総合動き出した企業から学ぶ、マイナンバー対応の実情
2015年に入って大手ベンダーなどがマイナンバーに対応するシステム改修や番号収集・管理を代行する外部委託サービスを続々と発表している。ただ、こうしたサービスを利用する企業側も準備が不可欠だ。対応を始めた企業やベンダーの動きを紹介する。
人材サービス大手のテンプホールディングスは2015年1月の仕事始めからマイナンバー対応プロジェクトを立ち上げた。同業他社が準備を始めていると報道されたのを受けて、2014年12月にグループコンプライアンス部の情報管理室のIT戦略部門などで構成する事務局が発足し、取締役がトップとなってプロジェクトに着手した。
人材サービス業はマイナンバーを管理しなければならない派遣社員らを多く抱えており、入れ替わりも多い。テンプホールディングスは2015年1月末までに、財務経理担当者がグループ会社でマイナンバーの記載が必要となる主な帳票を洗い出した。国税庁などに公表されている帳票のうち、特殊な例を除くと実際に使うのはわずかだと判断。それを基にグループ各社に対して、必要な帳票の追加や削除があるか点検を依頼している。各社がゼロから帳票を調べる手間を省くためだ。
テンプホールディングスは人材派遣業を中心に国内だけで40社ほどの連結子会社を抱えている。同社グループは、まず現業である「派遣領域」、社内の人事部門の「人事領域」、さらに社外の個人事業主に対応する「財務領域」の三つの領域に分けて、プロジェクトを進める計画だ(図1)。それぞれ取りまとめ役の責任者を選んで体制を組み、法務部門のサポートも受ける。
三つの領域にプロジェクトの体制を分けたのには理由がある。人材派遣事業では、扱わなければならないマイナンバーが数万人分に上る。社内の人事部門でも必要になる。さらに、顧問弁護士や公認会計士、セミナー講師、制作スタッフといった多くの個人事業主と取引があり、番号と身元確認が必要だ。そこで派遣事業や人事部門の領域とは別に対応することにした。
プロジェクトの全体スケジュールでは、2015年3月までの「フェーズ1」でグループ全体に適応するポリシーを統一して、「フェーズ2」で代表例としてテンプスタッフの人事部に展開する。「フェーズ3」で各社に展開する流れを予定している(図2)。
2015年2月には社内グループ各社の担当者らを集めて説明会を数回に分けて開催した。人事部門以外からも参加者が集まったという。「細かいことは知らなくても、何か疑問があれば問い合わせできる連絡先も示した」(グループ情報管理室)。グループ各社のマイナンバー担当者や全従業員が対象の社内教育も実施する予定だ。
とはいえ、グループ全体で管理するIT予算の策定は緒に就いたばかり。グループ会社で使うパッケージソフトについてはベンダーにマイナンバー対応の確認を求めている最中だ。派遣スタッフの情報を管理する基幹システムは、改修するか、データベースを分ける仕組みにするか検討中という。閲覧や使用する人が限られるため、万が一のリスクを考えて別のシステムにする方法も検討しているという。
マイナンバーを取得する方法はスマートフォンやタブレット端末を使ってオンラインでできる仕組みを検討中だ。オンラインなら本人の都合が良い時間に合わせてアップロードできる上、人手をかけない方がリスクを抑えられると判断したためだ。
さらに、グループ内の企業が外部委託サービスを使う場合に備えて、事務局が一定レベルの基準を満たす外部委託先を精査して情報提供する計画もある。グループとしてきちんと確認したサービスを利用できるように案内した方が望ましいと判断したという。
外部委託でも業務フロー見直しに半年
同様に人材サービスを手掛けるマンパワーグループは、既にマイナンバーへの対応が必要な業務の範囲確認を終えた。現在はマイナンバーの取得や本人確認などは一カ所に集約する方針で、外部委託サービスの利用を検討している。
マンパワーグループは全国130拠点のうち80拠点で採用活動をしていて、約3万人の派遣社員や契約社員を抱える。人材の入れ替わりのため、年間5、6万人のマイナンバーを取得する必要がある。そのため「80拠点でマイナンバーを扱うのはリスクが大きい」(マイナンバー対策チーム)と判断した。マイナンバーを取り扱う部署を限定して、既存の業務フローへの影響やリスクを減らすのが狙いだ。
マンパワーグループでマイナンバーを扱う業務うち、税務分野では扶養控除申請書と源泉徴収、住民税の通知などがある。扱う件数は多いものの、種類はそう多くない。ただ社会保障分野は、雇用保険や健康保険のほか、産休や育休に伴う手続きを含めると圧倒的に種類が多いという。
人材派遣やアルバイトは、採用決定の翌日が出社日という場面も多い。マンパワーグループは入社までの準備期間を短縮した独自の業務フローを持つ。採用対象者にマイナンバーの取得や本人確認する業務フローでも迅速さが求められる。
