求人業界のGoogleに――ビズリーチ社長 南 壮一郎 氏に聞く「スタンバイ」の志

総合求人業界のGoogleに――ビズリーチ社長 南 壮一郎 氏に聞く「スタンバイ」の志

日本の採用活動を変えてゆく――それを、まさしく有言実行している人物がいる。ビズリーチ社長、南 壮一郎 氏だ。創業から6年間で従業員数500人超という急成長を続ける同社は5月26日、完全無料のクラウド型採用サービス「スタンバイ」の提供を開始した。なぜ有料のサービスを手がける同社が、無料サービスを展開するのか。世界経済フォーラム(ダボス会議)の「ヤング・グローバル・リーダーズ2014」にも選ばれている同氏に、話をうかがった。

photoビズリーチ 代表取締役社長
南 壮一郎 氏

自身の転職経験をきっかけに創業

――まずは、これまでのご経歴を教えて下さい。

南氏:アメリカのタフツ大学を卒業し、モルガン・スタンレー証券に入りM&Aアドバイザリー業務に携わりました。2004年には楽天イーグルスの創業メンバーとして、球団の立ち上げを手掛けました。ビズリーチ創業は6年前のことです。企業の中核を担う人材採用に特化した会員制転職サイト「ビズリーチ」、20代を中心とした若手ポテンシャル人材向け転職サイト「キャリアトレック」などを作って来ました。

インターネットの力を使って「街」を作りたいというイメージがあり、これまでさまざま試してきた中でようやく、「働く」「雇用」に注力してやっていこうというテーマが決まりました。まだまだスタート地点で、これから腰を据えて「街」づくりをしていきます。

――起業したいという動機がいつも、あるのですね。

南氏:そうでもありません。経営者、起業家を志すのはすばらしいことと思いますが、私に関する限り、そういった願望はありません。ビズリーチも、私自身が転職活動をして不便を感じたゆえに始めたことで、結果的に経営者になっているだけと思っています。

ただ、新しいことを世の中に放つ面白さは、楽天イーグルス時代に強烈に味わいました。球団創設の当初、三木谷社長は、野球を通じて多くの人に夢と感動を与える、と壮大なビジョンを語りました。金融業界出身の当時の私は、そういう発想にあまり触れたことがなく、最初は理解できていなかったのですが、今や楽天イーグルスは三木谷社長のビジョン通りに、堂々たる存在です。それで、大きな志というものの意義も納得するようになりました。大きな志とは、社会的課題を解決しようとする意識に裏打ちされたものだと思います。

――社会的課題といえば、ご自身の転職活動において不便を感じられたとのことでした。

南氏:当時、転職活動のやり方がよく分からず周りに聞いてみると、人材紹介会社を使うのがいいと聞き、1ヶ月間に27社、回ってみました。すると、27社とも違う求人案件を紹介して来たのです。ならば50社を回れば50の選択肢が出て来るでしょう。人生の大切な決断に当たり、全ての選択肢を見るためには何社回ればいいのだろう、と感じました。

業界について調べてみたところ、人を採用したい企業と仕事を探したい個人との間に情報の壁があるのだ、ということがわかり、これは直したほうがいいと考え始めました。個人と企業のコミュニケーションが、より可視化され、より自由になり、より公平中立になれば世の中は良くなる、という思いが我々の理念、働き方×ITというものの起点です。

日本の採用、海外の採用

――今の求人業界の動向はいかがですか。海外に比べて日本は遅れている、といったようなことは思われますか?

南氏:ある世界的大手の人材会社による調査で、世界中の約4万社を調べ、国ごとの「採用の難しさ」を出したデータがあります。日本が圧倒的1位でした。日本は世界一採用が難しい国だというのです。また最近、中小企業庁から出された中小企業白書によると、4割近い中小企業が「必要な人材を採用できていない」と回答しています。そして、採用できていないと答えたうちの56%が、「採用できないのは採用コストが高いから」と答えています。

採用コストが高いとは何のことかと言えば、まず求人広告です。日本の求人サイトの広告掲載費は、正社員採用の場合、1掲載当たり数十万円、時には百万円ほどになります。ところが海外では、数万円です。その良し悪しを申したいのではなく、端的に事実として、日本の求人広告は高いのです。

――その差はどんな理由から来るのでしょう?

