総合すかいらーく、事業再生の裏に採用改革
企業ケース(5)すかいらーく
10月9日、約8年に及ぶ構造改革期間を経て、レストランチェーン大手のすかいらーくが株式市場に返り咲いた。
同社は2006年、大胆な改革を断行するために経営陣が会社株式を買収する「MBO」によって上場を廃止。谷真社長の指揮の下、大規模な組織改革と利益を生み出せる収益構造の再構築を図ってきた。組織面では社内カンパニー制を廃止して組織をスリム化、意思決定を早めたほか、店舗展開を全面的に見直し、不採算店の改廃を一気に推し進めてきた。
利益体質が定着してきた2011年には、米投資ファンドのベイン・キャピタルからの出資を受け入れる。新規出店計画を次々と策定し、従来の守りから攻めへと方針を大きく転換。2013年7月には新規出店を推進する店舗開発本部を5年ぶりに復活させ、さらなる攻勢をかける。そして今年10月、東京証券取引所への株式再上場を果たした。多様なブランドで3000店舗を有するレストランチェーンが、その成長を加速する。
このすかいらーく再生を支えているのが、同社の人材改革施策だ。新経営方針には人材開発を事業成長の重点分野と捉え、これまで以上に社内の人材育成を強化。同時に、外部の人材登用も増やす方針が明確に定められている。
小宮孝一氏(49歳)は、店舗開発の責任者として2013年12月にすかいらーくに入社した。大手ファストフードチェーンで18年間店舗開発に携わってきた経験を買われ、すかいらーくの店舗開発を任されている。新生すかいらーく成長のカギを握る人材戦略を追った。

ファミリーレストラン出店の成否は、ほぼ計画時に決まる。その肝は、いかに正確な売り上げ予測を立てるかにある。
都心であれば、すでに多くの既存店やライバル店舗がひしめいている。その中で、マーケットのポテンシャルや人口などを綿密に調査し、出店の余地があるエリアを細かく探っていく。候補となる物件も、外部のエージェントと協力しながらいくつもの条件を参照しつつ、その収益性を検討する。
だが、こうしたデータにもとづき、最終的に予測数字をはじき出すのは人間である。調査から浮かび上がってきたデータを開発担当者がどう読むかによって、出店計画の数字にブレが出てくるのだ。その担当者が「攻め」のタイプか、「守る」タイプか。性格によっても、売り上げ予測は変わってくる。
だから、これらの開発担当者から上がってくる売上予測を総合的に集約して結論を出す店舗開発ディレクターにかかるプレッシャーは重い。数値的な理屈付けに基づいた「ドライ」な分析に加えて、開発担当者の性格や地域特有の情報といった「ウェット」な経験の両方が求められる仕事である。
その意味で、2013年12月に入社した小宮孝一氏にかかる期待は大きい。同業のファストフードチェーンで約18年間、店舗開発に携わった経験を持つ。店舗開発に関するロジカルな分析と経験、その双方で実績を積んできた。
攻めの店舗開発ができる人材拡充が急務
事業変革を加速する今は、攻めの時期にあたる。「ガスト」をはじめ、「ジョナサン」「バーミヤン」や「夢庵」など、和洋中様々なブランドの既存店強化と新規出店計画を次々と進めている。
ところが、復活した店舗開発部門には早々に問題が浮上した。店舗開発の攻めの人材が不足していたのである。業績立て直しの一貫として、これまで新規出店をストップして店舗の改廃を進めてきた結果、新規出店のスペシャリストの育成、マネジメント人材が一時的に途絶えてしまったのである。
「すかいらーくの店舗開発は、独特のノウハウと経験で仕事を進めてきた部分が多く、継承することも難しかった」と人財本部人財採用グループディレクターの打木洋行氏は言う。
再成長を志向するすかいらーくにとっては、新たな店舗開発チームを設計・マネジメントができる人材獲得が急務。白羽の矢が立ったのが、小宮氏だった。
最初に入社した百貨店では、店舗設計や施工管理の経験を積む。続く外資系ファストフードチェーンは、単一ブランドで数千店舗を出店。本社によって正確に指示された店舗のデザインや設計に関し、役割を分担して効率的に店舗開発を進めてきた。
全社員が1つのブランドに集中して仕事を進める方法は、小宮氏にとってやりがいのあるものだった。しかし一方で、「ブランドが1つしかない」ということに物足りなさも感じていた。「すかいらーくは和洋中、高価格帯から低価格帯まで、様々なブランドで店舗開発に携われることが何よりも魅力」と小宮氏は言う。
2013年12月の入社からまだ1年も経っていないが、既に毎週の会議で、いくつも店舗案を社長に発表している。「社長以下、経営幹部たちの意思決定の早さが半端ではない」と小宮氏。ちょっと野心的かな?と思う店舗開発でも、社内に持ち帰ると「面白い!ぜひ進めよう」となる。打てば響く、かつてないスピード感に小宮氏も手応えを感じている。
すかいらーくにとって、小宮氏ら外部人材の積極採用は、経営戦略の大きな転換を意味する。すなわち、生え抜きの社員に加え、有能な外部人材も登用する、多様性を志向する会社になるということである。
国内市場にもまだまだ多くの出店余地があるうえに、将来の海外展開も視野に入れているすかいらーくグループの店舗展開においては、必要な人材のすべてを自前で採用し、育成していては間に合わない。
このため同社では、ベイン・キャピタルの傘下になった2011年以降、執行役員や部長クラスを中心に外部の人材を多く採用してきた。彼らの出身企業は、国内外の外食産業や流通、メーカー、インフラ、外資系金融機関などさまざま。サプライチェーンやマーケティング、経営企画、財務、人事など、多くの部門に配置されている。
どんな基準で外部から人材を登用しているのか。その採用手法を、人財本部の打木洋行氏に聞いた。
(聞き手は南壮一郎=ビズリーチ社長)
