給料を上げても優秀な人材が辞めてしまう会社の「共通点」とは何か

総合給料を上げても優秀な人材が辞めてしまう会社の「共通点」とは何か

政府は働き方改革のもと、「同一労働同一賃金」の原則にもとづいて従業員の賃金を決める仕組みとするよう企業に働きかけを行っています。しかし、形式的に「賃金制度」だけを整えて対応するだけでは、優秀な人材の流出や社員の不満につながってしまうケースも多く見受けられます。

一方、「賃金制度」や「人事評価制度」といった本来組織づくりに欠かせない仕組みがないことが、組織の成長スピードや生産性を低下させる要因の1つになっていることも事実です。では、どういった考え方と手順で「賃金制度」を導入すれば効果的に組織の発展につながるのでしょうか。約20年間、「人事評価制度」の専門家として、実践を通じて研究を進める筆者が解説します。(日本人事経営研究室株式会社代表取締役 山元浩二)

これから会社を支える
若手社員に見限られる

「賃金制度」が明確に示されていないということが組織にどういうマイナスの影響を与えるのか、具体的な事例を2つご紹介したうえで、その対策と組織づくりをどうやって進めたらよいのか解説しましょう。

まず、「賃金制度」が確立していない、あるいは社員に示されていない会社では、若い社員が辞めていくという現象があります。

しかも、30代前後のこれからリーダーとして組織の将来を担ってもらわなければならない人材が辞めていくという課題を抱えている企業が非常に多いのです。ではなぜ「賃金制度」があいまいだとこうした世代が会社を去っていくのでしょうか。

結論から申し上げると、社員に見限られているのです。

「この会社で頑張っても自分の将来が見えてこない、不安だ」と実感し、会社を去っていくのです。

「賃金制度」が明確になっていないと、5年後、10年後の年収や月の給与がどうなるかがわからないため、自分自身の将来設計ができません。一方、30歳にさしかかると、結婚し子どもをもうけるという人も増えてきます。

また、家族と住むために引っ越したり、マイホームの購入を検討する人もいるでしょう。こうしたプライベートにおける環境の変化によって、将来の人生を考える機会が増える時期なのです。

具体的には、生活にかかる出費は増加し、子どもの学費やマイホームのローンなどを考えたときに、果たして今の会社のまま将来幸せで充実した生活を送ることができるのか考えるのは、自然なことでしょう。

こうした社員の不安に対して、会社はポジションや昇進に応じた具体的な賃金の金額がわかる「賃金制度」を整え、社員1人ひとりの成長目標とともに将来の賃金アップの目標も持たせたうえで、そこに向けた指導や教育の支援体制を整えることが必要でしょう。

こうした対策を行わないと、成長意欲のある優秀な社員から会社を去っていくことになってしまうでしょう。

賞与に「100円」の差をつけたことが
きっかけで組織が混乱

山元浩二氏山元浩二氏

次に、「賃金制度」ができたとしても、これですぐに賃金を決めるとかえって不満が増大するケースがあります。手順に沿ってきちんと準備をしたうえで賃金を決める必要があります。

私がこれを実感した、ある中小企業で起こった「事件」をお話ししましょう。

10年ほど前の話ですが、社員数が30人程度の会社で社長から相談がありました。「事件」の概要は次のとおり。

ある日、女性社員Aさんが悲愴感を漂わせた表情で社長室に入ってくるなりこう言いました。

「今回の私の賞与がBさんより低かったのですが、なぜでしょうか」

その質問に、社長は即答できなかったそうです。

Aさんは入社5年目の事務職の正社員。Bさんとは新卒の同期で仲がよかったといいます。それまでの4年間、夏冬合わせて8回の賞与では、2人ともまったく同額を支給してきました。それを、直属の上司の情報をもとに初めて差をつけた結果、起こった事件でした。

しかも、その金額の差は、なんと「100円」の差だったのです。

これを受け、早速、賞与支給の基準を社長と一緒に考え整備し、次年度の夏の賞与を新しい基準にもとづいて支給しました。しかも、改定後最初の支給ということで全社員の支給額をアップさせ、賞与原資は大幅に増額した支給でした。そうすると、さらに深刻な事態に陥ったのです。

ほとんどの社員が自分の賞与額に不満という結果となってしまったのです。その不満とは、「賞与を決める基準となった評価に納得できない」というものでした。実はこうした状況に陥ってしまうことは、Aさんの事件をきちんと読み解けば予測できたものでした。

Aさんは、「……Bさんより低かったのですが、なぜでしょうか」と社長に質問しています。Bさんより100円低い金額そのものではなく、なぜ低かったのか、なぜ差がついたのかを知りたかったのです。

つまり、賞与を決める前に、全社員の適正な評価ができる体制を整える必要があったのです。

組織の成長を実現する
「人事評価制度」5ステップ

この出来事をきっかけに、「賃金制度」を導入する前に、「評価制度」をきちんと整え、評価者を適正な評価ができるように育成するというステップを踏む必要があったことを確信しました。

しかしこれだけでは、冒頭にお話しした30代前後のこれから人生設計をしようとする社員の要望に応えることはできません。社員個々人の将来のライフプランの充実と金額面の納得度、この2つを満たすためには次の5つのステップを踏んで「賃金制度」を導入する必要があります。

・ステップ1 経営計画を策定する
・ステップ2 昇格体系を作成する
・ステップ3 評価基準を作成する
・ステップ4 評価者を教育する
・ステップ5 賃金制度を導入する

それぞれご説明しましょう。

まず、理念やビジョン、数値目標や戦略を具体的に盛り込んだ「経営計画」を策定し、将来会社が目指す姿を全社員に示します。次に、これを実現するために必要な社員の成長ステップ、「昇格体系」を作成します。

この「昇格体系」にもとづいて「評価基準」を作成することにより、社員はスキルをどうやって上げていけばよいのか、成長目標を具体的に持つことができます。さらに、適正な評価と成長目標の支援を行えるよう評価者(リーダー)を教育します。そのうえで、昇格体系に沿った「賃金制度」を設計し、導入するのです。

この5つのステップを踏むことで、社員は自分の成長目標に合わせて、いつどのように賃金を上げることができるのかがわかるようになるのです。これをライフプランと合わせてシミュレーションすることで、社員一人ひとりの夢や目標に向けた人生プランが描けます。

こうして、評価に納得したうえで賞与や昇給が決まり、社員全員が将来の目標を持ってイキイキと成長しながら発展する理想の組織を確立することができるのです。