総合優秀な人を採用したがるのは、三流社長のやることだ
「人が辞めたらすぐに新しい人を雇えばいい」という時代は終わり、いまは「次の人が雇えない」状況になっています。
例えば、リクルートによる2019年春卒業予定の大学生の求人動向調査では、従業員300人未満の中小企業の求人倍率(学生1人に対する求人数)は9.91倍となり、過去最高ともいえる状況です。
こうした状況の中でも、社長は強い会社をつくっていかなくてはならない。それは「人が辞めない仕組み」「人を大切にする会社」をつくることだと思います。
私が経営する株式会社武蔵野の離職率はかなり低い方です。2018年採用者は一人も辞めていませんし、課長級以上の離職者もほとんどいません。
採用にまつわるわが社の仕組みを紹介します。
三流社長は、優秀な人を採用したがる、一流社長は、優秀な人もダメな人もとらないように気を付ける
人間関係がうまくいっていない組織の特徴は、「優秀な人材を採用すれば、組織も優秀になる」と勘違いをしていることです。組織を強くする(コミュニケーションを円滑にする)ために必要なのは、能力よりも「価値観をそろえること」です。
能力のある社員を集めても、価値観がそろっていなければ、組織はバラバラになります。従ってわが社は、能力よりも、価値観(考え方)を共有できることを重視しています。
価値観がそろっていると、「同じ優先順位で行動できる」「同じスピードで行動できる」ため、少しくらい能力が劣っていても、組織力を強化することが可能です。
ところが、多くの社長は、このことが分かっていない。社員の能力が違い過ぎると、能力が高い社員も、能力が低い社員も、どちらもやる気を失います。
自動車にたとえて考えると、分かりやすいでしょう。積んでいるエンジンのスペック(能力)に差があると、同じスピードで走ることは難しい。軽自動車に乗っている人と、大排気量のスポーツカーに乗っている人を「同じスピード」で走らせると、軽自動車に乗っている人は、「スポーツカーにはついていけない」と諦め、一方でスポーツカーに乗っている人は「もっと速く走りたい」とストレスを感じます。
そこで武蔵野は、1500ccのエンジンを積む上司の下には、1000ccのエンジンを積む部下(あるいは、2000ccの部下)を配置するなど、上司と部下の能力差が出ない組織づくりをしています。
多くの社長は、「優秀な上司」の下に「仕事ができない部下」を付けたり、「それなりの上司」に「仕事ができる部下」を付けたりしています。
しかし、本当は、「優秀な上司」の下には、「優秀な部下を付ける」「それなりの上司の下」には、「それなりの部下を付ける」のが正しいのです。なぜなら、同等の力を持つ人同士で組織を構成した方が、切磋琢磨しやすいからです。すると、個人も組織も活性化して業績が上がります。
他の中小企業と比べると、武蔵野の離職率の低さは、「超異常」です。なぜ、辞めないのかというと、「同じくらいの能力を持った社員が、同じ価値観の下で組織をつくっているから」です。
迷っている内定者には、「他社へ行ってくれ」と伝える
内定を出しても、すぐに決められない学生が増えています。2017年より二次選考を、学生と採用担当が1対1でカウンセリングをするやり方に変更しました。
今に至るまでのエピソードや学生生活、サークル、部活、アルバイトで担当していた役割などから、その学生の特性を洗い出し、どういう会社が合っているのか? 武蔵野ではどう生かせるのか? 時間をかけて落とし込みます。
いわば、武蔵野で働いたイメージを持たせます。志望度が上がった状態で最終選考に進むため、内定後の辞退者数は大幅に減少しました。
それでも決められない学生はいます。武蔵野は内定後、7日以内に入社承諾書を提出しない場合は、内定の通知を取り消すルールです。
数年前までは、学生に合わせて1カ月間の猶予を与えていましたが、決められない学生は期間に関係なく決められません。承諾書提出がギリギリだった学生は、不思議と入社してからも、事あるごとに悩み、なかなか成果が出せません。
一方、すぐに決められる学生は、入社後も活躍します。決められない学生には「他の会社にいった方がいいよ」とはっきり伝えています。
強引に入社させて、すぐに辞めてしまってはお互い不幸です。「他の会社を選択した方がいいよ」と伝えると不思議と「武蔵野に決めます」となります。結果、今期2019年卒採用は現在内定者25人で辞退者0人(2018年7月現在)という成果を出しています。
インストラクター制度で新入社員を定着させる
また、仕事の面では「インストラクター制度」を設けています。インストラクター制度は、入社3年目社員が新人の指導を行う制度です。新卒社員と一緒に現場に出て、仕事のやり方を教えます。
新入社員の教育は「部署ごとの先輩がOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング:職場で実務をさせるトレーニング)をする」のが一般的です。ですが、それだと指導する先輩の実力によって、教え方に差が出てしまいます。
そこで、武蔵野は、指導する社員のレベルがバラつかないように「インストラクター制度」を設けています。3年目社員は新卒社員と、年齢やキャリアが近い分、新人の悩みが理解できます。
ベテラン社員に新卒社員の指導を任せると、「これくらいは、分かっているのが当然」と思い込み、指導が一方的になってしまいます。
以前、こんなことがありました。私(小山)が、新人を伴なってお客さま訪問をしたときのことです。あるビルの玄関に、ライバル会社の足ふきマットが敷かれていたので、私は新人社員に、「あそこにある玄関マットをめくってきなさい」と命じました。すると、彼は玄関まで走っていき、マットを文字通り「めくった」のです。
私はこのとき、腰が砕けそうになりました。なぜなら、わが社では、「めくる」=「ライバルからお客さまを奪う」の意味だからです。「めくる」は日常的に使う用語で、私は「言葉の意味を知っている」前提で話しかけたが、そうではなかった。悪いのは、用語を知らなかった新人ではなく、「それくらい知っていて当たり前」と決めつけていた私です。
このときの経験から、私は、「入社10年、20年のベテランと新人とではレベルは違うし、話す言葉も違う。人材教育の先生としてふさわしいのは、新人より少しだけ経験のある社員である」ことに気が付きました。
また、上司は毎月部下の一人とマンツーマンでサシ飲みをしたり、半期に一度部門の異なる幹部と一般社員で飲みに行く仕組みもつくったり、現場での悩みや夢を共有できるような制度を設けています。
会社での一体感を設けるのも定着率のアップにつながっています。