米インディードが目論む「リクルート超え」 「1クリック、1分で転職ができるようにする」と出木場久征CEO

総合米インディードが目論む「リクルート超え」 「1クリック、1分で転職ができるようにする」と出木場久征CEO

日経ビジネス10月16日号の企業研究「リクルートホールディングス 創造への破壊は続く」の連動企画。今回からは、リクルートホールディングスの今後を占う、3人のキーマンのインタビューを紹介していく。まず登場するのは、本誌記事でも最初に取り上げた、米国子会社Indeed(インディード)の出木場久征CEO(最高経営責任者)だ。

インディードは、2012年にリクルートが約965億円で買収した求人検索エンジン大手。IT(情報技術)を駆使したビジネスモデルで急成長を続け、人材サービスの領域を一変させる可能性があると期待されている。出木場氏はリクルート側の責任者として買収を主導し、子会社化後の経営も統括。インディードの「リクルート超え」を公言してはばからない。

宿泊予約サイト「じゃらんnet」などを成功に導いてきた出木場氏は、リクルート社内でいち早くネットシフトへの道筋をつけた人物として、本体の常務執行役員も務める。次代を担うと目される経営幹部の筆頭格である出木場氏に、インディードの強さと今後の進むべき方向性について聞いた。

2012年にリクルートが買収したインディードは、その後も急成長が続いています。インディードとは、どのような会社で、何を目指しているのでしょうか。

出木場 久征(いでこば・ひさゆき)氏
1975年生まれ。99年リクルート入社。全社WEB戦略室室長などを経て2012年にインディード買収を主導。16年からリクルートホールディングス常務執行役員兼インディードCEO(写真:竹井俊晴)

出木場久征氏(以下、出木場):インディードは世界を変える可能性がありますよ。皆さんの人生の中で何が大事かといったら、まず家族、健康、仕事ですよね。インディードは仕事に関わる採用、転職、つまりHR(人事)の分野を劇的に変える可能性がある。なぜなら、世界中でHRって、時代遅れもいいところなんです。

例えば転職の仕方にしても、その仕組みはこの30年間ぐらい何も変わっていない。これだけテクノロジーが進化して、自動車業界では自動運転を実現するとかチャレンジしているのに、HRはすごく時代遅れ。それを、ものすごく簡単に、便利なものにする。それこそ、1クリック、1分で転職できるようにする。それを我々が目指しているということです。

それが可能だと思ったから、インディードを買収して、一歩ずつ階段を登ってきたということなんですが、これを本当に実現できたら、リクルートなんて圧倒的に超えていけると思っているんですよ。売り上げや利益がすぐにそうなるかは分からないですよ。ただ、世界の人たちの生活を変えることはできる。その価値はあると考えています。

インディードは「求人検索のグーグル」と表現されることも多いですね。最大の競争力はどこにあるのでしょう。

出木場:分かりにくいですよね(笑)。まず、インディードというのは、マシンラーニング(機械学習)の会社です。利用者がどんな場所にいて、スマートフォンのOS(基本ソフト)は何を使っていて、どんな仕事を探していて……、というのを本当に細かく、それこそワンクリックごとに分析してパーソナライズしています。

例えば、東京の八重洲あたりで「正社員の営業」と検索した人と、錦糸町のあたりで「バイト」と検索する人がいる。この人はiPhoneを使っていて、ブラウザのアプリはグーグルのChromeを使っている。こうしたデータをものすごく徹底して集めて、このエリアでバイトを探している人はこうした仕事を探す傾向があることを割り出すことで、適した仕事を見つけやすくなる。

だから、インディードは使えば使うほど、各利用者にとって最適化されて使いやすくなっていく。一方で、東京で「パートタイム」を検索する人の傾向は、パリに住む人にも近い傾向があるわけです。インディードは世界60カ国以上で、月間約2億人が使っているから、マシンラーニングに必要な膨大な量のデータが集まってくる。それをさらに精緻に分析して、どんどん精度を高めていく。これがインディードの大まかな仕組みということになります。

楽しく仕事することが最も重要

その先に、世界中でHRをガラリと変えるという目標があると。

出木場:そう。僕の興味はHRを圧倒的に効率良くして、1クリック、1分で転職ができるようにすること。例えばインドなんて、1つの仕事に1000人が応募して、さらに、そんな風にして仕事を探している人が何百万人もいる状況があるわけです。

携帯電話が世に出る前と出た後で、見える世界がガラリと変わったように、インディードがある前と、普及した後で転職が全く違うものになるようにしたいんです。自分の子供たちに「インディードがある前って、どうやって転職してたの?」って質問させたい。今、このまま進めば、それが目に見えるようになるという手応えはあるんですよ。

インディードは求人情報に特化した検索エンジンとして、世界中で利用される

出木場さんがリクルートに入社されてからの仕事や、これまでの経験というのは、どのように捉えておられますか。

出木場:米国でもインディードの20代の社員とかに、「どういう風に仕事をしたいと思ってきたんだ?」などと聞かれるんですけど、振り返ってみると入社3年目くらいから、命令されて何かやってきたことって1回もないんじゃないかなと思いますね。格好良くいうと個の尊重なのかもしれないけど、結局、楽しく仕事ができるということが最も大事でしょうね。

楽しく仕事ができるというのは、一つは分かりやすいミッションがあること。今の僕であれば、インディードの「I help people get jobs.」。リクルートにも分かりやすいミッションがずっと存在してきた。ゲームで例えるなら、悪いドラゴンに捕まっているお姫様を助けよう、そのためにレベルを上げて、ダンジョンをクリアしよう、とか。すごく分かりやすいじゃないですか。熱中できるものをうまく皆で作って、その目標に向かって一歩一歩進む。大事なことって、結局そうしたことだと思いますよ。

リクルートでは「圧倒的な当事者意識」という表現もよく使われますが、そうしたことでしょうか?

