管理に高度なセキュリティが求められる。国のガイドラインは、情報を管理する区域を設けて入退室管理システムを設置するなどの対応例を挙げている。だが、社内に余剰スペースがない、といったケースも考えられよう。
そこでマイナンバー管理業務の受託に商機を見いだす企業も増えている。
日立製作所は、顧客企業の従業員とその家族も含め、マイナンバーの収集から管理まで、一括して請け負うサービスを始めた。5000人程度の情報を任せるケースでは、料金は初期費用が約600万円、年間の委託料が約400万円。同社はこのワンストップサービスで、2018年度末までに累計200億円程度の売り上げを計画している。
「最初は内製化を試みる企業が多いだろうが、情報漏洩のリスクを考えると、アルバイトを雇うこともできない。すぐに大変だと気づくのではないか」(日立担当者)
このサービスを始めるに当たって、日立は隔離された作業部屋を用意し、IDカードで作業者の入退室を制限。監視カメラを設置し、どのような操作をしたか記録するなどの対応を取っている。サイバー攻撃対策として、システムはインターネットにつながらないようにもしている。
派生ビジネスも続々と
マイナンバーは、アルバイトや自社外の個人事業主への給与・報酬支払いに際しても、提供してもらう必要がある。そのため、アルバイトの出入りが激しいコンビニや外食産業、多くの出演者を使って番組を制作するテレビ局、外部のライターに原稿執筆を依頼する出版社などでは、作業が煩雑となり、外注ニーズも高まるとみられる。
ただ、自社の社員とその家族以外のマイナンバーまで収集・管理するとなると、対応プロセスはさらに複雑化する。そこで派生ビジネスも続々出てきている。
富士通は、業務プロセスの見直しや情報セキュリティ規定の策定など、コンサルティングサービスを実施。システム担当者だけではなく、一般社員向けにもマイナンバー制度の教育事業を行う。
また、東証マザーズ上場のITbookは、数種類ある企業のサービスの中から、どれがその企業に本当に適しているかなどを、月300万~400万円で助言するサービスを展開している。
一般的に、日本の経営者はこれまで、直接利益を生みにくいセキュリティシステムへの投資に関心が薄い、といわれてきた。しかし、国策によりいやが応にも踏み込んだ対応が求められることで、意識改革が促されそうだ。
「ずっと付き合ってきたシステム業者のマイナンバー対応に不満を感じた会社が、当社に相談を持ち込んできた例もある」と打ち明けるのは、野村総研の渋谷氏。これまでのなれ合いの関係に変化が見られるとも指摘する。
マイナンバー導入を機に、システム全体の見直しにまで着手する企業が出てくれば、ベンダーの勢力図が変わる可能性もありそうだ。