女性自ら「ガラスの天井」を突破することが不可欠【後編】

女性雇用女性自ら「ガラスの天井」を突破することが不可欠【後編】

前編では、男女雇用機会均等法以来の約30年間で、いかに女性労働力が拡大したかを「量」と「質」の両面から見てきました。そこで気になるのが、やはり「質」の問題です。

女性労働の「日本的貧困」

この点で、経済協力開発機構(OECD)が毎年発表している報告書「Education at a Glance」(図表で見る教育)の指摘は重要です。同報告書の2013年版では、日本の女性労働の未活用状況について次のように指摘しています。

(a)2011年時点で、OECD34加盟国の中で日本は5番目に大きな男女格差が存在する。男性の88%が就業している(OECD平均は80%)のに対し、女性は63%(同65%)。ほとんどの国は女性の教育水準が上がるとともに男女格差が縮小するが、日本は依然として大卒者の就業率で男女格差が大きいままである。日本は大学を卒業した女性の就業率が68%(OECD平均は79%)であるのに対し、大学を卒業した男性の同比率が92%(同88%)と高い。

(b)2011年時点で、就業女性の34.8%がパート労働である(OECD平均は26.0%)。

(c)大学・大学院の学位を取得した女性は、2000年の36%(対男女合計)から2011年には42%へと大きく上昇した。ただし、OECD平均は58%であり、男性よりも女性の方が学位取得者の割合が高い。

(d)大卒女性の専攻分野に大きな偏りが見られる。工学、製造、建築分野の女性卒業者の比率は11%と、OECDで最低となっている(OECD平均は27%)。自然科学分野では26%とOECDで下から2番目の水準である(同41%)。この点でやはり、リケジョ(理工系女子)ブームの現象も騒ぎ過ぎの域を出ないといっていいのではないか。

OECD指摘のように、日本の男女格差は依然として大きいままです。日本の経済社会では女性労働力はまだ「補完的役割」にとどまっているのが現状です。これが女性労働の「日本的貧困」なのです。

「20/30」の実効性を担保するための2要件

すなわち、潜在的な能力を備える高等教育卒業(大学・大学院)人材が、未活用状態にあるということです。多くの高学歴女性が、パートや派遣といった補助的作業に甘んじたり、非就業状態となっています。

戦前の就職難時代には「大学は出たけれど」という言葉が流行りましたが、現在の日本では、女性が大学を出てもその能力が生かされていません。人手不足だからという理由で、労働力の「量」的確保の最有力ルートとして女性労働力を活用するのではなく、女性労働力の「質」的側面にもっと注目しなくてはならないでしょう。女性労働力の潜在力を開花させるという視点から女性活用を捉え直すことが重要です。

政府が掲げる「20/30」(2020年に指導的地位に就く女性比率を30%に引き上げる)という目標設定は、女性の潜在力を触発させるうえで重要な第一歩となります。ちなみに現時点で指導的地位に就く女性比率は11.2%でしかありません。

ただ、国家目標とはあくまでも努力目標であり、机上の計画です。「20/30」の実効性を担保するには、(1)政府の大所高所からの阻害要因の徹底的な除去を進めるとともに(具体的には子供を預けられない女性の就業を促すための託児所整備など)、(2)企業が現場で女性を果敢に登用し、雇用条件(賃金格差・長時間労働など)の是正を進めていくこと――が不可欠です。

教育現場に女性の「ロールモデル」が不在

もちろん、単に政府や企業に任せっぱなしにするだけでは、「笛吹けど踊らず」の愚に陥ります。そこで、具体的かつ現実的に女性労働の「質」的強化や高度化を軌道に乗せるために、たとえば教育課程において有能な女性を大胆に大量登用することを提案します。

学校教育の現場を見ると、小学校、中学校の女性教員の比率は、それぞれ65.2%、42.1%と、かなり高い水準です。ところが、高校になると一転して27.7%と低くなります。

つまり、小学校、中学校はともかく、自分の将来の進路について、女子高生が女性の先輩から有益なアドバイスを受けられる機会は限られているということです。女子高生は自分にふさわしい、女性としての「ロールモデル(お手本)」を身近な学習の場でなかなか見出せないと言ってもいいでしょう。

ちなみに、女性教員の高校での比率を見ると、OECD34加盟国中、日本は20%台後半で最下位となっています。一方、イギリスは60%、アメリカは50%台後半、フランスは55%です。日本と同じように男女格差が大きい韓国ですら、高校の女性教員比率は45%なのです。

まして、将来の職業人として何らかの示唆を与えることになる大学・大学院における女性教員比率になると、日本は10%台後半であり、OECDでこれまた最下位です。米国は40%台後半、イギリスは40%前後、独仏は30%台後半、そして韓国でも35%になっています。

