「転職は裏切り」と考えるザンネンな企業が、知るべき真実

中途「転職は裏切り」と考えるザンネンな企業が、知るべき真実

会社を出て行った人は、裏切り者なのか? はたまた、未来の戦力なのか?

先週、「転職」という個人の決断の顛末(てんまつ)が、SNSで話題になりました。

あるTwitterの投稿によれば、「新卒3年目の若手が会社を辞めたい」旨を上司に伝えたところ、上司から「今のお前はどこに行っても通用しない」と説教されたそうです。そこで若手は上司にこう言い返しました。

「3年も在籍して外で一切通用しない職場にこれ以上いたら本当に駄目になるので辞める決心がつきました」

この投稿は瞬く間に拡散され、「これってパワハラでしょ」「3年も雇って育てられないってこと?」「辞めてくれて上司は喜んでいるのでは?」などなど、賛否両論のコメントが書き込まれました。中には「引き止められるうちが花」と、昨今の希望退職という名のリストラへの理不尽をついたコメントも散見されました。

新卒3年目──。

この時期にあたる20代後半から30歳前後は、キャリアの初期のステージから中期の移行期。キャリアの準備段階を終え(=キャリア初期)、本物のトラックへのスターターピストルが鳴らされるのです(=キャリア中期)。

キャリア中期への入り口となる、新卒三年目(提供:ゲッティイメージズ)

人生は「将来なりたいもの」を夢みる幼少期からスタート。多くの人は学生時代を謳歌したのち、就職活動を経て就職します。その後は40年もの歳月を働くことに費やし、さまざまなキャリアを経験し、やがてリタイアを迎え、終止符を打つ。

キャリア人生の、それぞれのステージを通過する際に遭遇する壁が、“節目ストレス”と呼ばれるものです。

キャリアの初期ステージから中期への移行期では、実際にキャリアを重ね、仕事と正面から向き合った結果、「本当に自分のやりたい仕事・自分に合った仕事は、いったい何なんだろう?」と、迷うようになる。節目ストレスを乗り越えるための対処が求められる時期と言い換えることもできます。

もちろん、「いまやっている仕事を続けていこう!」と、迷うことなく壁を乗り越えられる人もいます。しかし、多くの人たちが「このままでいいのかなぁ」という曖昧な不安から、ある人は転職を、ある人は留学を、また、ある人は「いっそのことベンチャーを立ち上げよう!」と起業を考えたりする。当然、迷った末に「よし、今の仕事を全力でやっていこう! これが俺の道だ!」と会社の戦力になる決意をする人もいます。

「大卒の新入社員のうち3割が3年以内に辞めてしまう」のも、キャリアの節目ストレスによるものと解釈できます。節目ストレスへの対処として「離職」を選択するのです。

実際、新卒3割離職はあたかも「ゆとり教育の問題」のように報じられますが、バブル期の1987年の離職率も29.3%。92年は23.7%と若干低下し、2004年の36.6%と高くなるなど多少の変動はあるものの、おおむね3割が辞めています。3年で3割が辞める状況は30年間、変わっていないのです(厚労省調べ)。

いつの時代も、おおむね3割の新卒が3年以内に辞めている(提供:ゲッティイメージズ)

その一方で、人は利益より損失に対して強く反応するため、なかなか一歩前に進む踏ん切りがつかないのも事実です。

件のTwitterのケースでは、図らずも上司の意地悪な一言が背中を押した。もし、上司が本気で引き止めたければ、部下の曖昧な不安に寄り添う気持ちが必要でした。

ほんの一瞬でも立ち止まって考えれば、「今のお前は通用しない」と言われて、「そうですよねー。んじゃ、もっとここで頑張ります!」と答える人など、いないことが分かるはずです(上司の真意は計りかねますが……)。

いずれにせよ、日本では生産性の低さの大きな要因として「雇用の流動性の低さ」がたびたび話題となるのに、いまだに「転職=会社への裏切り」と捉える意味不明な企業や上司が存在する。

