総合240社が挑んだ「働きがいのある会社」ランキングを公開 「もうブラックとは呼ばせない」逆転企業たち
今年は240社が参加したGPTWの「働きがいのある会社」ランキング。人手不足、長時間労働など、働き手の負荷の高まりが問題になっている。その“病”に一時悩んだが、ブラックの汚名を返上し、成長を遂げた企業が上位に並ぶ。本記事の末尾にランキングを掲載した。
「お客様から、『頼んでいた梱包資材が届いていない』というお叱りを頂きました」
1月22日午前11時過ぎ、東京都江東区にあるDHLジャパンの配送センターで、1人のドライバーがこう切り出した。周りには同じ地区を担当する14人の仲間。「なぜ、未配達が起きたと思う?」「解決策は?」とリーダーが問いかけると、同様の経験がある面々が、考えられる要因や解決策を口々に語り出した。
「皆が言うように、(早番と遅番の)引き継ぎを今日から徹底しましょう」。再び口を開いたリーダーがそう結ぶと、円陣を組んでいたドライバーたちはそれぞれのクルマに走り出していった。
時間にして約15分。DHLジャパンは2014年6月から、ドライバーたちが配達に出かける前に情報共有をする場を設けた。ホワイトボードを囲み、現場で起きた問題や原因、解決策までを毎日話し合う。以前は5分程度の全体朝礼があっただけで、内容も上司からの一方的な業務連絡だった。「これを始めてから仲間とよく話すようになったし、チームで助け合う機会も増えた」と東京都台東区への配達を担当する水野暁さんは話す。
Great Place to Work® Institute Japan(GPTWジャパン)が実施した2015年版「働きがいのある会社」調査。今回は過去最多の240社が参加した。DHLジャパンは従業員数1000人以上の大規模企業部門で、9位にランクイン。「業務時間の約8割が孤独」とされるドライバーたちがコミュニケーションを深める時間を設けるなど、現場の士気を高める取り組みが評価された。
しかし、ほんの数年前まで、DHLジャパンの社内には閉塞感が漂っていた。発端は2008年のリーマンショックとその後の世界経済の停滞だ。経費を抑えるために43カ所あった日本国内の集配拠点のうち11カ所を閉鎖し、1割近い従業員のリストラを断行した。
人員と業務量のバランスが崩れ、会社に残った人の負荷は高まる一方。他人や他部署に対する悪口が横行し、「決して働きがいのある会社ではなかった」と人事本部の清水亜紀子ヒューマンリソースマネージャーは振り返る。実際、ドイツに本拠を置くDHLグループが世界中の拠点で調べた従業員満足度で、日本は韓国と並んで最低レベルだった。
そこで取り組んだのが、冒頭に挙げたような日常的に議論をする場づくりだ。2012年に通関業務を担当する部門で導入して以来、徐々にカスタマーサービスやドライバーにも対象を広げてきた。2015年版のランキングでのトップ10入りは、数年がかりで進めてきた地道な取り組みの成果だ。
国内景気の回復や円安ドル高に進んだ為替は、企業業績にプラスとなる一方、サービス業や建設業などを中心に、人手不足や、それに伴う業務の繁忙という課題を顕在化させている。現場の疲弊も目立つようになってきた。
そうした中、今年のランキング上位には、DHLジャパンのように「停滞」を経験した企業が少なくない。中には一時、「ブラック企業」とのレッテルを貼られかねなかった企業もある。
「エース」が会社を去る
例えば、小規模企業部門24位の岩堀建設工業(埼玉県川越市)。従業員50人で、大型物件の施工を手掛ける同社は2013年の終わり、会社を揺るがすような「事件」に見舞われた。
同年9月に開催が決まった2020年の東京五輪と、東日本大震災からの復興需要。この2つの要因によって建設業界を取り巻く環境は一変した。人余りから人手不足へ。岩堀建設でも従業員の勤務時間が日に日に延びていった。
