なぜ優秀なITエンジニアを採用、育成できないのか

総合なぜ優秀なITエンジニアを採用、育成できないのか

前回は、「ITビジネスの軸が、コストセンター中心からプロフィットセンター中心に移った」ことを紹介した。今、ITビジネスの潮流は大きな変化の節目を迎えている。そのことがITエンジニアの採用、教育の現場に、主に3つの課題として表れてきている。

課題1:エンジニアが集まらない、既存の求人メディアではエンジニアにリーチできない
課題2:いい人を見分けられない、既存のプロセスでは技術の可視化が難しい
課題3:人が育たない、既存の教育システムでは育成が難しい

今回はこの3点について考察を進めていきたい。

ITエンジニアは人材紹介サービス経由で転職しない

企業の採用における課題1:
エンジニアが集まらない、既存の求人メディアではエンジニアにリーチできない

弊社は人材サービスを運営しているため、人事の方から「既存の求人メディアや人材紹介などでは、なかなか優秀なエンジニアにアプローチが出来ない。優秀層にリーチするためにはどうしたらいいのか?」という相談を受ける事が多い。

以前、実際にエンジニアとして働いている50人程度にヒアリングをしてみたところ、優秀な層は特に縁故等での転職が多く、既存の採用手法ではリーチする事ができないことがわかった。人材紹介経由での転職率は、全職種では約30%程度なのに対し、ITエンジニアに限定すると8%しか人材紹介経由での転職がなかったのである。

優秀なエンジニアは技術的な向上心が高く、仕事の選び方も「技術の向上が可能な環境か?」「自分の興味のある開発が可能な環境か?」といった視点が中心となる。

しかし、既存の求人メディアや人材紹介の運営企業は、営業部隊が中心となった組織構成となっているため、技術面に対しての理解がなく、技術力を見る事が出来ない。また、それらのサービスは営業や企画職、事務職など多種多様の職種の最大公約数マッチングとなっており、エンジニアのマッチングには不向きな構造である。

人材紹介は企業と求職者の間にキャリアアドバイザーが入るが、彼らの大半はプログラミング経験はなく、またあったとしてもごくわずかな経験である事がほとんどである。そのため、エンジニア側としては技術面を中心としたキャリアアドバイスを受けたくとも、それはかなわず、むしろエンジニアが普段業務の中であまり使う事のないプレゼンテーション能力ばかり求められてしまう事になる。

エンジニアとしてはそういった人材サービスを使うより、知り合い経由のほうが、これから転職しようとしている企業がどういう開発を行っており、どの程度のレベルの技術力を持っているかが事前に詳細にわかり、自分の技術力についても正しく理解してもらえるのである。「エンジニアはエンジニア同士で話をしたほうが早い」という事である。

エンジニアが集まらない原因としてさらに深刻なのは、「仕事に魅力がない」という企業側の根本的な問題である。エンジニアがどのような仕事に魅力を感じるのかについては、エンジニアの気質を正しく理解する必要がある。

エンジニア(プログラマー)には三大美徳(怠慢、短気、傲慢)というのがあるのだが、その第一美徳は「怠慢」である事、というものである。これは簡単に言うと「繰り返される仕事はシステムで自動化する。全体の労力を減らすために手間を惜しまない」という気質を指す。勤勉だと「繰り返し作業の労をいとわず、繰り返しおこなってしまう」という事の裏返しである。

「労働集約型ビジネスモデル」のシステムインテグレーター(SIer)だと、毎回オーダーメイドでシステムを作る事になるため、システムの資産化が出来ず、毎回ゼロベースでの開発となる。つまり似たような仕事を繰り返すことになるのである。これは先ほどの美徳に反し、こういった仕事にエンジニアは魅力を感じにくい。

一方、「知識集約型ビジネスモデル」だと、システムを作る事が目的ではなく、作ったシステムで収益を上げていく事が目的となる。システムを継続的に利用し、繰り返される仕事を自動化する事が前提となるため、エンジニアの気質的にも受け入れやすいのである。

少し前までは「労働集約型ビジネスモデル」のSIerの仕事しかなかったため選択の余地はなかった。しかし現在では、システムの内製化の動きが活発化しているため、「知識集約型ビジネスモデル」のユーザー企業やWebサービス企業などでもエンジニアの採用が数多く存在している。ここ数年のIT業界の潮流の変化により選択の幅が広くなってきており、相対的に「労働集約型ビジネスモデル」の求人は人気がなくなっているのである。

