総合日本の会社には「適材適所」が足りない! 日本ハム・矢野選手の大ブレイクで考える
読売巨人(ジャイアンツ)から北海道日本ハム(ファイターズ)にトレードした矢野謙次選手をご存じですか?
レギュラーではありませんが、ジャイアンツでは代打の切り札、あるいは控え選手として活躍。打撃センスが抜群でヒットで後続につないだり、状況に応じてバントもエンドランもこなせる選手。まさに貴重なバイプレーヤー(脇役)です。
効果的な適材適所を実現したトレード
東京ドームで登場曲の「Jump(Van Halen)」が流れたときには、球場の雰囲気がガラリと変化。ファンとチームが一体となる盛り上がりを起こしたくらいです。そんな人気選手もこの数年は出番が激減。チーム内での若手の台頭や首脳陣との相性など、理由がいくつかあったのでしょう。
そこで、実績と経験を生かすべく移籍が実現。するとトレードで札幌に着任するなり大活躍。選手としての潜在力を示すことになりました。スポーツ紙は「効果的な選手の移籍」として高く評価するコメントを掲載。まさに適材適所を実現したトレードと評価されています。
ちなみに「適材適所」とは、伝統的な日本家屋や寺社などを建てる際の「仕事ぶり」を称える言葉が語源といいます。日本は豊富な森林に囲まれ、針葉樹・広葉樹と特徴の違う木材を調達することが可能です。たとえば、ケヤキは硬くて高価。杉は柔らかくて加工しやすい。ヒノキは繊密で独特な芳香。そこで土台や柱、床など場所によって、必要になる湿気対策や強度の違いに合わせて木材を使い分けて長持ちする建築物を作るのですが、そうした目利きができる職人に対して「適材適所」が効いている、といった意味で使われていました。
現在は、
を表す熟語として認知されています。みなさんも頻繁に耳にする言葉ではないでしょうか? たとえば、「Bさんが大阪に異動になったのは、まさに適材適所だね」と異動・配置の的確さを表す機会でよく使われます。そこで、仕事における適材適所について考えてみたいと思います。
ここで適材適所が実現した事例をひとつ紹介しましょう。
取材した専門商社に業績が著しく悪い営業マンがいました。入社12年目のDさん。取引先からのクレームも多く、職場内での信頼も高くはありませんでした。こうした部下に対して通常の上司なら「ダメ出し」をしてしまいがち。ところが上司のSさんは違っていました。Dさんの過去の仕事ぶりが社内で平均以上であったこと、また、前任の上司に聞いてみても評価が高いことを把握していたので、
と判断。そこで
「東京よりも関西のノリで仕事できる部署に適している」
と人事部にDさんの異動と配属先を直談判。ちなみにDさんは関西生まれで明るい性格だが、「許容力」「分析力」がやや低いタイプ。東京本社の堅苦しい雰囲気にのまれて、自分らしさを見失っていたようです。
これに対して人事部が動き、Dさんは関西の営業に異動。すると水を得た魚のように大活躍したというのです。ちなみに、今回の件で得したのは誰か? 移動したDさんよりも、うまく采配した上司のSさんのほうでしょう。
「Sさんには人を見る目がある」
と社内で評判に。人を見る目があると思われることは、「よい組織を作れる」資質を備えているのとイコールのようなもの。このように社内で認知される機会になったようです。
それだけが理由ではありませんが、その後、Sさんは部長に昇進。部下の適材適所を実行することがキャリアアップにつながったのです。
ならば、Sさんのように適材適所の推進を誰もがすればいい、と言いたくなるところですが、これがそう簡単なことではありません。現実の職場ではいくつもの障害が潜んでいます。
どうしたら適材適所な異動・配置が実現できるか?
異動・配置で「動く(異動する)」社員たちとは
・現部署を出て(out)
・新部署に入る(in)
わけですが、会社がそれを行う目的は大きく2つ。
そこで人事配置先で求められる「役割」とマッチした人材の異動であること。たとえば、新規事業開発の担当であれば発想力が必要。あるいは若手社員の多い部署であれば人材育成の能力を備えているべきでしょう。
加えて、配置先でかかわる関係者との「相性」がいい異動であるべき。上司のマネジメントスタイルや職場の雰囲気が合うことでモチベーションが高まり、成果が変わる人は少なくないからです。
こう考えると、適材適所の実現は簡単ではありません。それなりに前提条件をそろえる努力が必要なことがわかります。具体的には、人事異動を俯瞰してケアする立場の存在が必要です。
ところが、大抵の職場で上司は移動前と移動後、両方の職場には関与できません。「●●君はうちの部署に合わない」と異動させることはできても、そのあとの異動先まで面倒をみるのは越権行為のようなもの。異動・配置に関して、上司は意外と無力なのです。
ならば社員の適材適所をケアできるのは、人事部しかありません。ところが、人事部が人事異動に関与できていない会社が実は少なくありません。事業部門の異動・配置の権限が確立しており、人事部を飛ばして「相対」で行われるケースが非常に多いのです。
適材適所を考えて異動を提言できる存在が必要
取材した不動産仲介会社では、社員の異動や配置は部長クラスの個別交渉で決まっていました。年度末が迫り、翌年度の組織づくりの時期になると部長同士が携帯で連絡を取り
「君の部署のS君をうちの部署にくれないか? 代わりに、G君をおたくに異動させるから」
と個別交渉が成立すると、その結果を人事部に報告。人事部は部長から聞いた異動情報を整理して反映させた組織図を作るという役割になっていました。適材適所どころか利害関係の落としどころだけで異動・配置が決まる会社。このような組織に勤務している社員たちは
「人事部に相談しても無意味。社内で力のある役員・部長に好かれる努力をしなければ生き残れない」
と殺伐とした雰囲気になってしまうことでしょう。自分の将来は自分でしか切り開けない……といった境地かもしれません。
もちろん、会社の人事にはさまざまな利害が関与することは否定しません。ただ、それでも適材適所を考えて、異動・配置を提言できる存在がいてほしいもの。
願わくば人事部に。あるいはSさんのように判断できる上司が存在すれば、社員が救われます。会社の将来まで明るく思えるかもしれません。
最後に、矢野選手の活躍を考えると、適材適所のトレードを決断したジャイアンツ側の人は大いに評価されてしかるべきでしょう。「どうして、活躍できた選手をよそに移籍させんだ」なんて、批判してほしくはありませんよね。