“完璧な研修”ほど社員のヤル気をそぐ理由

総合“完璧な研修”ほど社員のヤル気をそぐ理由

企業内の集合研修は「このように運営しなければならない」と受け継がれている鉄則がある。しかし、この鉄則がビジネス伸展の阻害要因になっていることにお気づきだろうか。実は、参加者側のビジネス部門は既に気づいている。知らぬは人事のみばかり、なのである。前回に続き、企業の集合研修の問題点を指摘する。

人事部が一生懸命準備し運営していることは
実は役に立っていない

人事部門や教育部門が、多忙な中でも最大限の目配り・気配りをし、企業内の集合研修を準備し、運営している。彼らが意識して徹底していることを、私の視点でまとめたものが、次の項目である。初めてご覧になる方は、ご自身が最近参加したり、関わったりした集合研修を思い浮かべて、あてはまるものがあればチェックを入れてみて頂きたい。

これらの項目は実際に、集合研修の担当者が意識して徹底していることなので、多くの項目にチェックが入ったのではないだろうか。しかし、これらはいずれも、ビジネス伸展を阻害している要素と言わざるを得ない。前回は(1)から(5)について解説した。今回は(6)から(10)について、なぜ、これらの要素がビジネス伸展を阻害するのか、ご紹介していきたい。

参加者を受け身にさせる仕掛けで
「モチベーションを下げる研修」になっていないか

(6)参加者を迷わせていけないので、席は指定席である (7)名札があらかじめ印字されていて、準備万端である――。これらのどこが問題なのだという声が聞こえてきそうだ。

ところで、ビジネス伸展のためには、個々のパフォーマンス向上が必要で、そのためには、一人ひとりのモチベーションを高めることが不可欠であることには、賛同いただけるであろう。

では、「この席に座ってください」と席の配置を強制される場合と、「自由に席をお選びください」と席の選択をまかされる場合と、どちらが、意欲をかきたてられるだろうか。多くの方が、「自由に席をお選びください」と言われる場合ではなかろうか。

名札についても同じだ。どんなに立派な名札が作成されていても、それを受け取ったとたんに、人は受け身になる。研修の準備や運営をする側が何かを提供してくれる人、研修参加者はそれを受け取る人という心理的な枠組みに、知らず知らずのうちにはめ込まれてしまうからだ。

こうした微細なことが、実は人間の心理には大きく作用する。「至れり尽くせりのおもてなし」は、社員のモチベーションを下げることにつながってしまうのだ。

(8)おもてなしの気持ちにより、各自の席にコーヒーが配られている――。これも同様で、席に座るとコーヒーが配られるという受動的な状態を作り出すことは、モチベーション向上のために得策ではない。むしろ、飲み物を参加者自身が取りに行ったり、購入したりするなどの仕掛けを盛り込むことで、参加者の自発的行動を促し、モチベーションを高めやすくすることができる。

私の経験上、最もモチベーション向上に役立つ仕掛けは、できるだけカラフルでバリエーションに富んだ飲み物を数種用意して、参加者に自由に選択してもらう方法だ。何を選ぼうかということで自発的な思考が、研修開始前から生まれるし、カラフルな色を見ることにより気持ちが高まる。

スキルレベルや向上させたい領域は
参加者自身が一番わかっている

次に、(9)最後に必ずアンケートの記入が求められる、(10)職制や能力度合により参加者を指名して実施している――、の2点を見ていこう。

集合研修の最後に、参加者に研修の満足度を問うアンケート記入に協力してもらうことが常である。このことが、研修の内容や運営の改善のために役立つだろうことについて異論はない。では、参加者のモチベーション向上のために、研修満足度を問うアンケートが役立つだろうか。私の答えは否である。研修の準備や運営担当者にとっては役立つが、参加者のモチベーション向上には役立つとは思えない。

アンケートの代わりに、参加者のモチベーション向上のために役立つ仕掛けはどのようなものであろうか。私は、そのひとつとして、事前スキルチェック、事後スキルチェックを挙げたい。研修の最初に、研修内容の項目毎に、自身のスキルレベルを5段階で自己判断する。そして、研修の最後にも同じ項目で、自身のスキルレベルを自己判断して記入するのだ。

事前スキルチェックをする際によくある質問が、「5段階のスキルレベルの違いがわからない」というものがある。それに対しては、「どうぞ、ご自身で思った通りに自己判断してください」と回答する。また、「そもそも、はじめて受ける研修なので、項目内容の意味がわからない」というご質問を受けることもある。この場合は、「そうですね。空欄にしておいてくださいね」と答える。

人事部門や教育部門の方々からは、一生懸命準備されている方であればあるほど、なんといいかげんな対応かとお叱りを受けるかもしれない。しかし、私は、この方式こそがモチベーション向上に役立っていると、10年来、数百回の実施事例をふまえて実感している。

事前・事後スキルチェック方式は、自身のスキルが上がったかどうかということを、一番わかっているのは、その研修担当者でもなく、人事部でもなく、上司でもなく、他ならぬ自分自身であるという考え方に基づいている。

研修にとって最も重要な要素は、他の誰でもない、自分自身でスキルが上がったと実感できるかどうかである。言い換えれば、参加者の事後のスキルレベルの自己認識の平均が、事前のそれに対して上がり度合が高ければ高いほど、参加者はスキルの向上を実感できたということになる。逆に上がらなければ、それを実感できなかったということになる。

ただ、スキルチェックに関して、誤解なきように参加者へ知らせておく必要があるのは、この事前・事後スキルチェックは、参加者の評価に使わないということだ。むしろ、研修担当者の評価に使うべき項目で、私は自身の評価に用いている。

「参加プログラムは参加者自身が選ぶ」ことで
社員の思いを重視しているというメッセージが伝わる

同様に、会社が参加者を指名したり、階層別に参加者を特定したりして、参加を義務化して集合研修を実施するのではなく、どの研修に、いつ参加するかを、他の誰でもない、参加者本人に選ばせることは、モチベーション向上の観点から効果的だ。

この方式を導入すること自体、会社が、上司や人事部の見方以上に、自身の自己評価に重きをおいていますよ、ご自身のスキルを向上したいという思いを何よりも重要に考えていますよというメッセージを伝達する役割を果たす。

中には、どのスキルを向上したらよいかわからないという社員もいるだろう。そうした社員のために、定期的なマネジャーとメンバー、人事部とメンバーとの面談が必要になってくる。その効果的な方法については別の機会にご紹介したい。

前回と今回で取り上げさせていただいた、集合研修の従来の鉄則がビジネス伸展を阻害している状況や、従来の鉄則に拠らない新しい演習プログラムに関しては、多くのビジネス部門の方々の賛同を得てきた。一方で、人事部門や教育部門の方々には抵抗感を持って受け止められている。

集合研修担当者が、一生懸命座席札を作成したり、座席図を作成したりしなければならないと思い込み、お仕着せの研修づくりに終始する理由は、その目的意識が、参加者のモチベーション向上になく、研修担当者の不都合解消にあるからだと言わざるを得ない。

いくら言葉で「皆さんの自発性を重視しています」と伝えても、肝心の研修の枠組み(=行動)が管理するばかりの代物であれば、社員のヤル気をそぐ結果になってしまう。言葉よりも、こうした行動でのコミュニケーションこそが、人の無意識に大きな影響を与えるからだ。

どうしてもこうしたスタイルを変えられず、社員の自発性やモチベーション向上に目を向けられない研修担当者は、自ら適所へ異動していただくことが、ビジネス伸展の第一歩だ。