「仕事に魅力がない」という課題に対して、採用手法等における一時しのぎ的な対応策は幾らかあるだろうが、構造的に優秀なエンジニアが集まるようにするためには、企業のビジネスモデル自体の変革が必要である。ITを利用し、スケールメリットの出る知識集約型モデルの企業は、優秀なエンジニアが集まりさらに知識集約型を加速する好循環に入る。逆に労働集約型モデルの企業は、優秀なエンジニアが集まらず、ますます労働集約型へ傾いていくという負のスパイラルにはまってしまう事態が、今後発生していくだろう。

エンジニアの能力を正しく把握できない

企業の採用における課題2:
いい人を見分けられない、既存のプロセスでは技術の可視化が難しい

第二の課題としては、仮にエンジニアからの応募が数多く集まったとしても、エンジニアの能力を正しく把握する事が出来なければ、必要な人材を選びだすことが出来ないという課題である。

エンジニアの選考の難しい点は、スキルを定量化する事が難しい点である。営業職であれば売上や販売数、マネージャー職であればマネジメント人数、プロジェクト規模などの定量項目で、ある程度スキル、経験を推しはかる事が可能だが、エンジニアはそういった項目が見えにくい。

SIerであれば、労働集約型という特性もありマネジメント人数や、経験プロジェクト規模などでスキルを定量化しやすかった。しかし知識集約型になるとそういった指標では正しくスキル、経験、知識を測る事は不可能である。

従来の選考プロセスは、終身雇用時代の名残で、配置転換可能なゼネラリスト主体の組織構成を引きずった選考プロセスをベースとしており、全職種統一の紋切型の選考プロセスとなっている。そのため、全体にコミュニケーション能力を重視した選考となっており、技術力や知識レベルは軽視されがちなのである。

エンジニアは、職種柄プレゼンテーションをする機会が営業や企画職などに比べ圧倒的に少ない職種である。しかし採用の段となると急に自己アピールのプレゼンテーションが求められることになる。その結果として、能力のあるエンジニアでも自己アピールがうまくできないと選考に通らないという事態が発生してしまうが、これはエンジニアと採用企業の双方にとって不幸な出来事である。

こういった事態を回避するために、現場エンジニアを選考プロセスに参加させるという事も近年行われ始めているが、人事面接や役員面接において従来型のコミュニケーション能力重視の面接となっていると、現場エンジニアの時間が無駄に消費されるだけになってしまう。

また、現場のエンジニアを面接に同席させるとしても、同席させさえすれば正しく技術力を測れるという訳でもない。エンジニアだからといって、ただ単に経歴を聞きさえすれば技術力が分かるかというとそういう訳ではない。

たとえばサーカスの団長が応募者に対してどんな曲芸が出来るか話を聞くだけで、実際に曲芸をさせることなく採用すると聞いたら、なんと馬鹿げた話だと思うのではないだろうか。

これと同じように、スピード感のある開発が求められる知識集約型のソフトウエア産業において、開発力、プログラミングスキルを実際に見ることなく、話しただけで採用しているとしたらどう思われるだろうか?

労働集約型のSIer中心の時代とは異なり、知識集約型のビジネスの現場において、エンジニアはどのポジションにおいてもプログラミングの知識は不可欠である。しかし、面接の場でプログラミングをさせている企業は国内ではまだごく一部である。

海外に目を向けてみると、マイクロソフト、グーグル、フェイスブック、アマゾン、ツィッターなど枚挙にいとまがないが、面接の場で白板にプログラムを書かせたり、実際にプログラミングをさせる事が一般的におこなわれており、むしろそれがスタンダードになっている。

技術力のある優秀なエンジニアを正しく見分ける選考方法について、こういったプログラミングテストを導入していない企業は大きく出遅れていると言っても過言ではないだろう。

従来のエンジニア教育の課題

企業の採用における課題3:
人が育たない、既存の教育システムでは育成が難しい

第三の課題は、従来の教育システムでは優秀なエンジニアを育てる事が難しいという課題である。進化の速いITの世界では、各プログラミング言語ごとの仕様や開発環境等に関するTipsは、進化が速すぎて教材や講師を調達する事が難しく、教えてもすぐに陳腐化してしまう。ソフトウエア工学の領域も学問として研究も盛んにおこなわれているが、現場のほうがDevOps(デブオプス)など新しく実践的なやり方が出てきており、進んでいる状況である。

