総合フルキャストはいかにしてピンチをチャンスに変えたのか? ビジネスモデルの転換術
「アルバイト紹介」や「アルバイト給与管理代行」業務を主に展開している株式会社フルキャストホールディングス(以下、フルキャスト)。かつて同社は、事業停止命令やリーマンショックの影響により一度は存亡の危機に立たされたものの、リストラの断行によって事業を立て直した。さらに労働者派遣法改正によって、中心事業のビジネスモデルの転換にも迫られた。こういった度重なる大きな危機に直面しながらも、会社を上昇気流に乗せた同社の経理財務部 部長 朝武 康臣氏に、企業のピンチをいかにしてチャンスに変えたのか、具体的な話をうかがった。
二度の大きな危機に直面し、ビジネスモデル転換を迫られる
フルキャスト 経理財務部 部長 朝武 康臣氏
──ご経歴と現在の業務を教えて下さい。
朝武氏:社会人のスタートは銀行からで、企業融資やエクイティファイナンスを担当しつつ、会計の基礎を学びました。その後いくつかのベンチャーに転職しましたが、業務はそれほど変わらず、ファイナンス、M&A、上場準備や中期計画の策定など、経営企画や事業企画まわりを担当していました。右肩上がりの企業から、曲がり角の企業まで多くの経験をしてきました。今はフルキャストで経理・財務とIRの責任者をしています。
もともと私がフルキャストに来たときは、リストラのまっただ中で、会社再編フェーズに入っていました。それを実務に落とし込むことが私に課せられた役割でした。この再編が何とかうまくいき、利益も上がり始め、ようやく日の目を見るところまできたタイミングで、労働者派遣法が改正されました。根幹となる事業が法律により禁止されたことで、ビジネスモデルの転換を迫られたのです。それも何とか乗り越え、今は成長フェーズに入っています。
──二度の大きな危機を乗り越えて今があるわけですね。フルキャストのドメインとなる人材サービスについて教えてください。
朝武氏:我々の事業は短期、それこそ最短1日からクライアントのオーダーに応える人材マッチング業務です。労働者派遣法改正法の施行前は「派遣」を主としていましたが、現在は「紹介」が主力サービスになっています。
実は、現在こうした業務に対応する上場企業はほぼ我々だけです。他社は事務職派遣や技術者派遣という形式で、数か月から3年という期間の人材派遣がほとんど。これは、就業者のスペックが派遣先の企業ニーズに合致することを重視したものです。一方、我々のビジネスは、就業者のスペックやノウハウにフォーカスを当てず、クライアントの業務量に対して繁閑の波に対応することを重視しています。
朝武氏:IT化等により業務効率化を追求しても、やはり人手に頼らざるを得ない業務や、繁閑の波の予測を超える需要、あるいは短期間しか発生しない特定業務もあります。たとえば、倉庫や工場などの物流関連業務や、選挙、引っ越しやキャンペーンなど、限られた期間の業務のお手伝いをしています。
2012年10月に施行された労働者派遣法の改正により、それまでフルキャストの中心的な事業であった短期派遣が原則禁止になりました。この話は前から時間をかけて議論されていたものなので、施行前から準備を進め、ビジネスモデルを切り替えることができました。
競合のいない「アルバイト紹介」と「給与計算の代行」を軸に
──具体的にビジネスモデルをどのように変えたのですか?
一方、30日以下の派遣については、「アルバイト紹介」と「アルバイトに対する給与計算を主とした管理代行」にビジネスモデルを切り替えました。
──「アルバイト紹介」「給与計算の代行」とは、どのようなモデルでしょう?
