総合失敗から学ぶ LIXILが取り組む組織改革と人材育成
「まさか」の事態が起こるリスクはどの企業にもある。特に、日本とは商慣習が異なる企業を相手にするグローバルビジネスでは、トラブル発生のリスクは跳ね上がる。そのリスクを最小限に抑えるために、財務担当者に何ができるだろうか。
住宅設備の大手メーカー、LIXILグループは2015年、海外子会社の不正会計処理によって損失を出した。不正を再発させないため、どのようなことに取り組んできたのだろうか。副社長兼CFO(最高財務責任者)の松本佐千夫氏に、組織改革や人材育成などについて聞いた。
お金の管理を集約
――海外ビジネスを拡大するにあたって、リスク管理は大きな課題になっています。海外子会社や取引先の状況を正確に把握して管理することは難しいと思います。LIXILグループでは損失を出したことを教訓に、どのような取り組みをしていますか。
さまざまな取り組みをしていますが、海外グループ会社の資金管理の方法を変えたことは、大きな改革の1つです。中国・上海、シンガポール、独デュッセルドルフ、米ニュージャージーの4カ所に「リージョナルトレジャリーセンター」を設置し、各地域にある会社の資金管理業務などを集約しました。それまでは、各社がそれぞれ業務を担っていました。同センターは本社の組織の一部で、個々の会社からは独立しています。
――同センターにはどのようなメリットがあるのですか。
16年夏に同センターを設置した中国には、12社のグループ会社があります。国土の広い中国では、会社がある地域ごとに環境は大きく異なりますし、それぞれ会社の規模もバラバラです。そうなると、財務や経理の仕事でも、質の違いが出てきます。また、1社当たり10前後の口座残高を12社分、各社から日本に毎日集めて管理するのは難しくなります。
財務や経理に関する業務を集約する拠点があれば、12社全ての業務を1カ所でできます。それによって、仕事の方法やレベルを統一し、正確性や迅速性が向上しています。現在は、12月の完成を目標に、全ての口座の残高を翌朝に把握できるシステムの構築を進めています。中国各社の資金情報を、上海と日本が同時にオンラインで把握できるようになるので、さらにリスク管理がしやすくなります。
また、人材確保の面でもメリットがあります。特に内陸部の会社は、経理の人材を確保するのが難しいのです。上海の1カ所であれば、高い専門性を持つ人材を確保できます。以前は12社合わせて二十数人必要だったのですが、4人でできるようになり、効率化にもつながりました。
――まとめて管理することで、不正やミスが発生しにくいオペレーションにしている、ということですね。グループ全体の資金管理を集約することで、経営にも効果がありますか。
不正対策の一環でもある取り組みですが、グループ会社の資金を可視化する、という点においても効果が出ています。
先ほどからお話ししている中国の各社には、余剰資金が偏在していて、資金を効率的に活用できていない状態でした。資金管理を集約することで余剰資金を洗い出し、設備投資などに必要な分以外を他の地域の会社に貸し付けて、外部からの借入金の返済に充てています。グループ内で資金を融通しやすくなったのです。中国など、国境を越えてお金を動かすことに対する規制が厳しい国もありますが、規制緩和の情報を常に確認して対応しています。
――余剰資金はどのくらいあったのですか。
100億円に近い額でした。それが各社に分散して眠っていたのです。
ガバナンス意識を根付かせる
――それぞれ担っていたお金の管理を集約するなど、本社主導の取り組みを進めるためには、グループ内で意識を統一させることが重要になると思います。うまくいっているのですか。
M&Aで取得した会社は、上場企業ではない投資ファンドがオーナーだったところが多く、ガバナンスに対する意識にずれがありました。上場企業には透明性、説明責任が求められますが、投資ファンドの下で育ってきた企業は、短期の利益や目先のキャッシュを重視する傾向がありました。まずはガバナンス教育、価値観の共有から。マネジメント方法や規定を統一する重要性などを繰り返し伝えています。
その手段の1つがグローバル会議の開催です。財務、経理部門の責任者が一堂に会し、業務の方針や考え方を確認します。責任者の下にいる会計や業績管理などの担当者ごとに集まる会議もあります。年1回の全体会議に加えて、資金管理や税務、内部統制など、細かい業務別の会議も頻繁に開催しています。
――連結子会社だけでも200社以上あり、会社の状況はさまざまだと思います。会議で示される方針の受け取り方もさまざまではないですか。
もちろん、欧州や中国、東南アジアなどの地域によって、実績や達成できるレベルは違います。そのため、全体として大きな目標を示し、地域や会社ごとに無理のないステップで取り組んでもらっています。
過去の例では、決算期の統一や規定づくり、リージョナルトレジャリーセンターの設置などの目標がありました。その目標を目指して、小さなプロセスから達成していくのです。「What(何を)」「Why(なぜ)」を全体で議論して決めて、「How(どのように)」「When(いつ)」を地域や会社ごとに設定してもらい、実行してもらっています。
――反発などはありませんか。
本社から海外の主要子会社に派遣している責任者を、その会社の取締役に選任したときは反発がありました。責任者といってもまだ40代で、現地の経営陣と比べると若いため、社員のモチベーションが低下する、という意見があったのです。
しかし、その会社の株主として、ガバナンスを重視する姿勢を伝えて実行しました。海外進出する日本企業でよくあるのが、駐在員がお客さま扱いされて、何の情報も入ってこないという失敗です。それは防がなくてはなりません。各社の重要な意思決定の過程に携わることで、本社に入ってくる情報量が増え、監督機能を強化することができました。
財務部門を「逆三角形」の組織に
――取り組みを継続的に進めるためには人材育成も重要となります。
財務の専門職を育てるために、地域を越えたジョブローテーションも始めています。日本からドイツに出向している2人の社員は、1人は責任者の立場ですが、もう1人は若い社員です。現地の人と一緒に経理・財務の仕事をして、勉強の場にしています。米国にも同じ形で2人出向しています。
海外派遣は、若いうちに大きな責任を負う経験にもなります。裁量の範囲の中で自分が最終判断をする、という立場に追い込まれるのです。こちらとしては、試練に立ち向かう事で成長してもらいたいという気持ちです。
――最後に、CFOの役割についてどう考えますか。CFOとして取り組む、LIXILグループの今後の課題は何でしょうか。
多くの日本企業の経理・財務部門は、決算書や有価証券報告書などを決められた通りに提出する、という役割を果たすことに注力しています。しかし、CFOはそれだけではいけません。会社全体の将来を見据え、どんな手を打っていくのか考える必要があります。経営者を数値の面で支える存在です。
私は3年前、「世界最先端の経理財務部門にする」ことを掲げてCFOに就任しました。まだまだ道半ばだと思っています。
現状は、経理、財務部門の人員配置はピラミッド型。まだまだ単純な繰り返し業務を行う現場にリソースを割いています。本来ならITやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを活用して、人間はもっと高度な判断業務をやるべきなのです。現状では、社員の潜在的能力を十分に引き出せていないので、申し訳なく思っています。
将来的には、その形を逆三角形にしていきます。売掛入金の照合などといった業務は自動化されます。そして、CEOや各国の責任者の近くで参謀として戦略判断を支える、という付加価値の高い仕事に移っていってほしい。そのために、会社としても教育に力を入れていきます。

