派遣法改正のキホンを図解、IT業界に与える2つのビッグインパクトとは

派遣派遣法改正のキホンを図解、IT業界に与える2つのビッグインパクトとは

労働者派遣法が「3度目の正直」で、いよいよ改正される見通しとなった。今回の派遣法改正案のうち、特にIT関連企業の多くが採用している「特定労働者派遣事業の廃止」は、派遣事業を行っている企業はもちろん、派遣社員を受け入れている企業にも多大な影響を及ぼす。また、本国会で成立すれば、施行は9月1日からと準備の期間も短い。そこで本稿では、今回の派遣法改正の基本と概要を図解し、今どう対応するべきなのか、そのポイントを紹介する。

執筆:ビーブレイクシステムズ 取締役 高橋 明

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なぜ派遣法が改正されるのか

2008年9月に米国リーマンブラザーズの破たんをきっかけとして世界的な金融危機(所謂リーマンショック、サブプライムローン問題の顕在化)が発生し、日本の経済環境も大幅に悪化した。そのため、雇用調整の一環として日本の大企業(主に製造業)は工場などで働く派遣労働者の契約打ち切りを行った。その際に派遣労働者の不安定な地位と低待遇が多くの人々に知られ、当時は“派遣切り”と言われ、社会問題化した。

また、派遣先企業の担当者から労働者に直接指示がある作業内容であり、派遣先企業に労働者の安全管理義務や一定期間労働した場合の雇用義務がある派遣契約であるべきにも関わらず、その義務のない請負契約にし、派遣先企業が労働者に対して安全管理義務/期限経過時の常時雇用を履行しないこと(いわゆる偽装請負)も問題となった。

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図1 請負契約と労働者派遣契約の違い

このような経緯があり、今までに日雇派遣の原則禁止など、労働者派遣法の改正が行われた。それらの改正に加えて、「労働者派遣事業の適正な運営」と「派遣労働者の保護」を目的として、労働者派遣法の改正を現在、2015年9月1日施行を目指し、第189回通常国会で検討している。与野党の攻防が激化していたが、ここにきてようやく衆議院の委員会審議が終わり、19日にも採決される見通しだ。

その改正の主なポイントは大きく以下の3つである。

  1. 特定労働者派遣事業の廃止
  2. 労働者派遣の期間制限
  3. 派遣労働者の均衡待遇の確保・キャリアアップの推進

これだけ見てもピンとくることはないはずなので、以下でその詳細を説明していこう。

労働者派遣法改正のポイント

1.特定労働者派遣事業の廃止

現在、労働者派遣事業は許認可制である一般労働者派遣事業(以下一般派遣)と届出制である特定労働者派遣事業(以下特定派遣)のどちらかに該当する。今回の改正案では、特定労働者派遣事業を廃止し、すべての労働者派遣事業を許認可制にする。

具体的にどのような違いがあるのだろうか。

まず、派遣というと派遣元のWEBサイト上に労働者が登録し、希望の仕事に応募する登録型派遣をイメージする人が多いと思う。この場合、仕事がある期間のみ、労働者と派遣元企業は雇用契約を締結し、仕事が終了すると同時に雇用契約も終了する。

それに対して派遣元と雇用契約(1年超有期、無期問わず)を結び、さまざまな仕事場に派遣される常用型派遣がある。一般派遣は登録型派遣および常用型派遣、特定派遣は常用型派遣に該当する。

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図2 特定労働者派遣と一般労働者派遣の違い

一見すると特定派遣のほうが派遣労働者の保護という観点からみて一般派遣より優れており、廃止する意味がないように見える。

しかし、実態としては、届け出るとすぐに派遣事業を開始できることもあり、悪質な派遣事業者が参入し、常時雇用を前提とした特定派遣にも関わらず、有期雇用契約の繰り返しが行われ、かえって派遣労働者の待遇が悪化するという事態があると言われている。

また、資産要件基準がないため、特定派遣を利用する小規模事業者が多い。実際、派遣事業を営む全7.5万事業所のうち、一般派遣は24%、特定派遣は76%となっている(出典:厚生労働省労働者派遣事業報告(H26.6.1現在)ほか)。

そのため、現在の特定派遣にも一般派遣と同様の許認可基準を設け(図3)、経営状況の改善を促すことで派遣労働者の待遇を改善することが目的にある。

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図3 特定労働者派遣と一般労働者派遣の違い

 

2.労働者派遣の期間制限について

現行法だと、派遣期間に原則1年、例外3年の期間制限がある。ただし、専門26業務には期間制限が一切ない。専門26業務とは、IT技術者や機械設計者などの専門性が高い業務である。