外部から積極的に幹部人材を採用しています。どのような狙いがあるのですか。

すかいらーく人財本部人財採用グループディレクター。
IT企業でシステムエンジニアを経験後、人事領域へ。2004年に人事ソリューションのレジェンダ・コーポレーションへ入社し、日系・外資系の様々な業界の企業へ採用業務の支援や給与アウトソーシング導入のプロジェクトマネジメントを務める。2013年6月より現職にて、全採用業務と人事サービス業務を統括。
打木:「何も変わっていない」のが最大のリスクであると、代表の谷が常々言っています。
例えば、子供のころに「すかいらーく」で食事をした世代がちょうど今、30~40代にさしかかっているんです。彼らが、自分の子どもたちを連れてすかいらーくブランドのレストランに行くとしましょう。その時に「自分の子供の頃と何も変わっていない」と思われてしまってはおしまいなんですね。
常に進化や前進が必要
常に進化や前進がなければいけない。新しく親になった世代がすかいらーくブランドの店に行って、「こんなに変わった」「便利になった」と感じてもらうことが重要です。そういった価値観をすかいらーく全体に浸透させる努力を続けています。
人材も同じです。長年すかいらーくで働いている人はもちろん、外部から入ってきた人も、変化を志向し、新しい価値を作っていくことを旗印に掲げて仕事に取り組んでもらっています。
すかいらーくグループには、全国約3000店、10工場での生産を垂直統合するサプライチェーンがあり、約5600人の正社員と9万人を超えるクルーがいます。さらに外部人材を採用して、多様な経験を持つチームを組織できれば、大きな価値が生み出せます。
ただし、外部から本部の主要なポジションに人材を入れるのには、既存の人材との関係などにおいて難しさも伴いませんか?
打木:以前から、すかいらーくには「いいものは取り入れていく」という風土がありました。とはいえ、ぶつかることももちろんあると思います。違うバックグラウンドの人間同士なのですから。しかし私から言えば、それを期待している面もある。いわゆる化学反応を起こしてほしいんです。
昨年採用した小宮に期待することも同じです。すかいらーくのなかの常識を、「世間的には非常識です」と言ってくれるような役割を期待しています。一方で、隠れた素晴らしいすかいらーくの常識を世間の常識となるよう広めてもらいたいとも思っています。
ですから、従来のすかいらーく文化にすっと染まってしまっても面白くない。外部から異質な存在として化学反応を起こせて、かつ、すかいらーくのカルチャーとも相性が良い。そんな人材を探すことが私たちの仕事だと思っています。
実は私も2013年に入社しました。現場経験のない新参者だったんですが、むしろ社外の経験やノウハウを吸収・活用したいという社員から積極的に相談されています。
採用したい人間とはトップが直接関わっていく
採用する人材は、打木さんが直接探したのですか。
打木:最初は人材紹介会社に依頼していたのですが、このポジションはなかなか上手くいかずに私自身で探すことにしました。いわゆる、ダイレクト・リクルーティングによる採用ですが、結果的に小宮とタイミング良く出会うことができました。今では、多くのポジションでダイレクト・リクルーティングを採用しています。
ご承知の通り、外食を含む小売業界は他業界と比べ給与水準が低いとイメージされています。しかも週末や祝日が書き入れ時ですから、世間一般のカレンダー休日が休みでないことも多い。こうした理由で人材紹介会社からコンタクトしても難色を示される方が少なくなかったんですね。
そこで、ある程度経験がある方には、直接執行役員レベルからメッセージを送った方がいいと考えました。小宮のケースでも、最初は店舗開発本部の執行役員からオファーを出し、1次面接は執行役員が担当しました。
結果的に、最初の面接で話が弾み、自然に将来の展望を議論する場となりました。ダイレクト・リクルーティングは文字通り直接メッセージが伝わりやすいと感じます。
確かに、幹部と直接話ができるのは転職の大きなきっかけとなるかもしれませんね。今では役員の方がいきなり面接に出ていくケースが増えているのですか?
打木:1次面接から役員ということも多いです。面接する役員も心得ていて、採用チームから依頼すれば皆フレキシブルに対応してくれます。良い人材を採用するためなら、誰もが協力するという土壌があります。
外部人材の登用にとって、人事制度などの変更は必要になりましたか?
打木:人事制度に関しては、従業員の士気が高まり、成長をより支援できるように改定しました。「シンプル」、「フレキシブル」、「フェア」、「オープン」をキーワードに、実力があり、実績を示している社員が早く認められ、より高い職責や職位に引き上げられ、それに伴い報酬が増えていく仕組みです。
そのための育成支援もさらに充実させつつあります。これにより、外部中途採用人財にもより魅力的な組織となり、人材市場の採用競争力もさらに強化されるものと確信しています。
すかいらーくは、外から見ると外食産業の安定企業に見えるかもしれませんが、中身はかなりチャレンジングなことに取り組んでいます。何より、社長以下経営陣が新しいことへのチャレンジを応援してくれているという雰囲気が心強いですね。
食に携わる仕事の魅力は、顧客の喜びや感動がダイレクトに伝わってくる身近さにあります。高齢化社会や女性の社会進出といった流れの中で、様々な食のニーズに対応し、家庭の食卓の延長としての存在が求められています。採用担当者としても、フードビジネスの素晴らしさや面白さ、そして当社の可能性を、もっと多くの優秀な方に積極的に伝えていきたいと考えています。
採用活動に経営陣のコミットは不可欠。役員の熱意が人材を動かす。