南氏:それは、企業努力の賜物です。紙媒体で強かった企業がネットでも非常に努力して成功したゆえに、昔からの値段が維持されたのです。しかし海外では、ネットになったら値段が8割も9割も下がりました。求人情報の内容を企業自身が作り、アップロードすれば済んでしまうからです。その内容を媒体にも出したければ数万円の掲載料を払うだけのことです。インターネットの特性とは、簡単に、素早く、自分で何事もできる、ということで、その特性を活かしています。

対して日本では、全てを人材会社にお任せ、というのが基本的な姿勢で、毎回発注して、立派な広告を作り込んでゆくという考えの企業が多いようです。コストのかけ方における姿勢の差ですね。

主体的に採用に取り組むこと

――では、日本企業は採用活動をどうすべきだとお考えですか?

南氏:主体性を持って採用活動に取り組むことだと思います。求人情報の、作れる部分を自分で作るのです。採用に強い企業、弱い企業の差とは、主体性の差ではないでしょうか。

採用の重要性は誰もが認識しているはずですが、これまで人材会社に任せていたことを自分たちでやるとなると、手間がかかる、現場のルーチンを変えたくない、と思ってしまうのも仕方ありません。組織ですから、なかなか変わりにくいという面はあるでしょう。だからこそ経営者がコミットして引っ張って行くべきで、やってみればじつに単純明快な業務フローであることが分かると思います。

マーケティング、商品開発、営業、それならば誰もが真剣に差別化しようとします。にもかかわらず、採用となるとたちまち横一列で、同じ媒体に広告を出し、同じエージェントにお願いし、集まって来た中から選ぶ…というのでは工夫がありません。採用についても、企業自身が考えて差別化し、そのために役立つIT技術はどんどん使えばいいと思います。

ダイレクト・リクルーティングは理の当然

――人材採用戦略の差別化のための、優秀な人材が足りない、という声もありそうです。

南氏:優秀な人が来てくれればなあ、とつい言いたくなるものですが、ではそれをどう実現するかということです。優秀な人を採るためには、まずはとにかく、大勢の優秀そうな人たちに興味を持ってもらうことです。あちらから応募して来るか、こちらから声を掛けるか、それはどちらでも構わないのですから、声を掛けてゆくべきです。

世界的に有名な会社ならば応募は来るでしょうし、予算が潤沢にあり求人広告の一番いい枠を取れているのなら横一例で広告するのも結構でしょう。しかし、そういう状態でないなら、工夫するしかありません。うちに優秀な人が来ない、うちのすばらしい商品が売れない、それは同じことです。どうしたらより多くの人、自分たちが求める人への効果的な発信ができるか、成約率を上げる工夫をしているか、ということが重要なのです。

――御社の「ダイレクト・リクルーティング」は、そうした発想に根差しているのですね。

南氏:企業が主体的に採用活動を行うことが、ダイレクト・リクルーティングです。その一つとして、職務経歴書のデータベースに自由にアクセスできて、企業が欲しい人全員に無制限に声を掛けられるツールがアメリカやヨーロッパ、アジアでは当たり前のように活用されており、むしろ、それをやらないと人が採れません。しかし日本には今まで、ダイレクト・リクルーティングを実行できるサービスがあまりなく、サービスがないからそうした発想も広まっていないという状況です。日本の採用のあり方を変えたい、と我々は志し、ダイレクト・リクルーティングができるサービスを提供しています。

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競合対象は「文化」である

――創業から6年で従業員が500人を超えるという急成長です。御社の強みは、どの辺りにあるとお考えですか。

南氏:多くの人材企業さんは元々、紙媒体の広告の営業・制作・販売会社として始まっているのに対し、我々は創業時からインターネット企業です。そのため弊社にはエンジニアとデザイナーが多く、全体の約25%を占めています。あえて強みといえばそこでしょうか。

