アルバイト・パート仕事は、与えられた役割を演じるロールプレイ――たかが仕事で、その人の人格が傷つく必要はない
株式会社ツナグ・ソリューションズは、現場を支えるアルバイト・パート人材に特化し、業界初となるアルバイト・パート専門の採用コンサルティング会社として2007年に創業。人材業界の中では、利益率の低い分野であるにも関わらず、急成長を遂げている。業界において確固たる地位を築いた背景には、どのような独自の組織マネジメントの流儀があったのだろうか。
安定的かつ継続的サービスの提供が飛躍的成長を可能にする
中土井:採用の業界で、アルバイト・パートに特化しようと考えたのはどうしてですか?
米田:この業界で、アルバイト・パートに特化している会社が1社もなかったからです。エグゼクティブや新卒の採用と比べて、アルバイト・パートの採用には、企業は予算をあまりかけません。ということは、この分野は儲からないビジネスだということです。
しかし、働く人数で考えてみると、アルバイト・パートのボリュームはとても大きい。現場で働くアルバイト・パートの方々が元気になれば、日本を元気にできると思っています。働く場所と機会が多くあり、そこで働く人々が元気に仕事に取り組めるような環境を作りたいと考えました。日本中に、明るいあいさつが飛び交うような職場がたくさんあると素敵です。
私は、もともとリクルートフロムエーというリクルートの子会社で働いていました。当時からアルバイト・パートに関わる仕事をしていて、そこで培った経験、ノウハウを生かして、現在の事業の立ち上げにいたっています。
中土井:独立してからすごい勢いで売上を伸ばしていますが、何がそれを可能にしているのですか?
米田:お客さまからの信頼を最も大切にしているということです。採用代行という仕事はスポットの仕事ではなく、継続的なお付き合いが必要になります。安定的かつ継続的なサービスの提供が求められる分野です。去年より今年、今年より来年、いいサービスを安定的かつ継続的に提供することができて、少しずつでもお客さまが増えれば、必然的に売上は上がっていくことになります。1社1社との信頼関係を築けたからこそ、増収につながっています。
安定的かつ継続的サービスの提供のためには、属人的な業務を減らしていく必要があります。弊社では、休暇制度を充実させ、きちんと休むことも仕事だとよく言っています。休みを多くすることは、ひとつの業務に関わる人を増やすことにつながります。休んだ時には引き継ぎ書を書いてもらうので、違うスタッフでも対応できるようになります。離職率も下がるので、長く勤めてもらうことで習熟度が上がり、サービスの質も高まります。
誠実で嘘のない仕事を目指すようになったのは、新卒時代の強烈な営業経験があったから。
中土井:お話を伺っていると、誠実に仕事をしたいという思いがとても強いことが伝わってきます。
米田:仕事に対しては、「ちゃんとしたい」という思いがとても強いと思います。誠実で嘘のない仕事をいつも目指しています。誠実な仕事をするためには、自分たちの存在意義を深く考えなければなりません。われわれは採用のマーケットで雇用の機会を増やす仕事をしているので、自社での雇用調整は絶対に行いません。採用代行を行っている以上、自身がまず雇用を生み出さなくてはいけないという思いがあるからです。また、採用代行業においては、営業利益が10%以上の仕事は基本的にやらないということも決めています。代行業が儲かりすぎていたらおかしいという思いがあるので、大きな利益幅は取らない方針です。
中土井:仕事に対して誠実でありたいと思うようになったきっかけは何かあるのですか?
米田:新卒でリクルートフロムエーに入社してすぐに経験した出来事が「ちゃんと仕事をしたい」という価値観の形成に影響していると思います。当時の私は、就職活動も順調で、希望の会社に入社することができました。フロムエーというアルバイト・パートの求人誌の営業として配属され、当然、仕事もすぐにできるだろうとなめてかかっていたところがあったと思います。同期の中でも一番初めに受注を得たいという思いが強かったです。
私の担当エリアに、夫婦ふたりで経営しているラーメン屋がありました。私はそこに何度も通って、そのお店から受注を得ることができました。念願叶って、同期の中でも一番初めの受注でした。掲載が終わり、そのお店へ行ったのですが求人に応募がなく、全く効果がなかったと言います。そのときに言われたことが忘れられません。「応募がなくてよかった。この店に人なんて必要ない」と言われたのです。採用の必要なんてなかったのです。話を聞くと、その夫婦の息子も私と同い年。新卒で営業をしていると言います。毎日帰ってきては、飛び込み営業が大変だと漏らしていたそうです。私と息子さんを重ねて見て、親心で受注をくれただけだったのです。掲載料の28840円はレジからではなく、自分の財布からくれました。その日は泣いて帰ったのを覚えています。自分は仕事をなめていたのだと思い知らされました。その経験が今の「誠実に仕事をする」という価値観のベースになっていると思います。
役割を演じるロールプレイととらえて仕事をすると、嘘をつく必要がない
中土井:最初の受注で、いきなり慢心をくじかれる経験をしているからこそ、今のスタンスにつながっているのですね。「誠実に仕事をする」ということを大事にされていますが、米田さんの仕事観を聞かせていただけますか?