「会社を辞めたい」と切り出した途端、「誰に誘われたんだ!?」と社員たちに疑いのまなざしを向けたり、他社からの引き抜きを警戒したり、ひどい場合は「今、辞めるんだったら違約金を払え!」などと脅すケースも。「手塩をかけて育ててきたのに、今さら裏切るのか?」という思いが、ハラスメントにつながってしまうのです。

私がインタビューした人の中にも、上司から「辞めないでくれ」と懇願されため、仕方がなく退職を断念したところ、閑職に異動を命じられたケースがありました。いわば、「裏切るとこうなるんだよ」と他の社員への見せしめです。

こういった教条主義のまん延した組織があるという現実は、残念としか言いようがありません。

しかしながら、「光」もあります。

転職者の“出戻り”を歓迎する企業が、少しずつではありますが増えてきているのです。

多くの先駆的な制度を取り入れている富士通では、転職や留学を含む退職者を再雇用する「カムバック制度」を16年からスタート。大日本印刷(DNP)も19年に退職理由を問わずに再入社できる「ジョブ・リターン制度」を、20年にはキリンホールディングスが離職者の再雇用を増やす考えを明らかにし、話題になりました。

また、ディー・エヌ・エーには「独立起業・スピンアウト」という、「うちの会社を辞めて起業したいんだったら、会社として後押しします!」という出資する制度を設けています。

企業が、出戻り社員に期待する「新たな視点」です。

「組織を変えたきゃ若者、よそ者、ばか者の視点を生かせ!」と言われるように、過去の同志であり「よそ者」でもある出戻り社員に、企業のカンフル剤を期待しているのです。

転職を妨げず、出戻りに期待する企業も(提供:ゲッティイメージズ)

少々ややこしい話ですが、「私」は「私」だけではない他者からの外的な影響を受けながらつくられます。家庭環境、職場環境などに存在する有形無形の環境要因が複雑に絡み合いながら「私」はつくられている。つまり人は環境で変わるし、環境を変えることもできる。そのプロセス自体が、成長のチャンスです。

ただ単に、環境に身を委ねていては成長につながりませんが、自分の強い意志で挑む「転職」なら、その決断が「私」を成長させる最大のチャンスになりうるわけです。

新しい環境に行くことで、それまで当たり前だと思っていたことが、決して当たり前じゃなかったとに気付き、周りに感謝する気持ちが芽生えることもある。逆に、「あれはおかしかったんだ。変えきゃダメなんだ」と意欲がかき立てられることもある。

つまり、転職をすることで、古巣の良い面が分かったり、反対に悪い面が分かったり。それまで「見えてなかった側面」が見えるようになる。

そして、新しい環境=転職先で、求められる役割をしっかりと演じ、強い意志を持って目の前の仕事に没頭し、自分を取り巻く半径3メートル世界に溶け込む努力をすれば、人間的に成長できます。

転職という手段の他にも、「環境の変化」を社員の成長につなげている企業が存在します。

例えば、第一生命やトヨタ自動車などで「人材育成」を目的とした他社出向が行われています。

トヨタでは生産現場で係長級の「工長」に昇格する候補者を、異業種を含めた関連会社や自動車販売店などに武者修行として出向させています。これまでの経験が通用しない外部環境に身を置くことで、リーダーとしての資質を磨くことが目的です。また、事務部門の若手幹部候補をベンチャー企業に出向させる取り組みも制度化しています。

また、コロナ禍で経営が厳しくなったANAホールディングスは、会社の生き残りをかけて、400人以上の社員をグループ外の企業に出向させています。ANAがこの方針を発表した際、「左遷じゃん」と批判する人たちがいましたが、私は「他社出向」は、アフターコロナでの企業の成長と個人の成長への布石になるだけではなく、「新しい職務保障・雇用の流動化」になると期待しています。

コロナ禍で世界は「私」が考える以上に変化しています。

最後は「人」というように、「人」の可能性にかけられるか否かで、会社の成長も存続も決まる時代にすでに突入しているのです。