出木場:「圧倒的な当事者意識」って、そうなんだろうなあとは思うけど、ちょっと重くない?そんな大層な使命感っておっさんくさいというか…。こんなこと言っちゃうとまずいけど(笑)。個人的には、圧倒的な当事者意識って上の人間が要求するものではなくて、周りを巻き込んでいくものだと思いますよ。

僕が「じゃらんnet」の開発を手がけていた時も、それは同じで、全社の誰でも見に来ていいから、参加したいやつが来いという運営にしたんですね。誰それに出欠連絡して、終わったら必ずアンケートをとって、参加率出して、とかすごくダサいと思ったから。そうしたら毎月参加者が増え続けていきましたけど、仕事というのは絶対そうした方が楽しいですよ。

インディードは日本企業の海外M&A(合併・買収)の成功事例として注目を集めるようにもなっています。買収後の成長も含め、勝算はそうした経験から出てきたものなのでしょうか。

出木場:勝算というのははっきりとは分からないですが、頭でこねくり回すより、感覚的なものって大事だと思いますね。僕の中では、言葉の使い方とか、ものの考え方っていくつかの質問で必ず分かるんですよ。例えば、日経ビジネスにおいて、今期の目標や注力ポイントってどういうところですか?

経営を「引き算」で考える

そうですね…。注目を集める記事を多く掲載して、読者数を増やす…。

出木場:そうですよね。でも、それってどういうこと?じゃあ、読者数は20%増やすの?そのためには女性読者、若年層読者をどれだけ増やせばいいの?それを実現するにはどんな分野の記事を前年比で何本増やして、1カ月、2カ月経った時の数字をどう分析するの?これを明確にして戦略を立てることが重要なんです。

スタートアップを見極めるのも、それと全く同じです。僕はインディードの買収までに、何百人もスタートアップの社長に会って「ゴールは何?」という質問をしてきた。そうすると、「マーケットプレイスとしてのバリュー最大化を狙う」とか「ギグエコノミーによるシェアリングを世界に根付かせる」とかいう答えが返ってくるわけです。

でも、それってどういうこと?例えば商品数は前年比2倍にして、月間ユーザー数を現在の50万人から70万人に増やすとか、そうした明確な分かりやすい目標を説明してくれる経営者はほとんどいない。実は、みんな判で押したように分かったような、分からないことを言うわけですよ。びっくりすぐるらいに。

でも、インディードはそうじゃなかった?

出木場:そう。まず、大きな目標としては先ほど話した通りですが、そこに至るまでの方向性がすごくシンプルで分かりやすかった。そういうことがきっちりできるインディードの創業者って、僕の考え方に近かったんですよね。あとは経営について「引き算」の考え方ができる点。テクノロジーの競争で群雄割拠の状況では、1も2も3も4もそれなりにできるより、2~4は捨てて1だけでも圧倒的にできる方が、やっぱり突破力が大きい。それが理由ですね。

出木場さんの「リクルートを超える」という言葉もありましたが、インディードの位置付けというのは、グループ内でもかなり特殊ではないですか。

出木場:「リクルートを超える会社を作ってきます」と言って出て行ったこともありますけど、世界のHRを変えるという僕らの夢を、リクルートが応援できますか?ということだと思うんですよね。そういうことにリクルートが興味がないなら、もう僕、辞めますよ。今のところ、やりたいことに対して文句を言われたことはないですけど。甘やかされているだけかもしれませんけどね(笑)

出木場さんから見て、リクルートのこれまでのHR関連事業についてはどう感じておられますか。

出木場:僕は直接リクルートでHR事業をやったことはないですが、もっと色々なことはできたと思いますよ。だって、リクルートって、この分野でかつて圧倒的なシェアを持っていたわけです。日本で劇的に効率良く転職ができる社会を実現して、皆がもっと生き生きして一生懸命に働けるようにする。それが可能だったはずなんです。そう思われてないってことは、もっとできたことがあるはずなんですよ。

もちろん、言うは易しで実際には難しいことだと思います。だけど、そこにチャレンジしていくのがやはりビジネスとしては王道だし、新しいものを生み出すからこそ売り上げが増えて利益が上がって、さらに大きなチャレンジができるようになる。そうしないと、面白くないじゃないですか。

江副さんはやっぱりすごい人

最後に、創業者の江副浩正さんについては、どんな経営者だと思いますか。

出木場:やっぱりすごい人だったと思いますよ。今、我々はリクルートを超えようとして頑張っていますけど、それこそ、リクルートが持っているエネルギーの源というか、DNAの鋳型を作ったということですよね。創業者が会社を立ち上げて、それから60年近く経って今の若いやつらが生き生きと働ける仕組みを真摯に考えた人だと思います。だって、今の現役の世代が「圧倒的な当事者意識」って言い続けているわけでしょう。

江副さんが作った型があって、人が生き生きと働き続けられるためには、情報の透明性があって、明確なゴールがあって、進捗を皆で共有して……、というシンプルな仕組みがいくつかある。圧倒的な当事者意識とか、個の尊重とか、言葉はあれこれありますが、結局重要なのはこの仕組み自体ですよね。

今、米国のトップIT企業って、実はこうやってリクルートが何十年も前からやってきたことと、同じことをやっている会社って多いんですよ。だから、インディードでもオープンなQ&Aの仕組みとか入れると「フェイスブックの真似をしている」とか言われるんですけど、いや、それリクルートではずっと前からやってるからって(笑)。僕は江副さんと直接話したこともないですけど、ものすごいことだと思いますね。