女性雇用「お姫様扱い」と「マタハラ」の間を埋める、妊娠した部下のトリセツ
金曜プレミアム『密着!なぜソッチの人生選んだの?』(フジテレビ・関西テレビ系)で「リアルドクターX」として密着取材を受け、現在大注目のフリーランス医師・筒井冨美氏。今回のコラムでは、なかなかオープンには語りづらい「妊娠した部下」への対応について、タブー無しの直球で語っていただきます。
「お姫様扱い」でも「マタハラ」でもない、現実的マネジメント
日本中の職場で、妊娠した後も働き続けるケースが増えているが、そのマネジメントについての実用的なガイドラインは無い。妊娠を理由にした退職強要は言語道断だが、意識高い系メディアに感化された管理職が“お姫様扱い”してしまって、現場の同僚が疲労困憊、というケースも増えている。本記事では、“お姫様扱い”と“マタハラ”の間の、現実的なマネジメントへのヒントを示したい。
何はさておき「おめでとう」
部下から妊娠を報告された管理職は、何はさておき「妊娠、おめでとう」と言うべきである。原価ゼロ円で、後のマタハラ紛争を予防できる。この一言を言わず、「困ったなぁ」「この忙しいのに勘弁して」と呟いたがために、長期間の不毛な諍いに巻き込まれた管理職は少なくない。
「で、貴女のプランは?」
「出産中に退職」「保育園が見つかり次第復職」「できるだけ長期の育休」など、妊娠後の選択肢はいろいろ考えられるが、まずは希望するプランを相手から報告してもらい、「そうか」と預かって検討する形がよいだろう。「年度末で退職するよね」的な管理職側からの提案は、昨今では裏目に出た場合のリスクが大きい。
話し合いは短時間、立会人付き、泣いたら中断
妊娠以降の働き方についてのミーテイングを持つ場合、着席かつ短時間で終わらせるべきである。特に「男性上司と若い女性部下の二人だけ」というのは、お勧めできない。最近では、隣国・韓国で「Me Too運動」が盛んになっているが、2人きりで女性と会っていた場合、マタハラ・セクハラ・パワハラなどで、後に告発された場合の立証は非常に困難になる。
立会人としては産業医がベストだが、都合がつかない場合にはベテラン女性職員もお勧めである。「若い女性にウルウルされて、思わず特別扱い」的なトラブルも予防できる。希望通りにならないと泣き出す女性も存在するが、泣いている人間との交渉は酔っ払いとの交渉のようなものであり、生産的な交渉は期待できない。数分程度の休憩を設けるか、「ご家族と相談しておいて」などと、未合意のまま終了しよう。
ミーティングの内容は文書化し、メールには「親切フレーズ」を忘れずに
ミーテイングの内容は、すかさずメールなどに合意点・相違点などをまとめて文書化することをお勧めする。その際のメール文中には「妊娠経過が順調で何よりです」「何かあれば相談して下さいね」などの親切フレーズをしっかり散りばめておくべきである。この対応も、原価ゼロ円で安全配慮義務などの紛争を予防できる。
休職を勧める際には「今はお子さんを第一に」と伝える
「出勤するものの、体調不良を訴えてまともに仕事ができない」等、ローパフォーマー正社員妊婦の扱いに悩まされている管理職は多い。最近では「お妊婦さま」「逆マタハラ」などといった言葉も出てきているようだが、「〆切にルーズ」「被害者意識が強い」などの問題点が元からあった女性は、妊娠を口実とし、元の問題点がますます強化されてしまうケースがある。
そのため、極端に仕事をしなくなった女性には、「今はお腹のお子さんを第一に」というフレーズと共に、休職などを勧めるべきである。体調がすぐれない状態で出社することは、本人にとっても良いことではなく、職場の部下たちも、彼女を気を遣って疲弊してしまうという状況を考えれば、休職してもらった方がお互いのためでもある。ただ、休職を薦める際には、くれぐれも「周囲が迷惑」「何かあったら責任とれない」的な文言は、本音であっても厳禁である。
妊娠時でも過度に配慮しないことで、良い人材が会社に残る
前回の記事で紹介したように、「メンバーシップ型」の働き方が多い日本型企業の現場では、仕事ができる人材に仕事をしない人材の仕事を回して、凸凹の辻褄を合わせるすことが多い。その結果、仕事をしない人材は窓際化して職場にしがみつき、仕事ができる人材の方が過労や転職に追いやられるパターンが多い。
妊婦といえど、給料をもらっているならば、就業時間中は働く義務がある。内心辞めて欲しい人材こそ、勤務時間内はキッチリ仕事を与えるべきである。また、体調不良による休業は、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に従って無給休業扱いし、周囲との不公平感が残らないようにすべきである。
たとえば在宅勤務で「データ入力1日100件」を依頼したら「つわりで苦しくて50件しかできなかった」場合には、「勤務半日、病休半日」として扱うべきである。過度な配慮をしないことによって、妊娠を「利用しよう」と思うような女性は会社に見切りをつけ、育休一年で給付金をもらった頃には退職届を書くだろう。また、妊娠という状況下でも、与えられた仕事をキッチリこなして成果を出すような女性は非常に優れた人材なので、しっかりと復職を支援すべきだろう。
流産にまつわるデータと、会社で必要な配慮
妊娠に関わる重要な話として、流産についても触れておく。
妊娠が流産に終わる確率は約14%と言われている。30代後半では20.7%、40才以上で41.3%というデータが厚生労働省から公開されており、実は決して珍しいことではない。
【参考資料】
不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会 ワーキンググループ報告書(厚生労働省)
流産の原因の大部分は、染色体異常などの卵子そのものの問題とされている。無事に出産が済むのが一番だが、女性が妊娠した場合、つわりや切迫流産など、急に週単位で休む可能性は大きい。妊娠を報告された管理職は「突然休むリスクが高い」ことも念頭に、情報共有や進捗状況のチェックをしておくべきだろう。
妊婦健診は24時間対応の病院で
安定期と言っても、妊娠に不測の事態は付き物である。母子手帳のコピーをもらうなどして、かかりつけの産科医の連絡先を、職場でも把握しておきたい。この対応は、仮病ならぬニセ妊娠で休暇を申請するような行為も予防できる。
また、病院選びで是非とも外せないのが、「入院施設があり、24時間対応する病院」という点である。
近年では、都会のビルの一室を借りて女性医師が診察するオシャレなレディースクリニックが増えているが、生理痛や避妊相談ならともかく、妊娠中かかりつけ病院としてはお勧めできない。「トイレで大出血して倒れた」「22週で破水」のような緊急事態が夕方や休診日に発生した場合に連絡が取れず、自力で救急車を呼んだ挙句に見知らぬ遠方の病院に運ばれる事態にもなりかねないからである。「24時間いつでも電話がつながる」重要性に比べれば、担当医の性別や待合室のインテリアはどうでもよいことである。
社員の妊娠は、職場IT化のチャンス
社員の妊娠は、職場IT化やフレックス制度導入のチャンスでもある。以前から気になっていたが上層部に時期尚早と言われていたLINE、Skype、Slackなどのコミュニケーションツール導入を強く主張する口実になる。同時に、フレックス勤務や在宅勤務も、本格導入するチャンスである。
「同僚妊婦の穴埋めが大変」ではなく「同僚の妊娠を契機に、働き方改革が進んだ」が、目指すべきゴールなのである。