厚生労働省は2014年12月にWebサイトで「社会保障分野への社会保障・税番号制度の導入に向けて」と題した文書を公表した(図3)。それによると、雇用保険の被保険者資格取得届などは2016年1月1日の提出分から必要となる。また、健康保険や厚生年金保険被保険者資格取得届はマイナンバーの利用開始より1年先の2017年1月1日提出分からと公表した。既存の従業員・被扶養者分の個人番号は「2016年1月以降いずれかの時期」としている。
厚労省の省令はまだ公表されていない。しかし毎年万単位の件数を扱わなければならないマンパワーグループは「多くの企業や個人が対象になる帳票は一応発表されているので、それを材料に対応を進めていくしかない」(マイナンバー対策チーム)と判断した。
外部委託すれば迅速に業務を進められるかもしれないが、現在の業務フローに付け足すだけでは済まない。外部委託先とのやり取りに新しい業務フローが必要になる。マンパワーグループはシステムの調整に半年は時間がかかると想定している。そこで、まずは影響の大きい業務範囲を把握して対応を進めて、正式な省令が出れば修正していく方針だ。
サッポロホールディングスもマイナンバー関連業務の外部委託を検討中だ。グループの共通業務を集約して行なうサッポログループマネジメントがプロジェクトメンバーを選出し、グループ会社全体の対応を進めている。2015年3月中に対象業務を洗い出して、4月に対応方針を決定。業務フローの見直しやシステム整備、規定類の見直しを進める予定という。
同社グループはサッポロビールなど五つの事業会社を抱えている。中には、パートやアルバイトが多数在籍する外食産業もある。対象業務への影響調査や従業員教育に各グループ会社や拠点ごとの窓口担当者を選任。個人番号が配布される前の2015年9月ごろに従業員向け教育も実施する予定という。
マイナンバー「安全管理措置」の四つの方策
マイナンバー対応で多くの企業が判断に迷うのは、特定個人情報保護委員会が公表したガイドラインにある安全管理措置だという。どんなレベルの安全管理措置を行うかは企業が自ら判断しなければならない。その方策は四通りある。
一つは外部の経営コンサルタント会社や監査法人のアドバイスを受けて安全管理措置のレベルにお墨付きをもらう方法だ。二つめは外部委託によって、安全管理措置のレベルを任せる方法。三つめは、業界ごとに横並びの安全管理措置のレベルを決める方法だ。こうした方法のほかには、自社の独自判断で想定リスクと必要なコストを勘案して安全管理措置をするしかない。
それぞれの業界でマイナンバー対応に向けた勉強会などを開く動きはあるものの、これまでのところ安全管理措置のレベルを統一しようという動きはないという。特に小売りや流通、運輸、建設などといった業界や、短期雇用で流動性の高い人材が多い業種では、リーダー役となる企業が業界を束ねる必要がありそうだ。
現段階で最も手早いとみられているのは、外部のコンサルタント会社や監査法人のアドバイスで体制を整備するか、外部委託を利用する方法となる。大手ベンダーもシステムの改修にとどまらず、続々と外部委託サービスの開始を発表している。
野村総合研究所(NRI)は2014年11月に、金融機関が抱える顧客や事業会社の従業員から集めるマイナンバーの登録や管理を受託する「マイナンバー登録・管理サービス」を発表した(図4)。マイナンバー制度への対応に必要な業務分析から、マイナンバーの登録・管理、安全管理措置、教育・研修といったメニューを用意したという。
同サービスでは、NRIが利用企業に社内態勢の整備を支援するコンサルティングを行い、顧客や従業員から提供を受けたマイナンバーと口座番号や社員番号などとひも付けて管理する。利用企業とのやり取りは口座番号や社員番号などを使う。基本的に利用企業が直接マイナンバーを扱わないようにして、既存業務フローの変更を行うことなく制度に対応できるという。
マイナンバーの本人確認や社員番号などひも付けるデータベースへの登録は、NRIグループのだいこう証券ビジネスに再委託する。NRIがマイナンバーの管理や各種書類にマイナンバーを付記して提供するほか、登録されたマイナンバーや提出済み書類、データの保管や変更、廃棄も行う。一連のサービスは全て国内で行うという。
NRIは「自社でマイナンバーを分別管理する仕組みを作ってやり取りするのも解決にはなるが、外部のサービスを利用すれば結果的に自社対応より間違いなくコストが安くなる」(新事業企画室)と話す。
富士通はサービスをコンポーネント化
富士通は2015年1月に企業向けなどに「マイナンバー制度対応ソリューション」を提供すると発表した。マイナンバー制度に対応した業務システムや運用プロセスの構築を支援するコンサルティングやBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービス、教育関連サービス、アプリケーションなどをそろえて、「ニーズに合わせながらサービスを組み合わせられるようコンポーネント化した」(マーケティング改革プロジェクト室)という。
