総合優しさ競争で若者は育たない エン・ジャパン会長 越智通勝
最近の「働き方改革」に違和感がある。単なる欧州のマネになっていないだろうか。
ドイツ人と知り合う機会が何度かあり、ショックを受けた。日本人は欧州から「ワーク・ライフ・バランス」を学ぼうとしているが、彼らにとってワークはプライベートライフを充実させるための手段でしかないというのだ。
だからNHKの「プロジェクトX」を見てもウソっぽく感じるそうだ。仕事は神から与えられた罰というのが根底にあるらしい。日本には「仕事を通じて成長し、人生を豊かにする」という仕事観がある。「仕事道」といってもいい。欧州とは大きく異なる。
いま日本ではワーク・ライフ・バランスのかけ声の下、労働時間の削減ばかり注目されている。確かに過労死をまねく働き方は許されず、生産性ももっと上げられる。だが全ての労働者が横並びに休めばいいものではない。
特に、最も成長する時期にいる新入社員や若手をこの状況で育てることには危機感がある。「休め休め」「定時に帰れ」と「優しさ競争」になっている働き方改革が成長機会を奪っていないだろうか。
若者は家や学校や地域よりも、企業で磨かれるのが現実だ。企業は給与を払う立場で常に顧客からの評価と市場の競争環境にさらされているからだ。経営者は若い人へ意図的に厳しくしてほしい。
厳しくというのは、怒鳴ったり長時間労働させたりすることではない。上司が少し高めの要望をする、チャレンジできる仕事を与える、自分の頭を使って考える機会を与えることだ。米国の調査では、パッとしなかった若者が30代で化ける事例の背景に、こうした教育や環境があることがわかっている。
解雇規制の緩和も進まずにこうした状況が続けば、いずれ社内に使えない人材が保蔵され、企業の成長はとまる。
若者こそ、仕事の場で磨かれるべきではないか。人工知能(AI)やアジアの優秀な人材が台頭してきている中で、今の若者の未来はかつてなく厳しいものになるだろう。その時代を生き残るための心的耐久性・創造的知性・社会的知性といった能力を身につけさせるのは経営者の社会的責任でもある。
もう欧米を見習う時代は終わった。日本独自、企業独自の哲学を持った働き方改革を進めていくべきではないか。むしろ「誇れるものとして世界に発信していく」という発想と決意を持ってほしい。