米田:仕事はロールプレイだといつもみんなに話しています。それぞれに与えられた役割を演じて仕事をするのです。例えば、課長のロールを与えられたとしたら、他のメンバーに背中を見せて仕事をするという役割です。この役割に集中することがロールプレイです。
仕事はロールプレイだととらえると、本当の自分を仕事で出す必要はありません。職場で本当の自分で闘って、傷ついてしまう人がたくさんいると思います。仕事でその人個人が傷つく必要なんてありません。仕事がうまくいかなくて、怒られたとしても、その人個人の人間性に対してではなく、与えられた役割に対して怒られたととらえることができたら、仕事がしやすいと思いませんか? 役割を全うすることを目指してロールプレイで仕事をしていれば、嘘をつく必要もありません。全力で役割を演じることを楽しめばいいんです。それが、仕事を誠実にすることにつながります。
人間は完璧じゃないし、完璧である必要もないと思います。ちゃんとしていない自分がいてもいいのです。でも、仕事である以上、誠実に仕事に向き合わなければいけない。ちゃんとしていない自分がいることを認めているからこそ、仕事の場面ではちゃんとするために、仕事をロールプレイだととらえています。
仕事が終わってみんなで飲みに行くことがあります。そういうオフのときは、ロールから降りているときですので、厳しく言いすぎた日などは、「あれは言いすぎですよ」などと社員から注意されたりもします。仕事をロールプレイととらえているからこそ、オンとオフの線引きがはっきりします。
仕事は人生の中である一定の時間を過ごすので、人生を構成する重要な要素ではありますが、一部分に過ぎません。仕事の他にも、家族、友達、趣味、おいしい食事、面白い本や映画があって、その人の人生は形成されるものです。弊社では、「目標を達成する会社ではなく、約束を守る会社でありたい」という考えのもと、社員が「エンゲージメント(約束)」を設定しています。このエンゲージメントを設定するときにもこの考え方が反映されています。売上計画1億円を達成する、システム開発をする、エクセルを覚えるといったことと、映画を見に行くというエンゲージメントが同じ評価軸で並んでいたりします。売上計画を達成したとしても、エンゲージメントとして掲げていたのに映画を見に行かなかったら、評価が下がることもあります。
これまでに関わったすべての仲間が今の成長をつくり上げてくれた
中土井:仕事はロールプレイと言うと、ドライなイメージもありますが、米田さんの話を聞いていると、そういうわけでもないですね。ちゃんと人間臭い部分も認めてあげた上で、仕事はロールプレイだと言っている感じを受けました。
米田:採用の段階では、ロールに人を当てはめるのではなく、この人にはどんなロールが合うかというイメージで採用しています。まず、人とのつながりありきなのです。この会社を選んでくれて出会えた人たちなので、仲間という意識は強いです。採用を通じた人との出会いを大切に考えているので、正社員はもちろん、アルバイトの方の最終面接も全て社長である私が行っています。日本全国どこで面接があるとしても、直接会いに行きます。先日は仙台へアルバイトの方の最終面接に行ってきました。ここに来てくれてありがとうと伝える意味合いも強いです。
組み織りなすと書いて「組織」と書くように、組織には横の糸と縦の糸があります。組織における横の糸は、今のお客さま、仲間、目の前の仕事、縦の糸は会社が歩んできた歴史です。今の好業績は、過去に頑張ってきたからこそ成り立っているもの。今頑張っていることは未来につながります。このような縦の糸と横の糸が折り重なって、組織となるのだと考えています。
弊社では創業以来、1日でも在籍していた人の名前を全て入れたポスターを作っています。誰かが取った1本の電話が今の仕事につながっているのだという気持ちを持つようにしています。人とのつながりは組織において最も大切にしなければならないことですから。
対談を終えて
「仕事は単なるロールプレイだから、本当の自分を出す必要がない」という言葉だけを聞くと、まるで自分に嘘をつきながら仕事をするかのように聞こえます。しかし、米田社長のいう「本当の自分」とは、「完璧になんてなりようのない人間という生き物である自分」のことを指しています。仕事ができないからといって、あくまでそれはロールだから、「不完全でしかない自分」が否定されているわけではない、というメッセージを伝えています。
そして、「不完全でしかない自分」だからこそ、「ロールとしての自分」があることによって、誠意を持って仕事にチャレンジし続けることができます。こういった米田社長の仕事観が、社員に対する深い愛情と、仕事に妥協しないプロフェッショナル意識の高さの両立を可能にしているように思います。会社の急成長を支える米田社長の哲学を垣間見ることができた気がしました。
米田光宏氏
米田氏(左)と聞き手の中土井氏(右)