総合『信長の野望』に学ぶ スタートアップと上場企業の採用戦略
スタートアップ上場後の成長加速をテーマに活動するシニフィアンの共同代表3人が、本音で放談、閑談、雑談、床屋談義の限りを尽くすシニフィ談。3人とも兵庫出身の関西人らしく、やたらと早口、やたらと長話。でもピリッと、ちょっとだけ役に立つ。今回は、上場前のほうが実は「武将」タイプの採用で有利なことや、上場の効果を実感できる時価総額の規模感について語り合います。(ライター:石村研二)
経営者は受験戦争の勝者?
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):前回、スタートアップの経営者は調達額の規模感を気にするという話がありましたが、これは大企業経営者にも共通する話だと思いますよ。たとえばROE(株主資本利益率)。これまではそれほど興味なかった経営者でも、JPX日経インデックス400(編集部注:利益水準や資本効率、流動性やガバナンスなども考慮して構成される株価指数。日本取引所と日本経済新聞社が共同開発し2014年にスタート)が導入されると、ROEはいくらだとか、JPX400のスコアを相当気にし始めるっていうのは、老若男女問わず受験戦争を勝ち抜いた日本人経営者の「あるある」やね。経営者は孤独だからだと思うけど、何らか経営者としてのスコアが気になるのはよくわかります。
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):やっぱり単一的な評価軸で定量的に横比較されるようになると気になりますよね。
村上:ベンチャーだと、上場や資金調達がそれ。IPO(新規株式公開)した時の時価総額とか、その後に株価どれくらい上がったとか、メディアにどれくらい扱われたかとか。やっぱり創業してから一番目立つタイミングやし、そりゃ気になりますよね。上場する企業は、それを機にますます成長してどんどん目立って欲しいと思いますが。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):上場することの意味って、たとえば採用力が上がるとか、資金調達の機会が増えるっていう話があるけど、実は非上場の時のほうが採用力はあるんちゃうかなと思ったりはします。
朝倉:それは、採用する対象者のタイプの違いでしょうね。腕に覚えがあって山っ気のある野武士みたいな人だったら、ストックオプションでのキャピタルゲインといったアップサイドを期待して上場前のスタートアップに来たがるでしょ。
小林:そういう人はスタートアップに来がちかもしれへんね。
戦国武将はスタートアップがお好き
朝倉:(ゲームの)『信長の野望』って、数字で表される兵士と、兵士を率いる武将って、明確に区別されるじゃないですか。柴田勝家や黒田官兵衛みたいな”武将”を求めるのなら、むしろ非上場のほうがいいケースもあるんやろうなと。逆に、上場前には広く一般に会社の魅力を伝えづらい点も確かにある。
上場すると逆で、知名度は高まるし安心感もあるから、より広く一般の求職者にもリーチしやすくはなるけれど、野心を持った”武将”だと、非公開企業の成長の可能性により魅力を感じやすいのかもしれない。上場したらあくまで一上場企業なわけで、東証一部の他のエクセレントカンパニーと対等に横比較されるワンオブゼムですもんね。
村上:ファイナンスでも人の数でも、キャピタル・インテンシブな企業、つまり資金量や人材の質ではなく、量が勝負を分ける企業は上場する意味が明確に出てくるはずやね。時価総額も小さくて流動性もない場合、どこまで資金・人材を活用できるかは日本では疑問だけど。そういう場合は、ひょっとしたら非上場のほうがむしろ有利なケースもあるのかもしれません。
小林:資金調達について言うと、上場後に「上場したからこそ」というような規模の資金調達をした会社って、実はそれほど多くないんちゃうかな。上場したら資金調達しやすいかっていうと、そうでもない。タイミングもよりシビアだし、株主が多岐にわたるため説明コストも高くなる。そういった要素を考えると、非上場より著しく資金調達がしやすいってわけではない。
そうすると、上場する意味って究極的には何なんでしょ。
村上:ファイナンスに関しては数千億円のゾーンまでくればオプションが増えるんだけど、日本だと数十億円から1000億円未満のゾーンで止まってしまう会社が多いよね。柔軟性とか取れる規模とか考えると、上場した後では、必ずしも資金調達がしやすくなってるとは言えないやろうね。規模の点では、理想的には浮動株で2000億円規模まで行ければ、M&Aや海外展開とか大きな勝負は仕掛けやすくなると思います。
地方競馬とJRAの違い。2000億円の壁
小林:前に知り合いのファンドマネジャーさんが、日本の株式市場で時価総額が2000億円以下の企業群を「デスゾーン」と呼んでいたのを思い出しました。
そもそも時価総額が低くて、機関投資家が扱うサイズ感に合わず、個人投資家が中心になる。事業にそこまでインパクトが出ると思えないニュースや、App Storeの日々のランキングで株価が上下したりする。さらに、創業者持株比率が大きすぎるという問題もそれに輪をかけてる。浮動株がほとんどなくて、上場企業なのに1日の株式売買額が数百万円みたいところもあったりするし。
朝倉:流動性が低くて、まとまった額を投資すると一気に株価が変わってしまうという点では、なんだか地方競馬みたいな世界ですね。万馬券を狙って人気薄の馬券を数万円買うと、気づいたら一気にオッズが下がって人気馬券になってしまうみたいな(笑)。2000億円以上のゾーンは中央競馬といった感じかな。
村上:正確なデータを持ってるわけじゃないけど、ロングの優良投資家ががっつり入ってる時価総額1000億円以下の会社ってそれほど多くない。大手優良投資家はある程度の規模を取りたい、でも流動性がないと怖くて買えない、というジレンマがある。流動性が出てくれば資金調達のフレキシビリティが増してくるので、そこまでいけば上場のメリットを感じる経営者も増えてくるのかも知れませんね。
小林:上場したうえで、さらに流動性も一定確保しないといけないわけで、単に上場しただけだと必要条件しか満たしてない。十分な規模の流動性がないままの上場って日本は多いよね。ある有名CFOは、浮動株のボリュームで500億円はいる、と言ってました。50%だとしても、時価総額1000億円はいるわけですね。
朝倉:その意味では、上場のメリットを活かそうとすると、四の五の言わずに時価総額1000億円くらいは目指さなきゃいけないんでしょうね。
マザーズに上場したばかりの会社の時価総額の規模感を、アメリカのスタートアップのサイズに照らし合わせて考えると、平均的にはミドルステージのスタートアップの水準なわけだし。
*次回【ポストIPについて Vol.4】もったいない!日本企業が敬遠しがちな海外IRツアーの大きなメリット に続きます。
*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2017年9月16日に掲載された内容です。
朝倉祐介 シニフィアン株式会社共同代表兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。
村上 誠典 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。
小林 賢治 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括する。