専門26業務
ソフトウェア開発、機械設計、放送機器等操作、放送番組等演出、事務用機器操作、通訳・翻訳・速記、秘書、ファイリング、調査、財務処理、取引文書作成、デモンストレーション、添乗、建築物清掃、建築設備運転・点検・整備、受付・案内・駐車場管理等、研究開発、事業の実施体制の企画・立案、書籍等の制作・編集、広告デザイン、インテリアコーディネータ、アナウンサー、OAインストラクション、テレマーケティングの営業、セールスエンジニアの営業・金融商品の営業、放送番組等における大道具・小道具

改正案では、この専門26業務を廃止し、すべての業務で派遣先同一組織(課)への派遣労働者個人単位の期間制限(3年)と派遣先事業所単位の期間制限(3年、一定の場合延長可)を設ける。

専門26業務に該当するのかどうかではなく、無期限雇用者かどうかで期間制限の判断基準とし、派遣労働者や派遣元・派遣先企業にとって分かりやすい制度にすることが狙いである。

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図4 派遣期間の制限

また、2015年10月1日から「労働契約申込みなし制度」が施行されることが決まっている。これは、派遣先企業が違法な派遣であることを知っていながら受け入れていた場合、派遣先が派遣労働者に労働契約を申し込んだとみなす制度である。

その違法な派遣の要件は4つあり、そのうちの1つに「派遣受入可能期間を超えて労働者を受け入れた場合」がある。専門26業務が廃止されず、この違法要件が含まれる労働契約申込みなし制度が施行されると、業務内容が専門26業務かどうかで受入可能期間が違うため、混乱が生じる可能性があると言われている。そのため、今回の派遣法改正を行う必然性があるのだ。

労働契約申込みみなし制度とは
派遣先が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申し込み(直接雇用の申し込み)をしたものとみなす制度である。

具体的には派遣先が以下のいずれかに該当行った場合が対象になる。
【a】禁止業務(第4条第1項各号)への派遣受入れ。
【b】無許可・無届の派遣元からの派遣受入れ(第24条の2)。
【c】期間制限を超えての派遣受入れ(第40条の2)。
【d】所謂「偽装請負」の場合(第26条第1項各号)。

3.派遣労働者の均衡待遇の確保・キャリアアップの推進

均衡待遇とは派遣労働者が雇用主から差別的な扱いを受けないようにすることであり、具体的には同様の業務を行う正社員との労働条件が差別されるものではないとすることである。

また、現行法ではキャリアアップを推進する規定はないが、派遣元事業主に計画的な教育訓練などの実施を義務付けることにより、派遣労働者のキャリアアップを推進するものである。

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図5 派遣労働者の均衡待遇の確保・キャリアアップの推進

 

IT関連企業にどのような影響を及ぼすのか

では、労働者派遣法が改正された場合、IT関連企業にはどのような影響がおよぶか。

1.事業運営者の資本増強の必要性

現在IT関連企業の派遣労働者事業(SE、PGなどの技術者派遣)は特定派遣で行われているケースが多い。そのため、まずは廃止される特定派遣から一般派遣に移行する必要がある。

その特定派遣を行うIT企業は中小規模の会社が多く、多くの場合、一般派遣に求められる許可要件を満たしていない可能性が高い。

そのため、事業所あたりの資産要件(図3参照)をクリアするために、資本増強を行う必要がでてくると思われる。

ただし、本件の経過措置として、施行日から3年間は改正派遣法に基づく許可を受けなくても、現在の特定派遣を行うことができるとされている。また、小規模派遣元事業主に関しては、事業の財産的基礎となる資産要件等について、一定の軽減を行うことが検討はされているが、詳細は明らかにされていない。

一方、今後一般労働者派遣の要件は今後改正される可能性があり、その場合、現在の一般労働者派遣の申請・更新基準よりも厳しくなると言われている(参考リンク)。

2.管理体制の整備

特定派遣より一般派遣ではより高いレベルの管理体制を求められることになる。まず、すべての派遣元事業主は毎年4回報告書等を提出する義務がある。

提出義務のある報告書等
・事業年度終了日から1ヶ月以内に労働者派遣事業報告書(毎事業年度報告)
・毎年6月末日に労働者派遣事業報告書(毎年6月1日現在の状況報告)
・事業年度終了日から3ヶ月以内に収支決算書(毎事業年度報告)または表紙を添付した貸借対照表および損益計算書(毎事業年度報告)
・事業年度終了日から3ヶ月以内に関係派遣先派遣割合報告書(毎事業年度報告)

そのため、定められた期間内に本報告書を作成するための情報収集・集計作業が必要となる。複数拠点で特定派遣を一定規模で行っている企業にとってはかなり負担が大きな作業となる可能性が高い。それ以外にも派遣元管理台帳、派遣事業所ごとのマージン率計算書の整備などが必要となる。

次回、より詳細にどのような影響がでそうか、派遣事業者としてどのように対応していくべきかを紹介する。