女性雇用「女性が辞めない会社」は育休後に賞与を出す 年収の15%を「特別ボーナス」として支給
育休を経て職場復帰した暁には「特別ボーナス」が支給され、妊娠判明時から最長13年もの間、休業や時短勤務を柔軟に認めてくれる会社がある。
「どうせ女性社員を多く抱える大手企業の話では?」と思うだろうか。実は、この制度を作ったのは、今年で創業19年となるワークスアプリケーションズ。大手企業向けのパッケージソフトウェアメーカーである。
現在の社員数は約2800人、そのうち女性は4割弱おり、今やメガベンチャーといわれる規模となっている。だが、「ワークスミルククラブ」というこの出産・育児支援制度が始まった2005年の社員数は、まだ約500人だった。そのうち女性も2割程度と少なかった当時、同社はなぜ女性の復帰制度を手厚く整えたのだろうか。
自ら理想の制度を作りなさい!
きっかけは、2004年にさかのぼる。同社には、経営陣に対して全社員が毎週提出する業務報告書がある。愚痴を含め、何を書いてもかまわないらしい。ある日、この報告書に既婚女性からこんな声が寄せられた。
「出産・育児などを考えると、このまま働き続けられるのか不安です」
当時はまだママ社員がおらず、出産・育児支援制度そのものが存在しなかった。この報告書を受け、牧野正幸代表はこう言ったという。
「自分たちで理想の制度を考えろ!」
このひと声により、有志10人が集まり、本業のかたわら、制度作りが始まった。メンバーは、既婚・子持ちの男性1名を除き、全員女性。まだ子どもはいなかった。
人事部門の顧客が多いことを生かし、さまざまな制度や導入事例をヒアリングして制度作りを進めたという。しかし、最初にできた案は、「女性ばかり優遇して男性から批判が出るのではという遠慮があり、どこにでもある制度になっていた」と、メンバーだった奥山優子氏は振り返る。
案の定、牧野代表から、「これで本当に戻ってきたいと思うの?」と、突っ込まれ、こんなことも言われた。
「そんな批判をするような男性ばかりなら、うちの会社は全員女性にしたっていい!」
トップがここまで言い切り背中を押してくれるのだ。奥山氏たちは改めて遠慮を振り払い、協議を重ねた。
育休明けには年棒の15%を支給
こうして制度が完成したわけだが、大きな特徴は、まず法定の規定よりもサポート期間が長いこと。妊娠判明後から、休業や柔軟な働き方が認められる。産後も、最長で子どもが3歳に達した後の3月末まで育休延長が可能だ。
復帰時は、基本的に元の部門に戻るので、意図せぬキャリアチェンジも発生しない。復帰前には面談もあり、仕事内容や働き方などについてしっかり話ができるので、納得した状態で復帰することができる。
また、子どもが小学校を卒業するまで時短勤務が可能だ。本人の申請で通常勤務に戻ることができるが、最適な働き方を模索できるよう、3カ月のトライアル期間が設けられているため、無理なく移行できる。
そしてもうひとつ、他社にないと思われるのが「職場復帰特別ボーナス」だ。育休からの復帰時に、休業前の年棒の15%が支給される。これは、牧野代表の提案だった。女性が復帰する際、夫や家族の無理解がハードルとなることが多々あるため、「女性が会社から必要とされている」と周囲が納得する大義名分を作ったのだ。実際、奥山氏のお母様はこの制度に感激し、復帰の際は気持ちよく送り出してくれたという。
ちなみに、このほかにも同社には、家族同伴で参加できるクリスマスパーティーや、社員の子どもが会社で社会体験できる「ワークスキッズ」など、社員の家族が会社を知る機会となるイベントが用意されている。
また、育休中も会社とつながることができるので、疎外感を味わうこともない。年に1度開催される全社集会については個別に案内を出しているほか、「個々の事情もあり子どもを連れてくるのはハードルが高いので、託児やベビーシッター補助など、会社としてサポートできることはないか検討中」(Human Capital Support担当の三枝明代氏)という。
