女性雇用女性向け「超ハード研修」が求められる理由
政府が旗を振る「女性活躍推進」について、ありとあらゆる議論が沸き起こっている。ただ、「こうあるべき」といった理想論だけでは、企業や当事者となる女性社員は戸惑い、混乱に拍車をかけるばかり。具体的なアクションとして、企業や人事部門は何から始めるべきなのか。数多くの大企業で人材開発を手がけた実績を持つ、セルムの加島社長に聞いた。
(聞き手は熊野 信一郎)
日頃から企業の人事部門と接する機会が多いと思われます。喫緊の課題となっている「女性の活躍推進」について、どのような相談を受けることが多いですか。

1967年神奈川県小田原市生まれ。 1990年上智大学文学部心理学科卒業後、リクルート映像に入社。初年度営業成績最下位から、4年目には「企画・コンサル型営業」を実践しトップとなる。 1998年人材開発分野の国内有数のプロフェッショナルファームであるセルム入社。 2002年に取締役企画本部長に就任。就任時300人程度だったコンサルタントのネットワークの基盤づくりに尽力し、現在では約1000人まで拡大。2010年代表取締役社長に就任。「人材開発」分野の第一人者として営業現場の最前線に立ちつつ、欧米・アジアに遅れを取る日本の「人材開発」、「リーダー開発」の地位向上に奔走する。
加島:日本の大手企業の皆さんは異口同音に「女性活躍推進はやるべき」とおっしゃっています。ただ、それを進めた先に、どのような世界が待っているかの具体的なイメージまでは持てていない。それが現実ではないでしょうか。
本当に会社のためになるとの確信も、自分の会社にとっての最適解もぼやけたまま。だけど、社会のトレンドとして決まってしまったので、取り組まないと社内外の目が厳しくなる。そんなジレンマがあります。
では一体、企業として何から始めればいいのでしょうか。
加島:今いる人材を幹部に登用することは、それほど難しいことではないでしょう。肝心なのは、次の世代との「断絶」を防ぐことです。
当面、管理職として登用される世代よりも下の大半の女性社員にとって、自分たちが管理職となるまでの期間はあまりにも長く、実感がわかないはずです。日々はオペレーショナルな仕事をしているし、そもそも管理職になりたくないと考えている人が多いはずです。
ですから、そういった次の層をどうやって啓発し、人材のプールを作っていけるかが課題になっています。
具体的にはどのような取り組みが始まっているのでしょう。
加島:基本は研修になります。本来、女性社員だけを集めた研修というのはあるべきではないのでしょうが、今は過渡期なので仕方がない側面があります。
ただ同じ研修でも、半日やって終わりの軽いものもあれば、缶詰にして行う超ハードなものもあります。最近、いろいろな研修をお手伝いする中では、超ハードな研修の効果を実感しています。企業からも「ハードであればあるほどいい」といったリクエストが寄せられています。
本人も周りも納得させる
超ハードとは?
加島:ある大手金融機関は昨年から、次の管理職候補となる30代半ばから50代の係長クラスの女性を対象に研修を始めました。半年間で、うち16日間は1泊2日の集合研修でした。
16日間というのも長いですが、ハードなのはその中身です。毎回、「営業支援の効率化」など自社の具体的な経営課題を設定し、それをどのように解決していくかを4~5人のチームで取り組むアクションラーニングが中心です。その過程では、元一流ファームのコンサルタントが講師として何度もやり直しを命じます。「うちの会社はこうだった」といった前例主義的な提案などは、その場で容赦なく却下。なぜその解決策なのかを論理的に説明できるようにしなければなりません。そして最後は、それを社長を含む経営陣に発表するのです。
彼女たちは、各地域の拠点の役員が推薦した管理職候補です。長年にわたって同じ職場で働き、その人がいなければ仕事が回らないという中心的なポジションを獲得している。ただ一方で、体系的なトレーニングを受ける機会がなかったんですね。だから、自分たちがいずれマネジャーになるという意識も、管理者としてのスキルを高める機会もなかった。
その研修を経てどのような変化が期待できるのでしょう。
加島:まず、本気で女性の登用に取り組むんだという会社の姿勢を示すことができます。それは当事者にとってもそうだし、職場の周囲の人間に対しても同じです。その上で、実際に厳しい研修で成長のイメージを持ってもらい、それを日々の行動に生かしてもらうわけです。
先ほど紹介した事例でも、女性社員は基本的にオペレーショナルな仕事しかしないまま、ある年次まできているわけですね。ですから管理職としての視点は持てていないのです。それを、ハードな研修をやり遂げることによって、本人にも自覚が生まれるし、周りもその人をきちんと認めるようになる。
別の大手金融機関のトップも変革の同志である「ジャンヌダルクを作る」と言い、同じような女性向け研修をしていました。毎回、最後は役員全員が集まってプレゼンテーションを聞いていました。
人事部門にとっても、そうした研修を通じて初めて、どういう人材がいるのかを把握できます。厳しい研修を課すと、その人の経験やスキル、能力はもちろんある程度分かります。それ以上に重要なのは、チャレンジする意欲があるかどうか、プレッシャーに耐えられるかどうか、こうしたい、という理想を掲げられるかどうか、などが見えるということです。それは、ハードにやらないと出てこない。「2:6:2の法則」ではないですが、例えば2割の輝きを放つ人材は、すぐ分かるんですね。
そうやって研修を通じてアセスメントをして会社としてきちんとそうした人材を認識する。その上で、経営陣や人事など、通常のラインと違う人の力によって戦略的に育てていくことが必要です。
役員がマンツーマンで付く
研修以外にも何かやり方はあるのでしょうか。
加島:例えば最近増えているのは、役員がメンターとして新任の女性管理職にマンツーマンで付くという方法です。日常的にいろいろな話をすることで、男性役員は女性の視点で考えることを吸収し、ダイバーシティの重要性を理解できる。
女性管理職も、経営的な視点が身につきます。そうして、メンターに付かれた人が次の層のメンター役となる。
長期的な課題は何でしょうか。
加島:これまで、日本企業は管理の「ポジション」に重きを置きすぎてきたのではないでしょうか。組織を役割に分解し、それをしっかり機能させれば正しい方向に向かうという前提があります。その分、個人を見ることが十分ではなかったことが問題です。
例えば女性についても、男性のように変な政治的な要素がなく、後輩を丁寧にフォローするといったように、人を育てる力を持っている人が多い。そうした人材を、これまでと同じポストに入れ込むのではなく、適材適所で次の人材を育てる力を発揮してもらう。
そのようにして、「ポストによる経営」から「適材適所の経営」に変えれば、次のリーダーを作れる女性の活躍の場が広がり、全体で見ても女性のリーダーが増えていくのではないでしょうか。