女性の社会進出を支援する保育サービス、その現状と問題点

女性雇用女性の社会進出を支援する保育サービス、その現状と問題点

企業・業界分析プラットフォームの「SPEEDA」では、アナリストが業界リポートを提供している。SPEEDA総研では、マーケットに大きな影響を与えるトレンドやニュースをアナリストがピックアップし、定量・定性的な視点で詳説する。今回は、女性の社会進出を推進するために必要不可欠な保育施設・サービスの実態にフォーカス。公的データなどをもとにして現状を紐解く。

女性の社会進出を推進する安倍政権

安倍政権の経済政策は「三本の矢」と表現される。第1の矢である「金融政策」と第2の矢の「財政政策」はすでに実施されており、第3の矢「成長戦略」関連の施策も順次実行されている。そんな中、2013年4月に成長戦略の一環として掲げられたのが「女性の社会進出」だった。

成長戦略として、女性の社会進出がなぜ重要なのか。それを紐解くために、まずは人口動態と海外の動向をみていく。

生産年齢人口は2060年にほぼ半減

2010年から2060年の50年間の推移をみると、出生数は107万人から48万人(2010年比55%減)に減り、逆に、死亡数は120万人から154万人(同28%増)に増加する。

2060年の出生数:死亡数は1:3。人口の維持には、合計特殊出生率が2.08ほど必要と言われているが、2005年には過去最低の1.26まで落ち込んだ。2014年には若干の改善はみられたものの1.42しかない。

予測通りになれば、2060年に総人口は1億2806万人から8674万人(同32%減)、生産年齢人口は8103万人から4418万人(同45%減)に激減する。総人口より生産年齢人口の減少幅が大きく、働く力の確保は必要不可欠になる。だからこそ、女性の社会進出、女性の労働力を生かすための施策が急務なわけだ。
grp01_人口ピラミッド (1)

grp02_出生数と死亡数

日本は欧米より出産後の退職女性が多い

日本の女性の年齢別労働力率をみると、30歳代を底にしたM字カーブを描いている。背景にあるのは、結婚・出産・育児で仕事を辞める女性が多いこと。

たとえば、働く女性の約30%が結婚前後で仕事から離れ、約60%が第一子の出産前後で退職している。女性の社会進出と少子化は、隣り合わせであることがわかる。

一方、欧米の女性の年齢別労働力率をみると、M字カーブはほとんど見られない。結婚・出産・育児をしながら仕事をする女性が多いことがわかる。

ちなみに、女性の労働力率が高いスウェーデンと日本の年齢別労働力率を比較すると、30~34歳では16.8ポイント、35~39歳では19.1ポイントも差が開いている。

この理由は(1)夫など家族の家事・育児参加、(2)柔軟性のある職場環境、(3)保育所などの育児施設の充実、(4)育児休業しやすい法律の整備──など、複数の要素があるだろう。
grp03_女性の年齢別労働力率

世界に比べて女性の社会進出施策が遅れている日本だが、生産年齢人口が減少する中にあって、女性の就業者割合は増えている。1987年と2012年の雇用形態別・年齢階級別の女性の就業者割合を比較すると、全体的に就業率は上昇している。

ただ、雇用形態別に就業率をみると「正社員」の増加数よりも「パート・アルバイト」および「派遣社員・嘱託・その他」の増加数のほうが多い。20代に正社員だった女性は、結婚や出産を機に、パート・アルバイトや派遣社員などとして仕事をしていることがうかがえる。
grp04_雇用形態別年齢階級別女性の就業者割合

女性の就業率を、細分化してみてみる。3歳以下の子どもを持つ母親の就業率に絞り海外と比較。日本は29.8%で、経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の52.16%を大きく下回った(ともに2011年の数値)。

主因は、保育所の不足や核家族化により面倒をみる人がいなくなったこと。保育所を整備しただけでは、この差を埋めることはできないかもしれないが、労働力率の上昇や出生率低下に歯止めをかける一助となるはずだ。
grp05_子どもを持つ母親の就業率

保育所・幼稚園・認定こども園の違い

では、女性進出に必要な保育施設と保育関連サービスの状況はどうなっているのか。

まず、保育施設とサービスの種類について簡単に説明する。

各自治体には、国が認めた「認可保育所」と、国が認めていない「認可外保育所」がある。認可保育所は、自治体が運営する公立と、社会福祉法人などが運営する私立に細分化され、公立でも民営化によって運営は私立という公設民営型もある。

認可外保育所の中には、自治体の独自制度で認められたものもある。東京都の認証保育所や、横浜市が設定した基準を満たす横浜保育室はその代表例だろう。

このほかに、「認可幼稚園」や「認定こども園」という種類もある。認定こども園は、幼稚園と保育所の両方の機能を持っており、幼保連携型、幼稚園型、保育所型、地方裁量型の4タイプがある。

なお、幼保連携型認定こども園の設置主体は、国と自治体、学校法人、社会福祉法人だけで、株式会社は参入することができない。
grp06_保育サービス (1)