そんなある日、40代の職人が突然、辞表を提出した。岩堀建設の次代を担うと目されていたエースだった。本人は「家庭の事情」と説明して去っていったが、後に調べると、飲むたびに会社への不満を漏らしていたことが分かった。ほどなくして、新入社員も「働きがいを感じない」と退職。独立などではない「後ろ向き」な理由で社員が1年に2人も辞めるのは、明らかに非常事態だった。2014年版の「働きがいのある会社」調査でもランク外に転落。「かなりのショックを受けた」と岩本聡取締役は明かす。
そこで岩本取締役は「楽しく業に生きる」という社是に立ち返り、社員一人ひとりと働き方を話し合うことを始めた。その過程で、会社用の携帯電話支給の要望に始まり、遠方の建設現場への通勤時間に対する不満など、「経営陣が見落としてきた課題が明らかになった」(岩本取締役)。
携帯電話の会社支給をはじめ、いくつかの要望に応えたことで、一時は失われていた現場から意見を出す雰囲気も復活してきたという。2014年末には、従業員たちの発案で、保育園の工事現場の壁に園児が描いた絵を飾ったところ、地元で評判となった。社員との地道な対話が2015年版での再ランク入りにつながった。
岩堀建設の事例からも分かるように、極度な繁忙は「働きがい低下」の病を引き起こしやすい。今年ランクインした企業がかつて患っていたのが「私ばかり働いている病」「社長の考えがナゾ病」「先輩は絶対なんだ病」の“3大疾病”だ。
多店舗化できしみ
名古屋市を中心に、居酒屋「がブリチキン。」などを運営するブルームダイニングサービス(愛知県清須市、小規模部門19位)は数年前、「私ばかり働いている病」に悩んでいた。部門間の情報共有が乏しいため、皆が自分だけに仕事が集中していて、他の社員は働いていないと感じ、社内の雰囲気が悪化する病だ。

同社は2006年に現在の加藤弘康社長が設立した飲食チェーンだ。当初は1店舗。「勘で経営をしていた」(加藤社長)が、従業員も10人ほどだったため、難なく意思疎通ができていた。
しかし、成長のため多店舗展開に舵を切ると、一気にきしみが露見する。とりわけ1年で6店舗を出店した2011年は、5人採用した新人が全員辞めてしまった(現在は2人が復帰)。「創業者の思いに共感できるほど距離は近くない上、組織としても未整備だった。僕自身も忙殺されていた」と加藤社長は反省する。誰もが疲れ果て、相談できる雰囲気もないまま辞めていった。
そんな状況に危機感を覚え、加藤社長は「ここ2年ほど、社内整備に重点を置くようにした」。例えば、店舗で褒められた従業員の行動を社内SNS(交流サイト)に掲載し、全員で共有する。新たに店長になった社員には社長が2時間講義する「社長塾」を実施している。
今年3月23日には全店を休みにして、アルバイトも交えて表彰するイベントを初めて開く予定だ。休業による機会損失を含めると約1000万円かかる計算だが、加藤社長は「コミュニケーションにかける費用は削ってはいけない」と言い切る。危機によって「働きがい」の重要性を痛感したことが、今回のランクインにつながった。
企業が陥りがちな2つ目の病が、「社長の考えがナゾ病」だ。経営陣がどんなに高い理想を掲げても、現場に伝わらなかったり、労働実態から懸け離れていたりすると、働きがいを高められない。奈良県を中心に結婚式場やレストランなどを運営するディライトの出口哲也社長もこの問題に直面した。

「会社の方針が分からない」「自社の設備に不満」。2013年、社員に対して匿名で実施したアンケートに書かれていた内容は会社と自分へのクレームであふれていた。
ムッとしなかったかと言えば嘘になる。しかしこの時、出口社長の頭をよぎったのは2007年の事件だった。ある日、営業責任者が部下十数人を引き連れて退職してしまったのだ。「会社に魅力が足りないからメンバーも抜けてしまった。もう二度と同じ思いはしたくない」(出口社長)。それで腹を決めた。「自分が変わるしかない」。
