「量」は増えても「質」が劣化する女性の労働市場【前編】

女性雇用「量」は増えても「質」が劣化する女性の労働市場【前編】

9月3日に行われた内閣改造で過去最多に並ぶ5人の女性閣僚が誕生するなど、安倍政権はことのほか「女性の活躍」に意欲的です。女性労働力を活性化するには、どういう対策が必要なのでしょうか。

切実さ増す女性労働力の拡大

日本女性が持つ「なでしこ精神」や「女らしさ」は長年、文化的美徳として称えられてきましたが、同時にそれらが「男主女従のしきたり」や「男女格差」を支える“文化的岩盤”になってきたとも言えます。

もっとも最近は、表立って男中心社会を擁護したり、男女均等を批判する声は小さくなっています。政府、自治体そして企業も、男女同権や女性労働拡大に積極的です。

こうした流れに立って、安倍政権は女性労働活用の阻害要因を取り除き、女性労働力の活性化に大きく踏み込んでいくことができるのでしょうか。

まず、女性活用の前提として、人手不足がいよいよ現実化してきたことを重く受け止めなければなりません。人手不足が表面化してきた契機は、今年4月の消費増税の直前に起きた駆け込み消費です。駆け込み消費に対応するため、それまでは長いデフレで隠されていた人手不足という現実が露呈しました。

デフレすなわち需要不足という特殊要因を取り除けば、すでに1990年代中頃から労働力不足は始まっていました。統計的に見ると、95年をピークに生産年齢人口(15~64歳)は減少トレンドに入っています。

労働力の減少は成長鈍化に直結する問題

そうした中で労働力人口(生産年齢人口のうち労働市場に参加する人口)は、98年(約6800万人)をピークに、この15年間で216万人も減少しました。今後16年間でさらに550万~600万人減少して、2030年には6000万人前後になると見られています。日本は完全に労働力減少社会に入っているのです。

労働力減少は成長鈍化に直結します。成長方程式の1つに「実質経済成長率=労働生産性上昇率+労働力人口変化率」があります。労働生産性上昇率が一定であると仮定すれば、労働力人口変化率がマイナスの場合、日本の経済成長率(潜在成長率)は低下していくことになります。

では、労働力不足を解消し、日本の経済成長率を引き上げるには、どうすればいいのでしょうか。労働力不足への対策は、具体的には4つしかないと考えられています。

1つめは、外国人労働者の受け入れを解禁することです。現在も、技能実習生制度や外国人看護師・介護士の受け入れが行われていますが、部分的なものにとどまっています。労働力不足を解消するには、外国人の移民を大幅に増やす必要があります。

2つめは、ロボット・ITの広範かつ革新的な導入です。ロボット・ITの発展により、人間の仕事が奪われるという声がありますが、それは言い換えると、労働力が足りない仕事をロボット・ITが補ってくれることを意味します。

男女が協調して「新しい社会」をつくる

3つめは、労働生産性の向上です。成長方程式でいえば、労働力人口変化率のマイナスについてはあきらめ、労働生産性上昇によって経済成長率を高めていくことになります。

そして4つめが、女性労働力の活用です。外国人労働者の受け入れについては、社会的な摩擦の発生などさまざまな議論がありますが、女性労働力の活用については国民の理解が得やすいという利点があります。また、ロボット・ITの発展には時間がかかりますし、労働生産性の向上も困難かつ不透明です。

結局、女性労働力の活用が最も現実的ということで、政府を中心に日本中が注目しているというわけです。

しかし、女性活用は単に労働力不足の解消にとどまるものではありません。男性と女性が協調して新しく望ましい社会を建設するという、より大きな社会観にかかわってきます。労働力不足の観点からしか女性活用を見ていない人たちは、そうした社会的議論にもしっかりと目を向ける必要があるでしょう。

男女雇用均等法から約30年、女性労働力に3つの変化

ここで、女性活用の歴史を振り返っておきたいと思います。女性労働力の拡大さらに活用をめぐっては、2つの法律制定がその流れをつくるうえで効果がありました。1つは86年の「男女雇用機会均等法」、もう1つは99年の「男女共同参画基本法」です。

