総合1倍超えの求人倍率が示す「人手不足」は本物か?
ついこの間まで就職氷河期と言われていた雇用情勢が、このところ「人手不足」へと様変わりする展開となってきた。
全国の有効求人倍率は、2014年11月以来1倍を超え(求人数が求職数を上回る状況)、本年5月には1.19倍と23年2か月ぶりの高水準となった(季節調整値、厚生労働省6月26日発表)。
あと30年もすれば人口が1億人を割るという長期予測の世界では、成長のための労働力はいずれ外国人移民に頼らざるをえないとの見方もある。リーマン・ショック以来の需要低迷によって覆い隠されてきたこの「長期的懸念」が、いよいよその本性を見せ始めたということだろうか。
しかし、そう判断するのは時期尚早だろう。現在のところ、人手不足の業種や職種はまだまだ限られおり、大都市圏以外では、職探しに苦労する地域も少なくはない。有効求人倍率の水準自体も、外国人出稼ぎ労働者が万人単位で押し寄せたバブル絶頂期の1.4倍にはほど遠い。まだまだ「普遍的」人手不足の域には至っていないとみるべきだろう。
「人手不足」が深刻なのはどこ?
本年5月の求人倍率を職業別に比べてみよう(全国平均と異なる季節調整前の原数値)。
1.5倍を超える分野をピックアップすると、情報処理・通信・医療等の「専門的・技術的職業」(1.52)、家庭生活支援・介護・接客・給仕等を中心とする「サービスの職業」(2.24)、自動車運転士を主体とする「輸送・機械運転の職業」(1.80)、建設・電気工事・土木等を含む「建設・採掘の職業」(2.59)といったところが注目される。
求人数の増加は、パートタイムなどの非正規雇用が中心となっている。5月の有効求人数の前年同月比は、パートで4.2%増、パート以外では0.9%減と対照的な数値だ。正社員不足が目立つのは、情報サービス、建設、小売りなど。他方、パート不足は飲食店、旅館・ホテル、飲食料品小売りあたりで厳しいと言われる。また、男女別では、女性の求職環境改善がとりわけ顕著だ。
一方で、求人倍率が低水準のままにとどまっている職業としては、「事務的職業」(5月0.30倍)が代表的になる。地域別にみると、北海道、青森、高知、鹿児島、沖縄といった遠隔道県のみならず、神奈川、山梨、兵庫、奈良など大都市縁辺県でもまだ1倍水準を回復していないところが見うけられる。
人手不足に関する企業側の見方も、求人倍率のデータをほぼ裏づけるものとなっている。帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」(2015.2.23発表)によれば、有効回答企業約1万社(9地域、10業界、51業種)のうち約4割が正社員の不足感を抱いている。
とりわけ「情報サービス」では6割近い企業で人手が足りていないとされるほか、「建設」「医薬品・日用雑貨品小売」「放送」「旅館・ホテル」などでも人手不足感が強い。また、「飲食店」や「旅館・ホテル」などでは、非正社員の不足感も高水準となっている。
人手不足の原因と対処法
長期的に予想される本格的な労働力不足の基本的背景は、若年を中心とする人口の縮小、労働参加率の低下である。これに対しては、いわゆる「少子化対策」や主婦層・定年後の高齢者層を狙った労働参加促進策、さらには外国人移民の受け入れ対策など、政府主導の各種対策が必要とされている。
しかし、現時点での「人手不足」は、先に見たとおり、特定分野に限られた非マクロ現象だ。経済学の視点からすれば、労働市場での各種調整メカニズムが一定の時間をかけて解消してゆくべき「一時的不均衡」とみるべきだろう。
外食チェーンや各種小売業など人手不足が目立っている分野に典型的な特徴として、安売り競争下での生産性の伸び悩みを、相対的な低賃金、長い残業、非正規労働者への依存など「ローコスト・オペレーション」の手法で補ってきた点が挙げられる。「ブラック企業」はその極端な一形態と言えるかもしれない。
このところ大企業中心に賃上げの動きが見え始め、2013年の民間給与は3年ぶりに増加となったものの、正規―非正規の差は拡大した。求人の伸びも、先に見たとおり「非正規」主導が続いている。
人手不足に悩む企業がまず心すべきは、賃金・労働条件などの適正化に努めること。そしてより基本的には、そのための基礎となる生産性の向上を図ることだろう。それができない企業・業種は、人手の争奪戦に敗れて退出または縮小を余儀なくされ、そこから流出する労働力が真に人手を活かせる分野に移動する。
その結果、経済全体としての人手不足が緩和され、同時に生産性が向上してゆくことを期待すべきだろう。