出口社長はまず、全社員で共有する情報を拡充。取締役会などで議論した内容を社内ネットワーク上に掲載し、社員の誰もが見られるようにした。社員の給与明細には毎月、出口社長が3~4枚分の手紙を添えた。社長が日々何を考えているのか、会社をどう成長させたいのかなどをつづったのだ。
「経営陣からの情報発信量を意図的に増やした」と出口社長は話す。経営陣と従業員の感情のギャップを埋めることで、一体感を作り出そうとしたわけだ。昨年はランク外だったディライトは2015年版調査で、中規模企業部門の11位に名を連ねた。
「反対意見」が言えない
一見、密なコミュニケーションが取れているようで、直属の上司や先輩が強すぎることが裏目に出てしまうケースもある。名付けて、「先輩は絶対なんだ病」だ。100カ所以上のスポーツクラブを運営するルネサンス(大規模企業部門15位)はその病にうなされた。

同社の社員は運動好きが大半で、学生時代に体育会系の部活動に汗を流していた人も多い。体育会と言えば、先輩が後輩の面倒をしっかりと見るメリットがある一方で、先輩の発言や指導は「絶対」という関係になりがち。新入社員にとっては、「違う」と思っても口にできなかったり、弱音を吐けずに抱え込んでしまったりすることがあった。
そこで2014年4月から、新入社員が所属部門とは異なる部署の中堅社員から面倒を見てもらう「サポート相談制度」を導入。従来通り、同じ部門の先輩社員が業務内容を教えることに加え、別部門の先輩社員が勤務時間外に悩みを聞く。
ルネサンス青砥(東京都葛飾区)では入社4年目の篠原愛実チーフが、2014年10月に配属された新人の三浦みなみさんをサポートしている。篠原チーフはスイミング、三浦さんはフロントと、普段は異なる部署で働く。「とにかく話を聞くようにしている」と篠原チーフ。新入社員の三浦さんは「同じ部署の先輩には聞きづらい内容でも、気軽に相談できる」と微笑む。
かつてルネサンスには新入社員が定着しないという課題があった。人事部の日野俊介課長は「2000年代の初めは入社3年目までの離職率が30%前後だった」と振り返る。これまでも人事が定期的に面談をするなど、新人が辞めないように工夫をしてきたが限界があった。だが、2014年は入社50人のうち、退職者は1人だけだった。新入社員が働きやすい環境を整えたことが、今回のランクインの決め手となった。
一度は働きがい低下の病に陥りながら、策を講じてランクインした企業。3大疾病にかかった時に危機感を持てるかどうかで、「ブラック企業」のレッテルに甘んじるか、働きがいのある企業に脱皮できるかは変わる。人手不足と言われる今だからこそ、部門間や経営陣と社員との関係を見直し、働きがいを高める重要性は高い。
2015年版「働きがいのある会社」ランキング
Great Place to Work® Institute Japan(GPTWジャパン)が実施。参加企業240社へのアンケート結果を点数化し、一定レベルを超えた85社を「働きがいのある会社」として発表した。定義は「従業員が、勤務している会社や経営者・管理者を信頼し、自分が行っている仕事に誇りを持ち、一緒に働いている仲間と連帯感を持てる会社」。構成要素はマネジメントと従業員の間の「信用」「尊敬」「公正」、従業員同士の「連帯感」、従業員が仕事に持つ「誇り」の5つ。
アンケートは企業向けと従業員向けの2種類で、点数の重みづけは1対2。企業向けは企業理念や風土、人事施策のほか、男女構成比率、賃金、福利厚生などを聞く。従業員向けは経営陣や管理者層の姿勢と行動、仕事や会社に対する誇り、職場の連帯感などについてで、対象者は無作為抽出。生の声をGPTWジャパンと大学教授、人事コンサルタントからなる委員会が精読し点数をつける。会社が従業員に特定の回答を強制した場合は失格になることもある。


日経ビジネス2015年2月16日号 より
