中小企業の働き方改革、自宅作業で効率2割増も「新人指導」が壁

総合中小企業の働き方改革、自宅作業で効率2割増も「新人指導」が壁

「やりたい時に仕事ができる」で
生産性が大幅アップ

「働き方改革」として多くの企業で働き方やワークスタイルの見直しが進められています。その方向性の一つとして、働き方に柔軟性を持たせる取り組みがあります。個々の従業員の事情に合わせ、働く場所や時間を柔軟に対応できるようにするわけです。

当社でもセキュリティをかけ、社外にいても会社支給のノートパソコンを使ってデータベースへアクセスできるようにし、キャリアコンサルタントが社外や自宅でも仕事をできる環境を整えました。その結果、目に見える形で業務の生産性は上がりました。

たとえば当社から推薦して企業に応募し、採用選考中の候補者の人数は、以前に比べ約20%アップしました。コンサルタントに話を聞いてみると、朝型のタイプは早起きして自宅で仕事をしたり、夜型のタイプは夕方のアポが終わったらさっさと帰宅し家族と一緒に夕食を食べ、その後に仕事に集中したりしていました。

いずれにせよ「自分がやりたいときに仕事ができる」と非常に好評です。もともと当社のキャリアコンサルタントは裁量労働制で働いているので、こうした働き方にフィットしやすくもあったのでしょう。

中には母親が入院して看病する必要が出たため、候補者との面談の予定がないときは夕方から病院へ行き、病室や帰宅後に自宅で仕事をしている社員もいます。それでいて業績はまったく落ちていません。人にはそれぞれ事情がありますから、これは非常にいいことだと思います。こうした取り組みによって劇的に生産性が上がる会社もあるのかもしれません。

自宅作業を許可したが
かえって効率が下がるケースも

一方で当社にはインテリア事業部門があり、こちらは以前から在宅勤務ができるようにしてあります。セキュリティの問題があまりないことと、小さい子どもを持つ女性が多いためです。ところがこちらに話を聞くと「自宅では仕事がはかどらない」と言います。

小さい子どもがいると気が散ってしまう。あるいは子どもの前でパソコンを開こうとすると子どもが泣き出してしまう。パソコンを開くと仕事を始めて相手にしてもらえなくなるとわかるからだといいます。そのため、子どもが寝るまでは仕事ができない。なので、ちょっとの時間でも会社に出社して集中して仕事をしたほうが効率的である、とのことでした。

また、自宅で仕事をするには業務に取り組む環境の用意や、普段の生活から重い腰を上げて仕事に向かうといった切り替えも必要になります。要するに、従来よりセルフマネジメントの重要性が上がります。セルフマネジメントが難しいので自宅よりオフィスに行って仕事をしたほうがいい、という人もいます。

こうした社員の反応を見ていると、やはり人それぞれに向いた働き方があるのだなと思います。それは個人の性格的な要素だけでなく、個々の置かれた家庭環境や直面しているライフイベント等も含めての話です。

そう考えると、働き方は一つのパターンだけを押し付けるのではなく、それぞれの人たちが最も力を発揮できる形態をオプショナルで用意しておくことが大切だと感じます。

それには、いつでもどこでも必要な情報へのアクセスやコミュニケーションができる環境を整えておくこと。そして会社で仕事をする方がやりやすいなら会社に来ても構わないし、会社に来なくてもこれができていればOKという内容を明確にして、どんな働き方をしても成果を適切に評価できるようにする取り組みが重要になります。

リモートワークは
新人指導が課題

ただ、今いる社員が柔軟に働ける環境に移行するのは想像しやすいのですが、今後新しく入社した社員がその環境に入っていくのはなかなか難しい気もしています。

当社で言えば、長年一緒に仕事をしてきたキャリアコンサルタントは皆、入社したときに先輩社員から手厚くフォローされながらブレイクスルーして1人前になり、そのことに感謝の気持ちを持ちつつ新たに入社した後輩社員を手厚くフォローし1人前になる手助けをする、というつながりを持っています。社員間には魂を共有するような深い関係性があり、それに基づいて組織が動いているのです。

ところが実際に顔を合わせるのは週に1、2回のミーティングだけで、コミュニケーションはもっぱらデジタルツールを通して行うようになると、現在のメンバーで業務を遂行するうえでは何も問題がなかったとしても、新たに入社した社員の教育や、魂を共有するような関係性を構築するのは困難ではないかとの懸念があります。

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規模の利益がある大企業や卓越した技術力を持つIT企業はまだいいのですが、世の中の多くの中小企業は人に頼る部分が大きく、一人ひとりの社員の頑張りによって利益を生み出しています。その頑張りはどこからくるのかといえば、やはり社内での魂を共有するような関係性にあると思います。

「愛社精神」というと古臭い言葉に聞こえるかもしれませんが、それがある会社とない会社では組織力が大きく異なります。端的に社員の愛社精神が低い会社は離職率が高くなりがちです。社員にとっても魂を共有する人たちでさまざまなチャレンジを行っていく心地よさや、会社に対する誇りをもって働けるといった良さがあります。

ある大手企業では一時、営業支社を廃止して個人と営業代行の契約をするセールスレップの仕組みを導入したところ、一瞬、業績が上がったもののすぐ急降下し、結局支社を復活させることになりました。社員の自由度を高めて営業効率を上げると同時に支社を維持するコストの削減を狙ったのだと思いますが、それではうまくいかなかったわけです。

いくら社員の働き方の柔軟性を高めても、業績が下がってしまったのでは意味がありません。柔軟な働き方を導入しつつ、魂を共有するような関係性をどう構築し、成果を生み出していくか。企業にとってはそこに新たな課題が生まれてくると思います。