総合面接では“形容詞”ではなく“事実”で自分を表現する。採用する側はどこまでも事実を尋ねていくとよい。
井上 スピーチで失敗しがちなことといえば、もう一つ。内容を詰め込みすぎるというか、ネタを省けないんですよね。これだけでは伝わらないんじゃないかという不安もあって……。
西任 それも目的が明確ではないからです。あれもこれも言いたいという気持ちが勝ってしまうんですよね。時間を考えれば、「ここまでしか無理だよな」というのもわかると思うので、目的を明確にしたあとは潔く、省く勇気を持つことが必要ですね。
あとは今の話につながることで言うと、結論は自分で言ってはダメなんです。例えば、「がんばりましょう!」でも「モチベーションを上げましょう」でもなんでもいいんですが、こちらから結論を言うと、相手はそれを押し付けられたように感じますよね。相手のモチベーションを上げたければ、相手が「なんかモチベーションが上がってきた」と思える話をする必要があります。もっとわかりやすい例が、「私を信頼してください」という言い方です。そんなことを言われても、誰も信頼しないですよね。「あ、この人は信頼できるな」というのは、聞いた人が決めるんですよ。だから聞いた人が決められるように話すというのも、ポイントですね。そういうことは頭ではわかっていても、実際にやるとなるとできないのは、やはり自分がしゃべる気持ちよさが勝ってしまうからだと思うんです。
井上 「結論は自分で言ってはダメ」という話と関連するんですが、僕らはキャリアのアドバイスを社長様や幹部の人にさせていただくときに、「形容詞を使わないでください」という話をよくするんですね。しゃべるときもそうなんですが、職歴書を書くときには、「自分を形容詞で表現しないでください」と。例えば、ご自分で「期間中、類まれなる業績を残した」みたいなことを書く方がいらっしゃるんです。たしかにそうなのかもしれませんが、どうもピンと来ない。しかし、「在任期間が8年あって、最初はこのくらいの売上で、こんなような周期でこんな規模でこんなことをしたら、売上が3倍になって収益が5倍になった」という事実を並べてもらったら、「おお、それはすごい」となりますよね。
西任 たしかに。「類まれなる業績を上げられましたね!」って、こっちが思うんですよね。

井上 それを言うのは相手です。本当にそれは思いますね。
西任 面接を受けるときには、具体例をどれだけ話せるか、なんですよね。面接の技術の話になりますが、以前、ある会社の役員の方々に、面接の仕方の研修をしたことがあります。皆さん何となく、感覚で採用を決めているんですよ。そうではなくて、新卒の場合なら学生からいかに事実を引き出すかが大事です。例えば、「サークルの部長をやっていました」と言われたときに、それだけで「ほお~」と好評価とするのは自分の思い込みです。そうではなく、「部長をしていたんだ……。それは立候補したの? 誰か周りがやれって言ったの? 部長として何をやったの? そのときに何かを変えた? どうやった? 先輩はどう言っていた? 反対しなかった? それで、どうなった?」――といった事実を聞いていくと、その人が周りからどう思われて、どんな人間関係を築くタイプで、何ができるのかがわかってきます。面接は質問の仕方が大事なんですが、そのときには相手の話を聞いて、勝手に自分の価値観でラべリングしないこと、ちゃんと事実を見る力を付けていくことが必要です。
井上 事実をちゃんと聞かなかったために採用で失敗したケースは、僕もよく相談を受けます。経歴はすごい。人柄という観点でもいい。面接も丁寧にして、4回くらい会食もした。しかし、仕事をやってもらったら何もできなかった――と。結局、事実を聞いていないんですよね。プロフィールの概要しか見ていない。西任さんがおっしゃったように、思い込みで評価しているわけです。例えば、ベンチャー系の会社なら、指示を出して判子をついているだけでは管理職は務まらない。自走型で周りを巻き込みながらやれる人でなければいけないのに、これまでそういう仕事をしていたかどうかの事実を聞いていないんですね。
西任 やはり事実を聞くことですよね。皆さん、自分の聞きたいように話を聞いていますから。
井上 いい人もいるんですが、事実が欠落していて危ないタイプで言うと、例えば、「若手を育てて、みんなを勇気づけて元気にして、前向きにならせていくことを大事にしています」という幹部クラスの方が結構いらっしゃるんですが、下手すると何もやってない場合もあります。「がんばれ」と言っているのは事実かもしれませんが……。
西任 そのときは、「具体的にどのようなやり方で勇気づけられたんですか?」あるいは「今まで勇気づけられて一番変化した社員の方を一人教えてください」と聞いて、パッと出てこなかったら……。そういう質問ですよね。
井上 それなりの立場の方でも、そんなふうに見ていない人は意外と多いというのは、僕ら、こういう仕事をしていて思いますよね。そして、それは自分が発信する側に回ったときも同じだということですよね。事実を伝えられているだろうかと考えることが大事です。いくら良い雰囲気で話ができたとしても、もう少しちゃんと伝えたいとか、ビジネスに深く入ろうとか、自分なりに影響力を及ぼそうと考えたときに、事実の情報が足りていないと、その先に進んでいかないことがある気がしますね。
西任 それも、先ほど言った「抽象と具象のバランス」ですね。「具体的にはこういうことをやった。なぜなら自分はこういうことを大切にしているからだ」というふうに、事実と理念の両方が語れると、ものすごく信頼感と説得力が高まりますよね。
井上 いわゆる〝腑に落ちる人″というのは、その両方の情報をくれる人なんじゃないかな。なんかいい感じに思うんだけどイマイチ刺さらない人は、西任さんがおっしゃるように、見てくれの良さはあるんだけど、具象がないという……。
ところで、この連載の読者は、上司の立場にいる方が多いので、部下とのコミュニケーションについても話していきましょう。悩んでいる人に対して、西任さんならどういうカウンセリングをしますか?