均等法から約30年が経ち、女性労働力(15~64歳)には3つの変化が起きています。

1つめは、女性就業率(女性の生産年齢人口に対する女性就業者の割合)の上昇です。経済協力開発機構(OECD)の統計によれば、均等法以前の85年には、日本の女性就業率は53.2%でした(米国は59.2%、OECD平均はデータなし)。それが2005年には58.1%(米国は65.6%、OECD平均は55.9%)、2013年には62.5%(米国は62.3%、OECD平均は57.4%)と上昇しています。この30年で日本の女性就業率は10%程度上昇しました。

日本の女性就業率は、OECD平均よりは上になりましたが、ヨーロッパの主要先進国と比べるとなお低レベルにあります。女性活用の余地はまだまだあると言えます。

2つめは、いわゆる「Mカーブ」(結婚・出産で女性が退職して就業率が落ち込み、育児終了後に再び就業するため就業率のグラフがM字を描く)の改善です。このMカーブは先進国の中では日本(と韓国)に特有の現象です。

85年には、日本の女性就業率は25~29歳で52%、30~34歳で48%、35~39歳で60%と、結婚・出産・育児期にM字の底を示していました。それが2011年には、25~29歳で73%(+21%)、30~34歳で64%(+16%)、35~39歳で64%(+4%)と、M字がなだらかとなっています。出産・育児期となる30代を通して就業率に変化が見られなくなっているのです。

しかし、“お寒い状況”が依然として続いている

3つめは、共働き世帯が片働き世帯(大半は専業主婦世帯)を上回ったということです。80年には共働き世帯が720万世帯であったのに対し、片働き世帯は952万世帯と大幅に上回っていました。それが2010年には共働き世帯が1012万世帯となり、片働き世帯の797万世帯を大きく引き離しています。

以上のように、女性労働力はこの30年間で着実に拡大しつつあります。しかし、その内容について見ていくと、“お寒い状況”が依然として続いていることがわかってきます。

まずは、就業の「量」が増えている一方で、「質」が劣化しているということです。上述したように「Mカーブ」が改善しているのは事実ですが、女性就業率上昇の中心となっているのは、パートやアルバイト、派遣社員、嘱託といった非正規雇用です。

1987年と2007年を比べると、正社員は25~29歳で6.5%、30~24歳で7.2%増えています。一方、非正規は25~29歳で17.6%、30~34歳で15.6%増えている。つまり、正社員の増加に比べて、非正規は2~3倍も増えているのです。

また、この30年間で25~34歳の女性就業率が増加したのは、非正規雇用の増大ということに加えて、未婚化・晩婚化が大きく影響しています。男女平等が進んだから就業率が上昇したとは一概に言えないのです。

女性の「理想と現実のギャップ」

女性管理職比率の低さも依然として問題になっています。2013年時点で、日本の女性管理職比率はわずか11.2%に過ぎません。一方、米国は43.7%、フランスは39.4%、スウェーデンは35.5%、イギリスは34.2%、ドイツは28.6%と、日本よりもはるかに高い水準です。日本より低いのは韓国の11.0%くらいです。

さらに、女性の「理想と現実のギャップ」も解消されていません。2012年の調査によれば、仕事と家庭を両立させたいという理想を抱く女性は29.7%ですが、現実に両立できている女性は20.0%。一方で、仕事を優先させたいという理想を抱く女性は3.0%しかいませんが、現実に仕事を優先させてしまっている女性は15.7%も存在します。

働く女性は現実的には仕事優先にならざるを得なくなっており、家庭との両立は崩れてしまっているのでしょう。イライラしながら働いている現状というのは、決して「質」の良い状態とは言えません。

また、「失われた20年」(91~2011年)の長期デフレ下で、夫の給与水準が伸び悩んだり、リストラに遭ったりする中で、家計上の必要から女性の就業が進んできたという面も強いと思います。すべての女性が喜んで働いているというわけではないのです。

とはいえ、徐々にではありますがこの30年間に女性労働が大きな流れとなってきたことは否定できません。今後の労働力不足経済のなかで、女性労働力の量的拡大がさらに進んでいくことも間違いないでしょう。

その過程で、雇用条件や賃金の格差なども改善されていくはずです。さらに政府および企業の前向きな各種対応が期待されます。