マイナンバー対応はパッケージを入れ替えたり、ITだけで解決できたりするものではない。ユーザー企業が自らマイナンバーの取り扱い規程などを定める必要があり、「これを入れれば完全に大丈夫という言い方はなかなかできない」という。企業によって準備方法が異なり、一律的な対応が難しい。顧客の状況に合わせて対応する必要があると判断したためだ。
このうち富士通マーケティングは2014年12月に、既存の人事給与システムにアドオンする形でマイナンバー対応ができる「アドオンマイナンバーシステム」の提供や、同社製「GLOVIA smart 人事給与パッケージ」など向けのマイナンバー対応を2015年7月に開始すると発表した。サポート契約でおおむね無償対応するという。
アドオンマイナンバーシステムは既存人事給与システムと連携し、マイナンバーの申請・収集・保管や帳票の出力ができる。企業が独自に開発した既存の人事給与システムには手を加えずに、既存システムとの連携するインターフェースを構築すれば短期間・低価格でマイナンバー制度への対応ができるという。
アドオンマイナンバーシステムや「GLOVIA smart 人事給与パッケージ」は、人事給与システムにはマイナンバーを入れずに、システムの中にあるデータベースは分けて管理する。法定調書が出力する際にマイナンバーを合わせて出す仕組みという。
富士通グループ会社内のマイナンバー対応も、既存の業務プロセスとは別のデータベースに分けて、限定したアクセス履歴も管理できる仕組みを採用。アドオンマイナンバーシステムや既存パッケージも同じ方法にした。当初は人事給与システムに項目を持たせようと検討していたが、セキュリティ対策上は内部的に分離する方法で統一したという。
人事給与システムには、人事異動や社内教育といった業務でアクセスする場面もある。マイナンバーに関係ない業務担当者が触れる恐れがあるのはリスクとなる。運用プロセスに携わる人間を限定的に管理できればリスクを減らせる。既存のプロセスとは別に作る方が、社内規定でどの業務で誰が使うか明記してマイナンバーを使う業務を限定しやすくなるメリットがあるという。
さらに2015年1月に、マイナンバーの収集・本人確認・保管などの業務や法定調書や届出書にマイナンバーを記載する一連の業務をSaaSで提供するBPOサービスなどを発表した。必要に応じてコンサルティングサービスで社内規程の策定を手助けしたり業務プロセスを整理したりして、既存システムに対してアドオンマイナンバーが合っているか、場合によってはBPOサービスを提案する。ただ、企業からは自社の人事給与システムだけでなく、社外の個人事業主への支払い調書の管理にも利用したいという要望が想定外に多く寄せられ、適用範囲を広げる検討を始めたという。
「全国民に利便性の高いサービス」
NTTデータは2015年1月に、金融機関の顧客や一般企業の従業員がスマートフォンを利用してマイナンバーの申告と本人確認ができる「番号収集代行サービス」の実証実験を行うと発表した(図5)。
金融機関がマイナンバーを付けなければならない法定調書には3年間の経過措置が設けられているものの、複数の金融機関に口座を持っている顧客は本人確認のために複数の窓口に出向かなければならない。窓口で対応する金融機関にとっても煩雑になる。
そこでNTTデータはスマートフォンやタブレット端末で利用できるAndroidやiOS、Windowsアプリを用意。顧客や従業員がアプリをダウンロードしてインストールすると、光学的に文字を読み取るOCR機能やNFC機能で法令で定められた要件を満たす書類を読み取り、NTTデータのデータセンターに接続して突合する。利用する金融機関や企業はセキュリティの高い専用線を通じて営業時間外などでも人手を介さずにマイナンバーの本人確認や収集ができる。
NTTデータは2015年3月に実証実験を行って、その結果を基に番号収集代行サービスを実用化。2015年10月からマイナンバーなどの取り扱い支援を目指すという。番号収集を代行するBPOで、利用する金融機関や企業と業務フローを組み立てていく計画だ。「全国民に利便性の高いサービスを目指す」(オープンイノベーション事業創発室)という。
日本は、株券の電子化や内部統制、消費税対応などでも、いったん制度が国民に理解されて浸透すると一斉に動き出して実現してきた経緯がある。マイナンバー制度への理解が進めば、スマートフォンの登場に匹敵する利便性の高い社会が実現すると期待を込める企業関係者もいる。現在はまさに、その前夜。マイナンバー制度のスタート前にはなかった新たな社会が実現できるかどうかは、この7カ月間にかかっている。




