チームの力、ネットで強まる 決定には責任持つ覚悟を

組織・制度チームの力、ネットで強まる 決定には責任持つ覚悟を

東洋大学情報連携学部の坂村健学部長(70)は日本のコンピューター産業を最前線で引っ張ってきた。コンピューター科学者として国産の組み込み型基本ソフト(OS)「TRON(トロン)」を開発し、現在は後進の研究者や学生を指導する。若い頃から様々なプロジェクトに関わってきた坂村氏は、リーダーに求められる資質を「責任を持つ覚悟」と考えている。

――良いリーダーには何が必要だと思いますか。

「リーダーのあるべき姿は、どんな組織なのか、どんな経済環境やビジネスモデルなのか、といった条件によって変わってきます。こういう人ならどんな組織のリーダーにもなれる、なんて人はいませんよ。和をもってよしとするのがいい状況もあれば、リーダーシップを強く出してチームを引っ張っていかないといけない状況もあります」

「ただ共通しているのは、自分が決定したことに対して責任を持つ覚悟ではないでしょうか。リーダーとは決定権を持つ存在です。自分の組織がどうなっているのか、リーダーは状況をしっかり把握しないと、次にどうすべきかを決めることはできません」

東洋大学情報連携学部長 坂村健氏

――若い頃からチームのリーダーとしてプロジェクトを進めてきたのでしょうか。

「僕が学生の頃、研究はチームで行うものではなかったです。当時は個人主義で、一人で研究するスタイルが主流でしたから。研究者としてのキャリアのスタート地点ともいえるトロンを始めたのは1984年です。79年に慶応義塾大学の大学院を修了し、すぐに東京大学の助手になりました。その後、講師になろうとしていた頃です」

「まだ今ほどコンピューターが進歩していなかった時代です。普及し始めていた大型コンピューターの研究は一人で行うのは難しかった。そういう中で、70年代にマイクロコンピューターが登場したことで、これなら研究チームを組まなくてもできそうだと考え、一人でプロジェクトを立ち上げたのです」

――研究の進め方が個人からチームへ、変わってきたのはいつごろからでしょう。

「チームの力が強くなったのは、インターネットが普及し始めた頃でしょうね。80年代にインターネットは民間開放されました。それまでは軍事技術だったのです。やはりインターネットの普及が、人と人とが密接に連携することを簡単にしたんですよ」

「昔はとにかく連絡を取り合うのが大変だった。電話をかけるか、手紙を書くか、直接会うかしかないでしょう。研究の途中で24時間いつでも相談できない。いまはメールもあるし、SNS(交流サイト)もある。遠く離れている人と連携しやすくなった。環境の変化がいまのチームの基礎になっていますね」

実績重ね、人を巻き込む

――トロンの開発も裾野が年々広がり、チームで取り組む機会が増えました。

「仲間を増やすためにはアピールが必要です。その手段が研究論文を書いて発表することでした。最初は一人でしたが、研究者として学会で発表するうちに産業界から評価が集まり、一緒にやらせてほしいと声をかけられる機会が少しずつ増えました。企業との連携や共同研究などを通じて徐々に取り組みの幅が広がっていきました」

国産OS「TRON」のプロジェクトを進めた(1985年)

「トロンの研究は20年ほど前から応用分野にシフトしてきました。現在は複数のプロジェクトに分散しています。『トロンフォーラム』をはじめ、東京都などで進む公共交通機関のデータ活用『公共交通オープンデータチャレンジ』、あらゆるモノがネットにつながるIoTやAIによる住宅づくり、また地方自治体のDX支援など多岐にわたります。コンピューターそのものの研究から始まったトロンの軸足が、社会への実装へと広がってきています」

「マイクロチップの研究はほぼ完成に近づき、安定した技術になってきました。一方で応用の方はまだ無限にいろいろ思いつくのでなかなか終点が見えません。だからこそ私の研究やプロジェクト自身も分散させ、それらが緩やかに連携しながら大きなシステムになって動くという形で研究を進めています」

――チームで物事を進めるうえで、リーダーの役割として何を重視しますか。

「バランス感覚は重要ですね。特定の物事や考えに固執するのは、チームのリーダーにふさわしくありません。『自分が若い頃はこうだったから』などと上から言われても、今の若い人たちにはピンときませんよ。時代も状況も世の中の流れも違うし、科学技術も進歩しています。ビジョンというのは柔軟であるべきです。こういう選択肢しかないとワンパターンに決めるのではなく、どんどん変えていかないといけません」

会議では盛り上げ役

――時代の変化に対応するために心がけていることはありますか。

「新型コロナウイルス禍では老舗でも潰れた会社がありました。どんなに大きい会社でも、未来永久に一回の成功が続くとは考えにくい。大事なことは、常にチャレンジ精神を持つことでしょう。挑戦することがなくなれば、組織は衰退してしまい、会社だったら成長しなくなります」

――チームを円滑に運営する秘訣は何でしょうか。

「ディスカッションを盛り上げることです。チームで動く場合、皆の前で自分は何を考えているのかをプレゼンテーションしてもらうのは不可欠です。そこで意見が言いやすくなるように、組織の環境を整えています」

「誰かの話を聞き、それを踏まえて次の人が話すわけですが、コミュニケーションの質を高めていかないとチームで研究はできません。最近はコロナ禍でいろいろ難しい面もありますが。コミュニケーションを盛り上げるのはやはりリーダーの役目ですよね」

「例えば『会社は誰のものか』という問いの答えも、昔は株主だったのが、今はひとつの会社だけがもうかればいいという話ではなくなっています。最近はSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれ、地球環境やカーボンニュートラルなど新たな問題も登場しています。世界は様々な人の協力で成立しています。多様な視点で物事を考える姿勢がますます求められています」