早く、多く、安く、情報を流すITツールを使って課題を解決して行こう、というミッションを掲げて取り組んでいます。情報がスムーズに流れないゆえに企業も求職者も損をしているという認識のもと、業界全体が活性化していくよう力を注いで行きたいと考えています。

――ダイレクト・リクルーティングの競合がまだ少ない、ということもあるのでしょうか。

南氏:競合という意味では、最も手強い競合は、日本における採用の文化です。思えば楽天イーグルスのときも、文化を相手にしていたと言えます。野球の業界は「球界」というくらいで特殊な常識があった世界であり、新規参入における競合とは、球界そのものでした。

IT技術で明らかに業務が効率化していると誰もが感じている中で、採用の世界はまだまだ変わっていません。企業と求職者が、職種、業種、雇用形態、地方か都市か、大企業か中小企業かという障壁なく、自由にやり取りできることが重要です。コストが高いせいで採用ができないと多くの中小企業が答えるのですから、コストもまた障壁です。この障壁なるものをなくすためにこそ、「スタンバイ」を立ち上げました。

課題解決の志で採用版Googleを作る

――それでは新サービス「スタンバイ」について教えて下さい。

南氏:スタンバイ」はクラウド型の採用サービスで、売りは二つあります。一つは、「無料」です。求人作成、求人掲載、応募の管理、最後に採用が成立したときの手数料、これらを全部無料にしてしまおうというわけです。もう一つの売りは、「簡単」です。企業側にしてみれば人員数は限られ、ITスキルに格差があり、となると、ともかく簡単に使えることが大切だと思っています。

この事業は志を持ってやっているつもりです。人材を採用できていない中小企業が4割あるというのならば、その課題を解決できれば、企業も個人もハッピーになれます。ビジネスモデル、マネタイズ、という話の前にまずは課題解決が重要だと考えています。

――ただ、収益面を全く無視するわけにも行きませんね。

南氏:当然それは考えています。収益モデルの要点は、求職者にとってのメリットです。どこで、何をやりたいか、ということさえ求職者が入力すれば、「スタンバイ」で作成された求人情報のみならず、インターネット上にある全ての求人情報の中から、検索一つで簡単に情報が手に入るようにしてゆきます。ですからこれは、Googleモデルと言っていいでしょう。Googleがどうやって商売を成り立たせているかといえば検索連動型の広告で、そして我々は、採用版のGoogleを作りに行っている、といえば分かりやすいでしょうか。

変わるか、変らされるか

――採用におけるIT活用術を、とにかく広めてゆくということですね。

南氏:我々は、6年前はたった2人でやっていたのが、毎年従業員が倍増し、今は520人ほどになりました。社員の8割をダイレクト・リクルーティングで採用しました。ITツールを自身で使ってこそのことです。利用価値の高いITツールは数多くあり、それを使いこなせるか、使ってやろうという意思があるかどうかです。

我々自身がダイレクト・リクルーティングで人を採れないのであれば、誰も見向きもしてくれません。効果があると言える実績を自分たちで挙げつつ、採用文化を広げる伝道師として、ダイレクト・リクルーティングを皆さんにお伝えしてゆきたいと考えています。

――それでは最後に、まとめとしてのメッセージをお聞かせ下さい。

南氏:これは私が身をもって理解してきたことですが、人が変わろうが変わるまいが、効率化、簡素化を求めて業務はどんどんIT化してゆきます。採用においても、基本的にはIT化が進んでゆくでしょう。積極的に新しいものを受け入れて変わる側になるのか、最後になって変わらざるを得ない側になるのか、そこは経営判断の領域で、企業によって事情が異なると思いますので正解はありませんが、採用のあり方が変わるということだけは確かだと思います。

日本の採用のあり方、大きく申せば、21世紀の新しい採用のやり方、働き方を創ってみたい。それが私の、ビズリーチという企業の大きな志です。

――ありがとうございました。