このように日本の女子学生は、自立心が芽生え、将来の人生を考えるようになったとき、尊敬し憧れる「ロールモデル」が身近になかなか見つけにくいのです。「20/30」目標の実現には、高質な女性労働力予備軍である子供たちの身近に、多才で多様な女性教員(高校・大学関連)を大量に、例えば3~5年以内に倍増規模にまで備えるべきではないでしょうか。そうした状況の中から、女子学生は自分の目標とする「ロールモデル」を探りだせる機会を増やせます。

「自己実現欲求」から仕事に取り組むことの重要性

女性活用を取り巻く阻害要因改善策には、さまざまなものがあります。たとえば、託児所の設置、子育て支援、長時間労働の改善、賃金・昇進格差の解消などです。

政府および企業がそれらの改善策の実現に立ち向かうのは必至でしょう、しかし、そうした外部環境が整っただけでは、女性労働力の活性化が現実の動きとして大きなうねりになるとは思えません。というのも、日本人女性自身の内側に、活性化を阻む要因が依然として残っているからです。それは欲求の「質」という問題です。

米国の心理学者アブラハム・マズローの「欲求5段階説」は、安定欲求、社会的帰属欲求、自己実現欲求の3段階に集約されますが、家計上の必要から労働参加するのは第1段階の安定欲求に過ぎません。デフレからの脱却を果たせない日本経済においては、この安定欲求に基づいた女性労働参加は今後も拡大していくでしょう。

さらに、成熟段階に達した日本経済で強まっているのは、社会的つながりや関係を求める第2段階の社会的帰属欲求です。家庭の中に閉じこもるのではなく、社会と広く接触したいという欲求から、労働参加していく女性もこれからは一段と増えていくはずです。

問題は、女性自身が第3段階の自己実現欲求(働き甲斐や生き甲斐など多様で創造的な仕事欲求)に覚醒できるかどうかです。女性が自己実現欲求を持って仕事に取り組むことこそが、質の高い女性労働力を生かすうえで決定的に重要なトリガーになるからです。

それでも残存する古い価値観

日本の女子学生が自己実現欲求にいかに覚醒していくかは、教育現場における「ロールモデル」の存在と充実に加えて、最終的には本人と親・保護者の基本的役割(責務)が大切になるでしょう。自立心が芽生え、将来に夢をはせる子供にとって、身近な家庭での“一押し”が決定的に重要です。

ある調査によれば、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という古い価値観を持つ人は、1980年に72.6%も存在しました。それが2009年には41.3%にまで下がってきています。

しかしよく見ると、まだ4割の人が古い価値観に囚われているとも言えます。本音を探っていくと、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という価値観を持っている人の割合は4割をかなり超えている気がします。古い価値観が多く残存するままでは、いくら外部環境を整えても、女性の欲求の「質」は改善されないままです。

政府や企業、さらに学校で女性労働力へのポジティブな動きが広がり一般化すれば、たしかに女性労働力の拡大化は“点火”するでしょう。ただし、ヒラリー・クリントン女史の言葉を借りれば、「女性の社会的進出は一見、かつての『鉄の天井』ではなく、青空が広がっているように見えるが、実は『ガラスの天井』に覆われている」のです。この「ガラスの天井」に女性労働を阻害する、外側要因(制度・慣行や社会的仕組みなど)と内側要因(女性本人や周囲の価値観など)が関わります。

「ガラスの天井」突破の第一歩は親の価値観転換

後者の阻害要因の「ガラスの天井」こそ、女性自身が打ち崩さねばならないもので、最も身近な親や保護者の価値観そのものなのではないでしょうか。

私自身も30数年間の大学教師時代に女子学生の就職について数多くの親から相談されました。多くの親から「どこの会社が良い就職先ですか。良い就職先が見つかれば、良い人と巡り会える機会もいろいろと増え、良い結婚につながる。それが娘の幸せだと思います」と幾度となく質問された経験を持ちます。

本人の能力を発揮するためではなく、良縁を求めるために就職先を探すという傾向が払拭されないかぎり、「ガラスの天井」がなくなることはないと思います。

たしかに、親や保護者からすれば、将来子供や家庭を持つ娘に社会の荒波で辛酸をなめさせたくないと願い、良縁が最善の選択と考えるのは理解できます。これが多くの親に根強い「安定志向」の価値観なのです。むろん現在ではずっと少なくはなってきましたが、就職先として男の子に「大企業」、女の子に「良縁」をと、多くの親が結局は安定・安全なところを選択してしまう現実を私は何度となく経験しています。

だからこそ「ガラスの天井」を突き破らない限り、女性労働の量的拡大は今後一段と進むとはいえ、その活性化、すなわち質的拡充の道は険しいのではないでしょうか。