西任 まず出発点として、部下が上司のあなたに心を開いていない場合は、コミュニケーションも成り立たないですね。ですから、難しいことですが、心を開いてもらえる自分になるしかありません。それは、「まず」であり、「ここが最終的」というくらいに難しいことではあるんですが……、具体的なお悩みにはどのようなものがありますか?
井上 そうですね、皆さんからいつも相談されるのは、「部下がちゃんと意図を汲んで動いてくれない」という話ですね。

西任 それは、意図を伝えていない可能性が高いと思います。意図を汲んで理解できる人は、何も言わなくても、汲んでくれます。そうでないのなら、伝えるしかありません。私が研修でよくお伝えするのが、「自分が部下に何か伝えたときに、『わかった?』と聞くのは意味のない質問ですよ」ということです。「わかった?」「はいっ」というやり取りをしても、本当にわかったかなんてわからない。もし、自分が伝えたことを相手がちゃんと受け取れたのか知りたいということなら、質問の仕方は変わるはずなんです。
例えば、「今、私が言ったことはすごく大事で共有しておきたいことだから、どんなふうに理解してくれたか一回君の口から聞かせてもらえる?」と言ったときに、相手が「西任さんは〇〇〇〇と考えていらっしゃるということですよね」と返してきた内容が合っていれば、「あ、そうそう」となるし、そこで理解が足りていなければ「そうだね。ちょっと補足しておいてもいい?」と補足できる。もし理解がズレていたら――このズレていたときがポイントなんですが――、「違うよ」と言ってはダメです。そうすると、もうその人はそれ以降発言することが怖くなってしまいます。「何か言ってまた『違う!』と言われたらどうしよう……」と、どんどん委縮しますよね。心が委縮すると、当たり前ですが、脳が働かなくなりますから。
ですから、相手が間違っていても、〝間違っている″という事実を受け取るんです。それは同意することではありません。「君はそういうふうに受け取ってくれたんだね。それは僕の伝えたかったことと少し違っているようだから、もう一度説明してもいいかな?」と改めて説明する。とにかく相手のどんな発言も受け取らずに、「いや……」と言ってはダメです。そうすると、相手はしゃべれなくなります。
井上 そうですね、その通りです。僕も、通常のコミュニケーションとして、「わかりました」「ほんとー?」と突っ込んではいるんだけど……。
西任 「ほんと?」と聞いて、「はい」と言われると、突っ込むことで確認したかったことが、やっぱり不明瞭なままになりますよね。今申し上げたことを要約すると、(1)会話でも目的を明確にすると質問の仕方は変わる、(2)どんな発言であっても受け取る。それは同意ではなく、その人はそのように考えているという事実を受け取る。ということです。
相手の話を聞き入れるというと、皆さん賛成しなければいけないと思っていて、それで反発が出てくると思うんですね。賛成はしなくていいんです。だって、違うんですから。相手は違う意見を持っているということを尊重したいんです。例えば、それは会議の進行にも顕著に表れます。違う意見であっても相手は尊重されているので、過剰に感情的になる必要が無くなる。逆に、「いや……」と言われると、ぐっと自己防衛に走るか攻撃に出るかどちらかになります。そうなるとコミュニケーションをしていても、まったく生産性が上がらないんですよね。この二つをやるだけで大きな変化が生まれると思います。