潜在的待機児童数は85万人以上

次に、保育サービスに関連するデータを見てみる。

認可保育所の定員数は、保育所利用児童数を上回っている(2014年4月1日現在)。待機児童数は年々減少しており、2014年に2万1000人となった。

しかし、国が発表している待機児童数には、自治体が補助金を出している認可外保育所で待機する場合や、保育所に入所できず親が育休中の場合、調査日時点で求職活動をしていない場合は対象から外れるケースが多い。

認可保育所に申し込む前に諦めた人数も含むと、潜在的待機児童数は85万人に上る(2009年時点)と厚生労働省は推計する。

総務省の労働力調査によると、25~44歳の働きたい女性は160万人以上。こうしたデータも踏まえて、潜在的待機児童数は85万人以上と予測したと考えられる。

なお、認可外保育施設(事業所内保育施設を除く)は7939カ所。利用児童数は20万3197人であるが、保育所利用児童数にも待機児童数にも含まれていない(2014年3月31日現在)。
grp07_保育序数の推移

3歳以上児は幼稚園に入園する児童が多いため、3歳未満児(0~2歳)の児童数に注目する。2014年の保育所利用児童は85万9000人、待機児童は1万8000人となり、合計で87万7000人となる。

3歳未満児の児童数が315万1000人(2013年10月1日時点)であるため、保育所に入所している、もしくは入所させたいと考えている人は3割に満たないことになる。

上述したように、出産している可能性が高い25~44歳の働きたい女性が160万人以上いることを考えると、この数値は低いと感じる。
grp08_就学前児童数

国も注力する保育サービス

1990年代は保育に関連する法律の制定が主だったが、2000年以降は待機児童が増加したことに対応するため、待機児童ゼロを目標とした政策が推進されている。

直近では、2015年4月に「子ども・子育て支援新制度」が開始。保育所整備のための追加財源の確保により、従来の保育所や幼稚園に加え、認定こども園を拡充する。

また、待機児童の多い0~2歳児を預かる「小規模保育」や「家庭的保育(保育ママ)」などの地域型保育も推進し、多様な保育の場の整備を支援する。さらに、民間企業が認可保育所運営に参入しやすいように規制緩和を行う。

これによって、2013~2014年度に20万人分、2015~2017年度までに20万人分、5年間で合計40万人分の保育の受け皿を確保する「待機児童解消加速化プラン」の達成を目指す。なお、2013~2014年度の保育拡大量の実績見込みは19万1000人だった。
grp09_政策動向

民間企業の認可保育所運営、認められるも拡大せず

国が認可保育所の数を増やせない理由には、国の予算不足や、少子化が進む中で将来待機児童が減少した場合のリスクなどが挙げられる。そこで、民間企業の登場となるのだが、1999年までは認可保育所の運営を認められていなかった。

2000年4月、小泉純一郎元首相が待機児童をゼロにすると宣言し、民間企業による認可保育所の運営がようやく認められた。同年、東京都が都民のニーズに対応した都独自の認証保育所制度を創設。

しかし、保育品質を問題に挙げて、自治体が民間企業を参入しづらくしており、民間企業が運営している認可保育所は、そのうちの1~2%程度にとどまる。

その背景には、かつて認可保育所を運営できたのは、社会福祉法人や自治体など限定されてきたことがあると考えられる。また、保育所は児童福祉施設であり児童福祉法が根底にあるため、利潤を追求し保育の質が落ちるという既成概念が根強く残っている。

現在も、国の方針に反し、いまだに認可保育所を認めない自治体がある。また、民間企業の認可保育所運営を認めても、補助金や運営費の額に差を付けている自治体も存在する。

進まない民間企業の参入

保育園の運営などで最大手であるJPホールディングスは、直営の保育園「アスク」などを運営している。

2001年12月から保育所を開設し、2009年3月末には54施設、2012年3月末には102施設、2015年3月末には146施設と順調に拡大している。ただし、保育所は全体で3万施設以上あるため、最大手でもシェアは1%に満たないのが現状である。
grp10_JPホールディングスの業績推移

上記のように、業績は順調に拡大しており、政策にも後押しされ、今後は民間企業の参入が増えていくと考えられる。そのため、待機児童数は減少すると予測されるが、将来的には少子化の中で、閉所せざるを得ない場合が出てくる可能性は高い。

このことから、冒頭でも話したように、年齢別人口では高齢者が増えるため、介護施設へシフトできるような設計にするなど、保育所が供給過剰になった場合の政策も考えていく必要がある。

より働きやすい環境をつくるためには

国は女性の社会進出を推進している。一方で、今回取り上げた保育園のように監督官庁の縦割り行政の弊害とも思える状況も垣間見えるのが現状である。

民間企業の参入、保育と教育の連携、さらには企業サイドでの柔軟性ある対応など、広い視点で総合的かつに的確に状況を把握できる体制の整備が求められている。