派遣事業者の激減は不可避?特定労働者派遣廃止で業界再編待ったなし

派遣派遣事業者の激減は不可避?特定労働者派遣廃止で業界再編待ったなし

「派遣事業者の数は、かなり減るはずだ」。日本マイクロソフトで人事部長を務め、現在は企業向けに人事制度の設計支援などを手掛けるピー・エム・ピーの鈴木雅一代表取締役は、こう語る。

2015年6月19日、改正労働者派遣法案が衆議院で可決された。同じ労働ならば同じ賃金を払うという「同一労働・同一賃金」の推進を目指す法案も、セットで衆院を通過。政府・与党は、6月24日までだった今国会の会期を95日間延長しており、参議院を通過して両法案が成立する公算は大きい。

改正派遣法は過去に二度、廃案に追い込まれ、施行のメドが立たない状況が続いた。だが、いよいよ企業や派遣技術者は本格的な対応を迫られる。

約3割のITベンダーが派遣事業の継続に危機

今回の派遣法改正は、規制緩和と規制強化という両方の側面を持つ。規制緩和の色彩が濃いのは、派遣社員の受け入れ期間の上限を事実上撤廃する内容だ(図1)。現行法では専門26業務を除いて、受け入れ期間の上限を3年としている。改正法では、企業は人を変えれば、同じ仕事を派遣社員に任せ続けられるようになる。

図1●派遣法改正に伴う受け入れ期間の変更内容

ただし、IT技術者の派遣は専門26業務として扱うことが多く、受け入れ期間の上限が元々存在しない。しかし、ほっとしている余裕はない。IT関係者は、規制強化の側面に目を向ける必要がある。

今回、明らかな規制強化に当たるのが、特定労働者派遣制度の廃止だ。今後は全ての派遣事業が、許認可制に一本化される。許認可の基準は、省令などで詳しく制定される見込みだが、現行法下でも許認可が必要な一般労働者派遣制度と同程度の内容を満たす必要が出てくる(図2)。

図2●特定労働者派遣と一般労働者派遣の資産要件
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この変更が、IT業界にもたらすインパクトは大きい。システム開発・運用の現場は、特定労働者派遣という“ゆるい”制度に立脚してきた部分が少なくないからだ。

IT技術者を常時雇用するITベンダーは、労働局に特定労働者派遣事業の届出が受理されれば即日、技術者派遣が可能になる。そのため、受託プロジェクトの波によって生じた余剰人員を他社に派遣する、といったITベンダーは珍しくない。

厚生労働省が調査した2011年6月時点のデータによると、「ソフトウエア開発」に携わる派遣技術者約10万人のうち、特定労働者派遣は約6割を占める。システム保守や運用を含めると、割合はさらに高まると見られる。ある大手ITベンダーの購買担当者は、「自社で受け入れている派遣技術者の約9割が、特定労働者派遣だ」と明かす。

特定労働者派遣事業を営むIT企業が、新たに許認可を取得するのは簡単ではない。シンプルかつ高い壁になるのが、資産要件だ。現行法下の一般労働者派遣の許可要件では、1事業所につき「純資産が2000万円以上あること」「事業資金として現金・預金が1500万円以上あること」としている。

IT業界向けに、派遣事業の支援機能などを備えたERP(統合基幹業務システム)パッケージやSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を手掛けるビーブレイクシステムズの高橋明取締役は、「派遣事業を手掛けるIT企業の約3割が、事業継続が厳しい規模ではないか」とみる。

ITベンダーによる派遣事業の継続を難しくするのは、許認可制への一本化だけではない。派遣法の改正に当たり、「キャリアアップ措置」の義務化が新たに追加される予定だ。具体的な内容は、省令・指針の制定を待たなければならないが、「内容次第では、大きな負担を強いられるかもしれない」と、高橋取締役は指摘する。

増えるSES契約、偽装請負を防ぐ万全の体制を

特定労働者派遣制度の廃止を受けて、今後は二つのシナリオが同時並行で進むと考えられる。

一つは、業界再編である。大手の派遣事業者が、企業体力に乏しい小規模事業者を吸収していく。「大手といえど、派遣事業は決して粗利の大きいビジネスではない。キャリアアップ措置の義務化などで教育投資が増えれば、利益は圧縮される。その分、派遣の人材数を増やす方針を採るだろう」と、鈴木氏は説明する。

もう一つは、委任型の契約形態、いわゆるシステムエンジニアリングサービス(SES)の増加だ。鈴木氏は、「事業継続が困難な特定労働者派遣事業者は、請負業務への転換を図るのも一つの手だ」と話す。

しかし、単に契約形態を派遣からSESに切り替えるだけでは、偽装請負に当たる可能性がある。指揮命令系統を明確に分けることが不可欠だ(図3)。特に注意すべきは、「保守・運用業務だ」と、鈴木氏は指摘する。システム障害などの緊急時など、指揮命令系統が混乱しやすいからだ。

図3●派遣契約と委任型契約との違い
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法改正後は、労働局などの取り締まりが厳しくなる公算が大きい。「どこから見ても、偽装請負とみなされないように、万全の体制にしておく必要がある」(鈴木氏)。

特定派遣の廃止には3年の経過措置

派遣法改正が濃厚になり、企業による対策が活発になりつつある。派遣事業の支援機能を搭載したIT業界向けのERP「MA-EYES」を開発・販売するビーブレイクシステムズの高橋取締役は、「昨年の同時期に比べ、問い合わせの件数はおよそ2倍に増えている」と語る。

同社は改正派遣法の施行日までに、MA-EYESの改修を終えたい考えだ。例えば、キャリアアップ措置の義務化対応として、研修履歴の管理機能などを盛り込む可能性があるという。

厚労省は、特定労働者派遣事業制度の廃止から3年間は、経過措置を講じる見込みだ。「施行当初は様子見とし、情報収集に努めるというスタンスの企業が多いだろう」と、高橋取締役は見る。

2回目は、派遣法改正のもう一つの柱である「専門26業務の撤廃」の影響を探る。