しかし、「仕事が好きな女性が多い」(広報の太田更紗氏)からか、制度をフルで使いきる人はいない。妊娠中はみな法定どおりギリギリまで働く。育休中も頻繁に社内メールをチェックし、産後は子どもが0歳時に保育園に入れて復帰する人が多い。
だが、制度があるからこそどんな状況でも全員が安心して働き続けることができるのだ。実際、妊娠中に体調が悪化したり、子どもが1歳半になっても保育園に入れなかったりといった事態に陥った際、この制度に救われた女性もいる。
「子どもとの時間を大切にしたい」という価値観を犠牲にすることなく働き続けられるのも制度のおかげだ。制度を作っている間に妊娠し、利用者第1号となった奥山氏も、子どもが小学校に上がるまで時短勤務を続けた。「当時は子どもを優先したかったので制度に守られていたかった」と、制度のありがたみを実感している。制度開始から10年が経つが、出産や育児を理由に辞めた人はゼロだ。
「制度」ではなく「風土」
太田氏は、「女性がライフスタイルに合わせ働き方を選べるようになったことがいちばんの成果」と話しつつ、こう強調する。「もっと制度が整った会社は他にたくさんあるだろう。うちが働きやすい要因は、制度ではなく風土」。
同社は、もともと生産性の高い働き方の実現を目的に、裁量性の高い「フルフレックス制」の勤務体系を主流としている。時短勤務の女性が増えても社内に違和感が生じないのは、従来からタイムマネジメントを要求される働き方が当たり前となっている風土によるところも大きいだろう。フルフレックス制を活用し、育児や家事にかかわる男性も多いという。
また、手を挙げれば異動や他部門の仕事を掛け持つといったことも可能なので、あまり仕事が固定化されない流動的な組織になっている。そのため、日常的に人や仕事の調整が行われており、誰かが産休や育休で抜けてもパニックにならない。
育休明けの女性も貴重な人材と位置付けられており、育休中から囲い込んでしまう動きも盛んだとか。奥山氏も「今、お休みしている女性社員にスカウトメールを送っている」と笑う。
こうした風土を作っているのは、ほかでもないトップだ。そもそも企業理念のひとつが、「(問題解決能力の高い)クリティカルワーカーに活躍の場を」である。同社は創業時から優秀な人材の採用や活用に相当こだわってきた。同僚が評価しあう「相互多面評価」を取り入れたり、退職後3年間は再入社を歓迎する「カムバック・パス制度」も10年前から導入したりと、昔から独自の取り組みを展開している。
アジア8カ国における「働きがいのある会社」としてベストカンパニー賞を受賞(15年、GPTW)、「後輩にオススメしたいインターンシップランキング」(ジョブウェブ調べ)6年連続1位など、外部からの評価も高い。
このように人材をとことん大切にする同社としては、「ワークスミルククラブ」の創設も当然の取り組みだったのだろう。
制度は変化に合わせて変えていく
当初、「復帰後は成果が出せず評価が下がるかも」というママの不安に配慮し、復帰前と同額の報酬を担保したうえで、時短勤務中は評価対象から外すという規定になっていた。だが、実際は皆、復帰後も他社員と変わらない働きぶりであったため、実施から3年でこの規定は廃止されたという。ちなみに奥山氏は、この規定廃止後、すぐに昇進したそうだ。
10年間で大きな改変はこの1点のみだが、昨今、社内では大きな変化が起きている。たとえば、「ワークスミルククラブ」の資格は、一定以上の職位にある社員に与えられるのだが、最近は同制度の資格を得られない経験の浅い層の出産も増えているという。この層が復帰したあとに成長できるプログラムが課題だ。また、上海やシンガポールなどにも拠点があり、海外国籍の社員も年々増加中。現在、こうしたグローバル化への対応も含め、全員が納得できるような制度改変を進めているところだという。
立派な女性支援制度があっても、形骸化していたり、現場には不満を抱く社員が多かったりする会社は少なくない。女性が働きやすい職場とは、女性が自分に合った働き方を選択することができて、誰もが働きやすい職場であるということが、同社の取り組みから学べるのではないだろうか。