「バブル入社組、どいてくれませんか?」 危機感が若手の連帯を生む

総合「バブル入社組、どいてくれませんか?」 危機感が若手の連帯を生む

日経ビジネス8月3日号の特集「社畜卒業宣言」では、会社に忠誠を誓う代わりに雇用を守る暗黙の「契約」を反故にし始めた企業の実態と、それによって、居場所をなくし始めたバブル入社組の姿を描き、その先にあるべき未来の雇用のあり方を探った。

この特集の連動企画である本連載の3回目では、バブル入社組に続いて試練に直面することになる下の世代に焦点を当てる。就職氷河期に入社した富士ゼロックスの同世代の社員が、自分の担当領域という殻に閉じこもるバブル入社組を反面教師にしながら、会社の既存の仕組みから飛び出し、会社を巻き込んで新しい働き方を模索している動きを紹介する。

「正直に言うと、『おっさん、ちょっと邪魔なんですけど』って思っていました」。富士ゼロックスの若手社員有志である「秘密結社わるだ組」。中心メンバーである大川陽介氏(34歳)は率直にこう言う。

2012年のことだ。大川氏は仕事がつまらなくなっていた。30歳を過ぎて、上から指示された仕事だけではなく、自分のアイデアを実際に仕事にできるようになる時期。本来であれば、モチベーションが高まってもおかしくない。

しかしそこで、「自分が非常に狭い範囲でしか物事を見ていないことに気づいてしまった。自分の部署に与えられた範囲の中のみでアイデアを考える。それで仕事が回ってしまう。30歳を超えて、自分はこれでいいのかと考え込んでしまった」(大川氏)。

企画を上司に通し、さらに上、さらに上へと通していく大企業にありがちの仕組みにも嫌悪感を覚えた。「今はそうは思わないけど、当時は上司や先輩たちが自分の仕事を邪魔しているように思えた。縦のラインばかり気にしているのが嫌だった」と大川氏は言う。

同じ頃、大川氏の同期である安田勇大氏も同じような悩みを抱えていた。

「機能分化して自分の担当領域を徹底的に考え抜く。組織の姿として間違っていないのかもしれないが、それが滑稽に見えてしまった。『それって楽しくないでしょ』って」

2人のほかに社内の有志数人が集まり、「わるだ組」が生まれた。

3年間で70回のイベントを開催

わるだ組がどんな組織なのかを説明するのは難しい。ある時はイベントを開催して社内外から100人以上を動員し、ある時は「社内にこんな人いませんか?」という問いに答える人材紹介所になる。また、ある時はバーベーキューで盛り上がる。営業系社員と技術系社員が本気でお互いの不平・不満をぶつけ合う公開ファイトも企画している。

社内外にその名が知られるようになったのは、2014年夏に富士ゼロックスが主催した「触覚ハッカソン(ショッカソン)」というイベントがきっかけ。裏方として、わるだ組が企画・運営すべてを担った。「ハッカソン」とは、プログラム開発を意味する「ハック」と「マラソン」を組み合わせた造語で、クリエーターがチームを作り、ある課題に対応するソフトを決められた時間内に開発するイベントを指す。

2014年夏に開いた触覚ハッカソンの様子

富士ゼロックスが開発したパソコンのディスプレーに表示されたモノの凹凸感や重量感などが指先に伝わる「触覚マウス」など、自社、他社を問わず最先端の「触覚機器」を並べ、それらの最新機器にどんな活用法があるのかを競い合った。大賞に選ばれたのは、バーチャルリアリティーでアニメキャラクターの歯磨き体験ができるサービスを考案したチームだった。

触覚ハッカソンに代表されるように、わるだ組の活動は即、会社の新規事業につながるような活動ではない。システムエンジニア経験が長い安田氏は、活動をコンピューターの基本ソフト(OS)になぞらえる。

会社の一つひとつの事業がコンピューター上で作動するアプリケーションであるとすると、そのコンピューター自体が正常に、スムーズに機能しなければアプリケーションの動作も遅くなる。OSは人間関係であり楽しさ、社員のモチベーションに相当する。それらをボトムアップ的に向上させるのが、わるだ組の目的である。

「おっさん」もいつの間にか仲間に

こうしたわるだ組の活動が面白いのは、若手有志だけで当初立ち上げたグループに、40歳以上の先輩社員も加わるようになってきたことだ。

社内の眠っている技術の発掘や人材の紹介…。ハッカソンの開催で社内外100人以上の動員を重ねるうちに、社内の先輩社員が次々に協力してくれるようになったのだ。

30代後半から40代のメンバーも増えてきた

以降、わるだ組は若手有志の組織ではなくなった。「気持ちが」若ければ誰でも参加できる。現在は社外にも開放していて、会員数は約400人まで増えた。ハウス食品など他社とのコラボレーションイベントも積極的に実施している。

取材の最後に、大川氏に「社畜」について聞いてみた。

「わるだ組をなんでやっているかというと、やっぱり会社が好きだから。でも、自分を社畜だとは思わない。社畜ってのは主従の関係。僕は会社をパートナーだと思っています」

社畜からの卒業とは、会社を嫌いになることでも会社に愛想を尽かすことでもない。自分と会社との関係性を見直すことなのだ。