朝武氏:これまでの派遣業は、我々のような派遣元に就業者の雇用責任があり、スタッフの給料支払いも給与計算の業務も我々派遣元で行っていました。しかし、短期の派遣が原則禁止になったため、企業は短期就業の人材が欲しい場合、自社で雇用しなければなりません。そこで、我々のノウハウを活かして短期就業の人材を「紹介」するモデルを始めたのです。
「派遣」ではなく「紹介」なので、企業側に雇用責任があり、給与支払いも企業側で行う必要があります。給与支払い業務ならば、どんな企業でもやっていますが、最短で1日といった短期就業人材の給与計算となれば、その業務は繁雑になり、リソースを持たない企業も多くあるわけです。
そこで、ご希望のお客様に対して、給与計算も代行するようにしました。企業では新たな負荷が発生せず、シームレスに事業が進められます。この給与計算を主とした管理代行をセットで提供することで、もともとの派遣と変わらぬサービスを実現できるわけです。
──なるほど、面白いですね。競合となる企業はどこでしょうか?
朝武氏:日次の給与計算は労力がかかりますから、同様のサービスを実施する企業はありません。その部分をご提供できることが、我々の1つのアドバンテージです。
今後競合の人材サービス業が、給与管理代行サービスに乗り込んでも、委託先が複数あることは企業にとってはメリットになりません。もし最初に我々のサービスを選んでくだされば、そう委託先は変更もしないでしょうから、先にドアをオープンした我々のサービスが優位性を発揮できるでしょう。
──なぜ他の人材サービス業のように長期派遣の方向へ行かず、短期のニーズにこだわるのでしょうか?
朝武氏:人材の短期マッチングは世の中からなくならないし、なくしてはいけないものだというのが、当社の想いです。日本の産業が海外に移転し、競争にさらされるとき、人件費の変動費化は避けられませんが、これは企業側の事情です。
正社員になりたい方々ももちろん多いのですが、逆に短期でなければ働けない方々もいます。就業人口が減る中で、女性や高齢者に注目が集まっていますが、その方々の中には正社員化を望んでおらず、短期雇用を望まれている方も非常に多い。そこに就業機会の場を作りたいと思いました。派遣業を続けることに限界が出てきたときに、将来の法改正にも備えた上で組み立てられるビジネスとして、短期の紹介業を考えたわけです。
IT投資の考え方は? 工数削減の効果は2段構えの議論が必要
──ビジネスモデルの変更により、社内で工夫されたり、改善した点はありますか?
朝武氏:給与管理代行業務をサービスとしてご提供する以上、ミスは許されません。新しいITシステムに入れ替えたり、業務フローを見直したりと、いろいろな改善を行いました。
マッチングシステムは、お客様からのオーダーに対して、登録スタッフの属性を合わせ、実際に就業してもらえるかどうかを確認するものです。結果として売上が立ち、売掛金に対して入金がなされるまでを管理する一貫したシステムです。これは派遣業のシステムと似て非なる部分があります。
かつての派遣システムはスクラッチで独自に作っていたため、結果的に十数億の投資になっていました。1つ手直しするにも、すべてを止めなければならず、使い勝手も悪いものでした。現システムはASPや標準的なユニットを組み合せています。もし、どこかを改修する際には、そのユニットだけ手直しできれば、全体に影響を与えずに済むからです。
システム開発はNECにお願いいたしましたが、同社が持つノウハウの中において、最小限に留められる基幹設計にしてもらいました。スクラッチで構築したときのコストより、数分の1程度でつくれました。
──新しいシステムへの投資効果は相当高かった、ということでしょうか?
