総合仕事で成果、休みも取得 長時間労働是正に知恵
先進国の中で日本の長時間労働は際立っている。「ノー残業デー」を設けて社員に定時退社を促す企業は増えているが、それほど大きな効果は出ていない。そこで、さらに一歩踏み出す企業も登場してきた。仕事で成果を出しながら、休息もしっかりとれる職場とは――。
「この働き方、一度味わったら、もう元の働き方には戻れませんよ」。三菱ふそうトラック・バスの財務管理本部で全国の支店の財務監査を担当する田中裕さん(28)はしみじみと話す。「この働き方」とは同社が本社の管理や営業、研究所などの社員を対象に昨年本格導入したユニークなフレックスタイム制度だ。
■働き方にメリハリ
フレックスといっても始業や終業時刻を社員が決められる通常のフレックスタイム制とはひと味違う。1日のうち必ず就業しなければならない「コアタイム」がないほか、所定労働時間に満たない月でも給料が減らないという。
最大の特徴はその月に実際に働いた時間が所定労働時間を下回っても、不足した労働時間が累計で30時間までなら翌月以降に繰り越して清算され、賃金が支払われる点。例えば1カ月の所定労働時間が160時間の部署で、7月は150時間、8月は155時間しか働かず、9月は15時間残業して175時間働いた場合、7月と8月の給料から労働時間の不足分が引かれない。つまり7~9月は毎月同じ給料をもらえるといったことが可能だ。
「繁忙期は地方の拠点を集中して回るため朝6時半から夜10時頃まで出っぱなしだが、閑散期はちゃんと休める。休んだ分がその月の給料から引かれないので安心」と田中さん。コアタイムもないため、「朝7時に出勤して午後3時に帰ってもいいし、有給休暇制度を使わずにフレックスタイム制度を利用して丸1日休むこともできる」と財務管理本部RSC財務管理部の原沢正登部長は説明する。
労働基準法では1日8時間、週40時間超の時間外勤務には原則残業代が発生する。従来の給与体系のままで会社側が残業削減を求めても、残業代がなくなれば給与が下がると考える社員は少なくない。残業抑制と人件費カットが連動したままでフレックスタイム制などを導入しても、制度の効果が十分に発揮しにくいと考える企業は三菱ふそう以外でも出てきている。
実際に働いた時間にかかわらず一定の時間働いたものとみなして賃金が支払われる裁量労働制やフレックスタイムなどを業務に応じて柔軟に利用できるようにしているのがダイキン工業だ。時差のある海外拠点との遠隔会議に出る機会が多いアプライド・ソリューション事業本部で働く藤戸利明さん(38)は日本時間の朝8時から始まる米国との電話会議に出席する日の前日や当日は裁量労働制を利用して早めに仕事を切り上げることもあるという。
「うちのように時差のある会議に出る機会が多い部署では裁量労働制のような柔軟な働き方ができる方が成果が上げやすいし、健康も維持しやすい」(アプライド・ソリューション事業本部の西川幸子管理担当課長)
ただ時間ではなく成果で賃金が支払われる仕組みは労働時間管理のタガが外れ、残業代ゼロで働かされるのではと懸念する声もある。EU諸国では勤務終了から翌日の勤務開始までに一定の休息時間の確保を義務付ける「勤務間インターバル規制」という共通した労働基準があるが、日本の法制にはない。
現状では1日に8時間、週40時間を超えて働かせてはならないとする労働時間の限度はあるが労使合意に基づく届け出があればこれを超えてもいい。人事マネジメントに詳しい大和総研の広川明子主任コンサルタントは「日本でも今後はインターバル規制のようなものを検討しなければならない」と強調する。
そこで、個々の社員が“自分インターバル”を確保しながら柔軟に働ける仕組みを導入する企業も出てきた。テンプスタッフでは前日に遅くまで働いた社員が翌日の始業時刻をずらして働ける。
通常の勤務時間は午前9時から午後6時までだが、始業時刻は「午前10時」「午前11時」「正午」「午後1時」の中からも選べる。上司に前日までに口頭で言えば、選んだ始業時刻から8時間働けばいい。
顧客企業などから午後6時をすぎてからも問い合わせや依頼があるが、「顧客対応も他社との競争なので手を抜くことはできない。社員の健康面も考えて、勤務時間をずらして社員の休息を確保できるようにした」(人事部の細田鋼司部長)という。
■人材確保に直結
働いた時間ではなく、仕事の成果で給料を支払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入が政府の成長戦略に盛り込まれた。労働時間の規制を取り払い成果に応じて報酬を決める仕組みで、早ければ2016年度から導入される。対象となる人が限定されているものの、働き方に対する考え方が大きく転換するのは間違いない。
特定社会保険労務士で、企業の人事マネジメントに詳しいヒューマンテック経営研究所(東京・中央)の藤原伸吾所長は「裁量労働制の対象を広げるなど柔軟な働き方ができるように職場環境を整えることが優秀な人材の確保にもつながる」と指摘している。


