なぜ、中小企業では人材が育ちにくいのか?

総合なぜ、中小企業では人材が育ちにくいのか?

ここ数年、景気は回復しているように見えるが、80年代、90年代と比べると、新卒にしろ、中途にしろ、大企業に就職することは難しくなっている。となると、中小企業に就職する人が増えていることになるが、当然、大企業と比べると多少なりともリスクが伴う。そして、規模の小さな会社(※ここでは正社員の数が300人以下とする)では、社員をきちんと育成できていないケースが目立つ。なぜ、そうなるのか? 今回は、なかなか中小企業で人が育たないいくつかの理由について、私のこれまでの取材経験を元に分析したい。

1.見習うべき社員が少ない

これはつまり、人事労務の言葉でいうと「離職率が高い」ということ。事実、30代前半ぐらいまでに辞めていく人の数は多い。これは厚生労働省や地方自治体の労働経済局などが発表するデータを見ても明らかだ。データをみると、1980年代から大企業でも20代のうちに会社を辞めていく人が増えていることがわかるが、その数は中小企業のほうがはるかに多い。

辞めていく人が多いということは、ある程度のキャリア、実績、成果を持っている人材がその会社には少ないことを意味する。中小企業の社長がよく言うところの「人材難」だ。これでは、20~30代前半までの社員のお手本となるべき社員が存在しないことになる。もちろん、上司や先輩はいるのだろうが、その人が本当に優秀なのかどうかは疑問だ。こういう状況では、経験の浅い人が一定のペースで仕事を覚えて、高いレベルに成長するのは難しい。人事コンサルタントらが指摘する「ロールモデル(見習うべき人)」が少ないということだ。

2.刺激に乏しい

中小企業にいると、人数的にもなかなか“組織の力”を生かした戦いができない。辞めていく人も多いため、社員たちが1つのチームになろうとしてもうまくいかない場合もある。それぞれの社員の考えや意見、価値観などがバラバラのままでは“チーム”を作ることも難しい。つまり、各自が独自の考えで仕事をする傾向が強いと、互いに支えあって、助け合うという文化が浸透しにくいのだ。こうなると、社員同士が触れ合う機会が少なくなり、刺激に乏しい職場になりがちだ。これでは仕事に対する姿勢もよくはならないし、仕事もつまらないだろう。

3.上司の指導力が弱い

一般的な話だが、上司が仕事をわかりやすく、丁寧に教えると、部下は次第に心を開いて、熱心に仕事をするものだ。そして、仕事自体が面白くなる。成果や実績も少しずつ出るようになる。こうなると「人を育てる流れ」ができるわけだが、中小企業の場合、これができないケースが多い。最初の「上司が仕事をわかりやすく、丁寧に教えること」が十分にはできていないのだ。もちろん、中小企業にも部下を育てる力を持った人はいるだろう。ただ、大企業と比べると数は少ないし、比率も低い。30代前半ぐらいまでの、キャリアの浅い人にとってはハンデのある環境だ。

4.会社として社員を育成しようと思っていない

信じられないと思う方もいるかもしれないが、そもそも中小企業の中には、同族経営のため、社長や役員が社員(管理職/非管理職)を真剣に育てようと思っていないケースがある。例えば、オーナー経営者が息子を役員にしている場合、当然、その息子を後継者にする可能性が高いだろう。息子より優秀で会社への貢献度が高い社員がいたとしても、その人物を社長にするということはまずないだろう。むしろ、あまりにも優秀すぎて、将来、息子にとって脅威になりそうな人材なら、辞めさせてしまうこともある。

中小企業のオーナー経営者は、大株主であることが多いため、ワンマンで自己中心的な考えに陥りやすい。例えば、社員が会社のあり方について批判めいたことを言えば、それがいかに正しいものであったとしても、認めないものだ。それだけではなく、退職させようとすることすらある。このようなことは大企業でも起こることではあるが、その可能性は中小企業のほうがはるかに高い。中小企業は経営陣の意向に沿える人のみを雇い続けたいのであって、その人物が優秀であるか否かは、二の次だ。経営陣の意向に沿える人たちだけを揃えないと、規模が小さいため、組織として機能しなくなってしまうのだ。そうなると、結果として「仕事はあまりできないが、おとなしいイエスマン」ばかりが会社に残るようになる。

5.脆弱な「OFF-JT」の体制

日本の企業の場合、大企業にしろ中小企業にしろ、人材の育成は「OJT」が中心となる。上司や先輩などが仕事の合間に「こうするように」「こうしたほうがいい」と教えていくのが「OJT」だ。これとは別に「OFF-JT」という制度がある。こちらは職場を離れ、例えば、他の会社が主催する研修講座などを受講するもの。ところが、中小企業の場合、予算的な問題等もあって「OFF-JT」に力を入れることができない。そうなると「OJT」中心の人材育成となるわけだが、前述の通り、上司の指導力が弱いため、どうしても好い結果が出ない。外部のハイレベルな研修プログラムも、今の時代、人材育成には不可欠な要素となっている。

最後に、ひとつ補足したい。これはあくまで個人的な意見だが、新卒で就職活動をしている人は、最初から中小企業を目指すのは避けたほうがいいと思う。人材を育成する体制があまりにも不十分だからだ。それでも、入社したいというのなら、それも1つの考え方だ。ただし、「こんなはずじゃなかった」と後悔しないようにすること。現在、中小企業で働いている人も、もし、会社に対して強い不満を持っているのなら、人材を育てる体制が整っている会社に移ることを考えてもいいだろう。いずれにしろ、キャリアの形成は、勤務する会社の人事のあり方などに左右される。冷静に考えて、決断してほしい。