エンジニアの領域に限らず、現在企業内教育が大きな転換点を迎えている。それは「組織教育の時代から、個人学習の時代へ」の転換である。この流れを整理して考えるためには、まず「教育」という概念と、「学習」という概念に分けて考える必要がある。

「教育」とは組織が個人に対して、組織の理屈で組織の求めるスキルを個人に習得してもらうための訓練(受動的に教育される)という概念だ。一方、「学習」は自分がやりたい事をやるために主体的に学ぶ、という概念である。

つまり「組織教育の時代から、個人学習の時代へ」の転換が何を意味しているかというと、学びの主体者が組織から個人へと転換しているという事なのである。

終身雇用時代の「企業が個人の仕事を一生保証する代わりに企業へ絶対服従を求める」という枠組みの中では、教育という概念がうまく機能していた。

終身雇用が生まれた高度経済成長期は、企業も個人も経済的な豊かさを追い求めるという点で利害関係が一致していたため、企業として経済的豊かさを求めるための「教育」は、個人としても経済的豊かさを求めるための「学習」という概念で受け入れる事が出来たのである。

しかし現在はどんな大企業でもある日突然リストラされる可能性がある社会環境となっており、終身雇用が崩壊しているため、個人は企業のためにスキルアップするのではなく、自らの生存戦略に基づいてキャリア設計を行い、自らの為に学習するように変化している。

高度経済成長期のような明るい未来が約束されているわけではない現代において、個人の趣向は経済的な豊かさだけを追求するのではなく、自己実現のために働くといった精神的な豊かさの追求に軸足が移ってきているというのも流れの変化の一つである。

こういった変化により、従来型の企業の理論のみでの一方的な教育は成果が上がらなくなってしまったのである。

企業の採用の在り方、企業の在り方が大きく変化

ここで重要なのは、企業が個人に対して一方的に要求を押し付けるのではなく、企業と個人でキャリアを協同デザインするという事である。個人のやりたいと思える仕事と、企業が目指す内容をどのようにリンクできるかという事である。

エンジニアに関して言うと、彼らがワクワクするような開発、仕事をどれだけ作り出せるのか、という事になる。そういった魅力的な仕事が作りだせれば、個人としての学びも加速し、企業と個人が同じ方向を向くため、教育と学習が同化するのである。

そのためには企業としてのビジョンを明確に打ち出し、そこに共感する人材が集まるようにするか、優秀な人材を集め、そのメンバーで進む方向性を決めていくかという事になる。

優秀なエンジニアの働き方を見ていると、だらだら残業することなく業務時間内は集中して働き、個人の時間は自分の興味のある分野の研究や開発を行い、その成果を仕事に還元するという働き方をしている人が多い。

これはワークライフインテグレーションという、職業生活と個人生活を柔軟に、かつ高い次元で統合し、双方の充実を求める働き方である。それを表すように、最近エンジニアに人気のある求人も、給与の高さよりも残業時間の少ない求人にシフトしてきている。

エンジニアに限らずではあるが、今後企業が優秀な人材を集めるためには、企業と個人の関係について、使用者と労働者という関係ではなく、優秀な人材に対して企業を自己実現のための箱として使ってもらうパートナーシップという形にシフトしていかなければいけない。コアとなる人材にとっていかに魅力のある企業となれるかが問われる時代になった。従来は優れた会社にとって都合の良い個人が出世したが、現在は優れた個人にとって都合の良い会社が成功するのである。

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ここまで書いてきたように、ITビジネスの潮流の変化により、企業の採用の在り方から、企業の在り方にまで変化が起きようとしている。

採用手法の面でいうとリンクトイン(LinkedIn)やウォンテッドリィ(Wantedly)といったソーシャルリクルーティング、ダイレクトリクルーティングなどの新しい採用メディアが登場してきている。また、技術の可視化というところでは、手前味噌だが弊社が提供している技術評価サービス「paiza」(パイザ)はその代表だと自負している。

企業はこういった新しい採用手法の取り組みはもちろんの事、優秀な人材が働きたくなるビジョンを打ち立て、ビジネスモデルを変革し、評価体系、職場環境をいかに整えていくかが、5年後、10年後に大きく影響する。

今後、非連続的な企業成長を望むのであれば、優秀なエンジニアの採用、育成は急務であり、そのためには構造的に優秀なエンジニアが集まる枠組みを作っていく事が最重要課題なのである。