「働かないおじさん」を生む、3つのズレと解決方法

教育・研修「働かないおじさん」を生む、3つのズレと解決方法

社員の「働かないおじさん」化を防ぐ、チェックポイント

「何だか意欲が低い」「頑張っているけど方向性が違う」「今の時代とスキルが合っていない」など、ミドルシニアの不活性化に関して、企業の経営者や人事からさまざまな相談をいただきます。

画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ

そうした際に、「問題点はどこにあるのか?」「どこに注目すれば解決できるのか?」を考えるフレームワークを紹介します。

「WILL-MUST-CAN」です。

WILLとは

「やりたいこと」や「ありたい姿」など、本人の意思や欲求や価値観

MUSTとは

「やるべきこと」や「周囲からの期待」など、周囲からの期待役割やニーズ

CANとは

「できること」や「得意なこと」など、本人の能力、スキル、強み

キャリア研修やカウンセリングでは、本人に上記3つをそれぞれ円として図示してもらい、その円の重なり方や大きさによって、仕事に対するやる気・期待・能力といった「自分の状態」を把握してもらいます。

WILL-MUST-CANが大きくかつ重なっている人は、ハイパフォーマーとして活躍している場合が多いです。本人が仕事にやりがいを感じていて、その仕事が周囲から期待されており、実際それを遂行する能力もあるという、理想的な状態です。

一方、ローパフォーマーはWILL-MUST-CANのいずれかが小さい、または離れているなど、ズレが生じた状態になっていることが多いです。

WILL-MUST-CANが大きくかつ重なっているのが理想。WILL-MUST-CANのいずれかが小さい、または離れているとローパフォーマーになりやすい

ここからは「WILL-MUST-CANがなぜズレるのか?」「どうすればズレを改善できるのか」を解説します。

WILLの変化

普通は、入社当初からいきなりWILL(やる気や意欲)がない人はいません。少なくとも、自分の意志で採用選考を受けに来て「御社で○○の仕事をしたい」「こういう点に魅力を感じています」と言っていたはずです。

では、なぜあったはずのWILLがズレたり、小さくなったりしてしまうのでしょうか?

本人側の原因

理想と現実のギャップ。具体的には、自分が期待していた仕事、状態、成果、評価が得られないなど。また、心身の衰えや不調、飽き、人間関係、家庭問題なども、意欲が減退する原因になる場合があります。

会社側の原因

コミュニケーション不足。具体的には、本人の志向を把握していない、本人が望まない仕事や役割を与えている、そもそも話自体をしていない、など。

対策

動機付けを高めるには、「やるべき仕事」と「自分のやりたいこと」「ありたい姿」がつながっていることが重要です。

若手には細かく話を聞いていても、ベテランの部下には小まめなコミュニケーションができていない(やっていない)上司が見受けられます。「ベテランなので、やる気なんてあって当然だし本人次第」「今更、やりたいことや希望をあらためて聴くのも違和感がある」と言う上司は存在します。

しかし、いかにベテランであっても、やる気を保つためには上司や周囲からのフィードバックや対話は不可欠です。実際、大手企業の50代管理職向けの研修でも、「やっぱり、人から褒められたいよね」「楽しい仕事と、楽しくない仕事はあるよ」「後から振り返って、やり切ったと言える会社生活を歩みたい」など、若手社員と変わらない気持ちの吐露を多数聞きます。

会社内で立場が上がると、周りからの承認機会や素直に自分の欲求や意志を吐き出す機会が減ってしまっている場合もあるので、人事や上司側が工夫して本人のWILLを聴く機会を設けることも有効です。

MUSTのズレ

年齢も勤続年数も高いミドルシニア社員の場合、CAN(能力)以上にMUST(期待役割)がズレているケースが多数見られます。

MUSTがズレると、どんなに本人が頑張っても、価値ある成果を出すことはできません。本人は頑張っているつもりなので、会社や上司から評価されないと被害者意識や不満足感を持ちやすくなります。

経験や能力もあるはずなのに成果が出ない、やる気はあるが空回りする人の場合、本人側、会社側の双方に原因がある場合があります。

本人側の原因

期待の誤解を起こしている場合。具体的には、理解や情報が不足していたり、経営方針や事業戦略などの情報が古かったり、上司との確認不足があったりなどが挙げられます。

自分の都合よく期待を解釈していることもあれば、自分の立場や雇用を守りたいという気持ちから、周囲の期待を「誤解」でなく「曲解」している場合もあります。

会社側の原因

会社の説明不足。具体的には、戦略や方向性の変化や更新を個に落とし込んでいない、期待する働き方や成果を明示していないといった場合が当てはまります。また、全体通知のみで本人の理解を確認していないなど、確認不足が原因の場合もあります。

対策

「若手じゃないんだから、会社の期待は言わなくても理解しているはず(理解するべき)」という経営者や上司がいますが、相手が超能力者でもない限り、言わなければ伝わるはずがありません。

期待役割を伝えていなかったり、上司が言語化できていなかったりする場合、責任は本人ではなく、はっきり言って上司や人事の怠慢です。

特に中期経営計画や事業構造改革や経営体制の変更などで、会社の戦略やビジネスモデルが大きく転換する際には、一方的な通達やWebの案内だけでなく、対面で今後の期待役割を伝えた上で、どう理解したか本人の口で言語化してもらうほうがよいでしょう。

MUSTに関しては、テレワークやAI化が進んでいる現在、「動画で経営メッセージを発信」「チャットツールで資料を共有」「経営者や上司が言いっぱなし」などで終わらせてしまい、社員個人に届いていない場合が見受けられます。

CANの不足

CAN(能力やスキル)の不足は、一般的には新入社員や中途入社者、配置転換した社員に発生しますが、最近は技術の進展や戦略変更に伴い、経験豊富なベテラン社員でも能力的についていけないケースも増えています。

ベテラン社員が能力的に不足する場合、単にOJTなどの教育だけでは解決しない場合があります。

本人の原因

「変化対応力」と「学習意欲」の減退。

意欲は高いがスキルや知識が不足している場合は、教育や本人の努力で解決しやすいです。一方、面倒くさい、失敗が怖い、今までのやり方に固執したいなど「変化や学習自体に抵抗感がある」場合、まずは「変化の必要性」「変化しないことのリスク」を上司や人事が伝えていく必要があります。

会社側の原因

注意指導の不足が挙げられます。具体的には、成長してほしいこと、改善が必要なことを伝えていない場合などが当てはまります。

また、本人の興味や強み、またはキャリアを考慮せずに業務や職務の配置を行う「不適材不適所」も、本人に興味がないことを学ばせる(やらせる)ことになり、学習意欲を低下させやすくなります。

「この人が問題」ではなく「ズレが問題」

上記のように、ミドルシニアの不活性は「本人が全面的にダメ」ということではなく「何かにギャップやズレが生じている」場合が多いので、本人が書いた「WILL-MUST-CAN」を基に話し合うことが効果的です。

ズレが生じる原因は、本人側に問題がある場合もあれば会社側にある場合もあります。「成果が出ないのは、本人の責任だ」などと上司が一方的に決めつけると、建設的な問題解決につながりません。

問題を解決するためには、本人と上司(または人事)が「お互いに改善できることがあるかもしれない。一緒に考えよう」と謙虚かつ真剣に対話する姿勢が大切です。

その上で「何がギャップなのか」「ギャップをどう解消するか」「どのような状態になりたいか」について、本人と上司で共有しながら検討し、人事が両者を支援する3者の連携が、「働かないおじさん」を減らすことにつながります。