AIAIは仕事を奪……わない? むしろ人手不足深刻に
むしろ雇用を生み出す
技術開発は日進月歩である。とりわけ期待がかかるのが人工知能(AI)だ。
話しかけるだけで家電などを操作できる「AIスピーカー」が登場した。自動運転車の精度も向上している。
AIはわれわれの暮らしを便利にするだけでなく、働き方を変え、社会や経済に大きな影響を及ぼすだろう。少子高齢化に伴う労働力不足を解決する有力策として挙げられることも少なくない。
それどころか、「AIが多くの人の仕事を奪う」との予測も盛んに語られる。「2045年頃には9割の人が失業する」といった展望を示す専門家までいる。
多くの人が失業するようになれば生活保護受給者が増える。こうした予測をする人の中には、「生活保護は行政手続きに労力を要するので、収入水準にかかわらずすべての人に最低限の生活費を一律給付する『ベーシックインカム』を導入すべきだ」という意見まである。
こうした見通しについて、政府はどう分析しているのだろうか。厚生労働省の「労働経済の分析(労働経済白書)」が、経済産業省による2030年の労働力増減の推計を紹介している。
労働力人口が約225万人減るのに対し、AIの進展による就業者の減少は約161万人にとどまり、約64万人の労働力が不足するというのだ。白書はイノベーションはむしろ雇用を生み出すこともあるとしている。結果を見る限り、9割もの人が仕事を奪われる未来は考えづらい。
製造業160万人減少
ただ、産業や職種によってはかなりの影響を受けそうである。どんな仕事がAIに取って代わられる可能性が大きいのだろう。
白書によれば、産業別で最も減るのは製造業の約159万7千人。農林水産業は約70万3千人、卸売、小売業は約43万人減るとしている。これに対し、サービス業は約157万7千人の増加が見込まれている。
職種別にみるとさらに分かりやすい。大きく減るのは生産工程従事者(約187万1千人減)、事務職(約78万5千人減)、運搬、清掃、包装等従事者(約73万6千人減)、農林漁業作業者(約38万4千人減)などである。
増えるのはホームヘルパー、介護職員(約107万9千人増)、販売従事者(約46万5千人増)、技術者(約45万3千人増)、サービス業(約35万7千人増)などだ。
工場のラインにおける定型的な仕事や単純な事務といったパターン化しやすい業務はこれまで以上に減るが、営業や対人サービスのような人情の機微が欠かせない仕事や、熟練した技能を必要とする職種はAIでは対応し切れないということであろう。
優先すべきはベーシックインカムの検討ではなく、「専門性の高い技術能力」であり、AIではでき得ない「人間的なコミュニケーション能力」を身につけた人材の育成であることが分かる。
そもそも、ベーシックインカムの実現は非現実的な政策であると言わざるを得ない。1億2000万人の国民に毎月10万円を支給しようとすれば年間144兆円かかる。この額には医療・介護、保育といった現物給付にかかる費用は含まれない。
ましてや失業者が増えるということは、税収が減るということでもある。大量の失業者対策としてベーシックインカムを考えること自体に無理がある。
まず基礎知識の習得を
では、今後どういう人材を育てたらよいのか。まずはAIを正しく理解するための基礎知識を習得し、AIを取り入れた新たなシステムやツールを使いこなす能力を身につけることである。
AIを正しく理解する人を増やすことは、AIの普及を加速させることにもなる。AI開発には(1)実験環境の中で技術的に確立すること(2)実用化されること(3)多くの人々が安価で簡単に利用できるようになること-といった段階がある。多くの人々が使いこなすようになって、はじめて社会に定着するからだ。
さらに、AIによって仕事を奪われる人たちが別の仕事にシフトするための再教育も重要だ。教育機会を逸しないよう時間の確保と費用の支援が求められる。
人口減少が深刻化する日本にとって、AIをはじめとするイノベーションは不可欠である。AIが一般化する時代に備え、個人や企業はもとより政府の対応が急がれる。