朝武氏:その判断については、分からない部分もあります。我々のようなビジネスモデルを展開する企業は他にありませんから、正確なトラッキングもサンプルも採れないのです。ある意味では手探りで投資している部分はあります。
システムの導入で、ビジネスチャンスが拡がって売上につながる、業務効率が向上する、繁閑期の無駄が削られる点はあると思います。ただし、その根拠も他と比較ができないため、具体的な金額ではなくあくまで想定です。投資規模を段階的に抑えて、その枠内で何とかしようという考え方ですね。それでうまくいけば、次に進むという感じです。これはPDCAをどれだけ回していけるかという話になると思います。
──なるほど。PDCAの中で、そのチェックも定期的に実施しているわけですね。
朝武氏:そうです。想定と違うところは何か、その検証は行っています。IT投資に対するリターンという点では、それほど大きな投資でないため、指標のようなものはまだ確立できていません。どれだけ売上が上がるかということだけでなく、コストのコントロールという点で、単純に人件費を削減したいという意向を持っていても、そこにかかる工数の負担がどれだけ削減できるかによって、人件費も変わってきます。それも見なければいけない点だと思います。
また、IT投資によって間接業務の工数を削減しても、そのぶん人件費が減るかというと、実はそうでもありません。工数が減るならば、その空いた工数自体をどう埋めて、人員の再配置をするのか、2段構えの議論をしないと見えてこない部分があります。私のスタンスとしては、P/L(Profit and Loss Statement:損益計算書)に現れないから、その投資はダメということでなく、効果が得られるならば、どうやって利用すべきか、という議論に展開できればよいと考えています。
──最近、個人情報の管理については、ますます厳しさを増しています。コンプライアンスについてのお考えをお聞かせください。
朝武氏:かつて我々は、事業停止命令という形で世間を大変お騒がせし、コンプライアンスのリスクを顕在化させてしまいました。もしも次に事故を起こしたということになれば、企業存亡の危機につながることになります。そのため個人情報も含めて、セキュリティ対策をしっかりやってきたと思っています。
しかし、少し前に発生した個人情報の流出事件でも分かるように、Pマーク認証やIT統制の監査を受けた上場企業でさえ、漏えい事件が起きる危険もありますから、こういった点も常に意識しています。まだ途中ですが、外部の力を借りながら、リスクの洗い出しと評価、対処法など、まさに取り組んでいるところです。
今後はマイナンバーの問題も出てくるでしょう。この業態で等しく発生する課題なので真摯に検討を重ねています。極力、個人情報を取らずにいくのか、あるいは積極的に個人情報を取得してマネジメントしていくのか、その方針を検討しています。
約20%の高いROEを維持する経営戦略
──経営戦略、あるいは財務戦略などについても教えて下さい。
朝武氏:2009年から3年間にわたり、我々はリストラによって経営を立て直してきました。当時のリストラは、事業と財務の両面から実施しました。事業面では人員削減を断行しました。一方、短期マッチング以外にも、製造業派遣や技術者派遣などの子会社が多かったため、水平展開していた事業を整理しました。そして基本的には選択と集中で、短期マッチング事業に絞り込みました。
これにより、財務内容がかなりキレイでシンプルな構造になりました。また会社法改正など、コーポレートガバナンスの動きも出ており、この流れの中で我々も企業価値を上げられるように努力し、そのための経営指標も出せる下地ができました。たとえば、よく言われるROE(Return on Equity:自己資本利益率)については、業務の違いはあるものの、上場企業で平均5%ぐらいのところを、我々は約20%の水準をキープできる構造ができあがっています。これをより良い形で継続していくことが、経営戦略であり財務戦略であると考えています。
──最後に、今後の見通しについてはいかがでしょうか?
朝武氏:もともと短期の人材派遣の市場規模はそれほど大きいわけではありません。大企業が参入してくるかもしれませんが、その一方で撤退していくこともあり、最終的に我々が現在残っている状況です。今後の可能性として、まだ独自の展開ができる余地が残っていると思います。また、クライアント企業側でも人材の採用難が続いており、ご利用いただける機会も増えています。この傾向は当面は続くでしょう。
さらに労働者派遣法改正法の趣旨を踏まえ、コンプライアンス面でリスクのない我々のサービスについて、ここのところ価値を感じていただける方が多くなってきたようになってきたと思います。
以前は派遣業からのお付き合いで、紹介に切り替えていただくクライアントが多かったのですが、最近は新規のお客様にお声掛けいただくことも多くなってきました。この追い風を利用して、さらに業務を拡大していきたいですね。

