女性活躍トップの第一生命保険の取り組んだ施策とは

女性雇用女性活躍トップの第一生命保険の取り組んだ施策とは

社員の約9割を女性が占める第一生命保険は、女性の「働きがい」と「働きやすさ」をバランスよく進める長年の取り組みによって、日経WOMANと日経ウーマノミクス・プロジェクトによる「企業の女性活用度調査2017」で総合1位に輝いた。しかしそんな同社も、かつては女性社員の仕事に対する満足度が低かったという。長年人事部門に携わってきた取締役常務執行役員の武富正夫氏に、女性社員と組織の意識を変えた人材育成策について聞いた。

(インタビュアー/麓幸子=日経BP総研マーケティング戦略研究所長、取材・文/谷口絵美、撮影/竹井俊晴)

女性社員の満足度が低かったことがきっかけに

まずは「女性が活躍する会社BEST100」の1位に選ばれた感想をお聞かせください。

武富正夫氏(以下、武富):当社はここ20年、経営品質経営というものに取り組んできました。97年頃から業界が非常に厳しい時代を迎え、そこから徹底的にお客様志向で経営の品質を高めようという経営を続けてきたのです。現会長である渡邉光一郎が社長になってからは、いわゆる人財のダイバーシティ&インクルージョンを経営戦略そのものに据えた「DSR(Dai-ichi’s Social Responsibility)経営」を打ち出しました。こうした長年の取り組みが評価されたのではと思っています。

ダイバーシティ&インクルージョンは現在取り組んでいる中期経営計画の柱のひとつにもなっており、最終年度にあたるこのタイミングで一等賞をいただけて、大変うれしく思います。

第一生命保険取締役常務執行役員 武富正夫氏
<プロフィール>1986年関西学院大学経済学部卒業。同年第一生命保険入社。2007年人事部部長。12年執行役員アンダーライティング本部長兼事務企画部長。13年執行役員人事部長。14年執行役員グループ人事ユニット長兼人事部長。16年第一生命ホールディングス常務執行役員人事ユニット長。同第一生命保険取締役常務執行役員人事部長。17年4月第一生命ホールディングス常務執行役員DSR経営推進本部長。同第一生命保険取締役常務執行役員(現職)。同6月第一生命ホールディングス取締役常務執行役員DSR経営推進本部長(同)

周囲の反響はいかがでしょうか。

武富:お客様や取引先の方からたくさんお声をかけていただきましたし、社内的にも私共は社員の9割が女性ですから、非常にモチベーションアップにもつながりました。また、採用の際に第一生命という会社をこういう形で表現できることも、プラスに働いている点かなと思います。

取締役は人事部門を長く担当されていますが、女性活躍推進の重要性を認識したのはいつごろからでしょうか。

武富:ダイバーシティを始めたきっかけは、2003年から始めた従業員満足度調査です。男性管理職の満足度が高かった一方で、お客様に一番近いところにいる、生涯設計デザイナーやコンタクトセンター、営業をサポートする女性社員たちの満足度が低かった。徹底的にお客様志向でいこうと言っておきながら、それを届ける社員の満足度が低いのは問題なので、いろんな分析をしたり施策を打ったりということを始めました。

もう一つは、当社にどんな強みと弱みがあるかを外の目で一度見てみようと、10年ほど前に社員の研修を外部にアセスメントしてもらったんですね。管理職を対象に行ったのですが、その結果がほとんど「金太郎飴」だった。つまり、いい面にしろ悪い面にしろ、同じような人間が非常に多いことがわかったんです。

これだけビジネスを取り巻く環境が厳しくなる中で、同じ価値観や発想を持った集団では変革を起こすことはできません。もっと凸凹をつくらなくてはいけないし、強みや弱みが人によってバラバラで、違いを受け入れたり、異分子がいたりする中で新しい価値創造は生まれてくるのではないかという思いを強く持ちました。

満足度の低さというのは、どういう点に原因があったのでしょうか。

武富:「労働環境が厳しい」「お客様に保険を説明する難易度が高い」「もっとやりたいことがあるのにできない」などいろいろありました。私は12、3年前に人事課長を務めた後、保険契約を引き受ける400人規模の組織の長になったのですが、そこでも満足度調査の結果は低いものでした。「事務は正確にやって当たり前で、間違えられると怒られる。それではモチベーションが上がらない」と。コンタクトセンターなども、お客様から厳しい言葉も言われるし、商品の難しい手続きや約款について説明しなくてはいけない難易度の高い仕事です。それをモチベーションがなかなか上がらない中でやらなくてはいけないというのが、調査の結果に表れていたのかなと思います。

総合職と一般職を統合。「場」と「訓練」で人は変わる

どうやって課題解決に取り組んだのでしょうか。

武富:大きな節目として、2009年に総合職と一般職を統合しました。違いは住居異動の有無だけで、やってもらう仕事は一緒という形にしたんです。自分の力を出すために違う世界も見てもらおうと、ジョブローテーションや社外との研修、ネットワークづくりといったことに、元一般職の女性を参画させてきました。まだ道半ばですが、意識の改革という面ではだいぶ変わってきたかなと思います。

最近、私が人事部門のメンバーに言っているのは、「きれい事ばかりで実態が伴わないとかえって不満が大きくなる。だから一番変わらなければいけないのは人事だよ」ということです。制度を変えたから実現するわけではなくて、どうやって実態に近づけ、会社として行動を起こしていくか。「会社が変わったな」ということを、男性も女性も、外国籍の方も障害のある方も、みんなが思えるようにしていかなくてはいけないと思っています。

元一般職の方に、どのように意識づけをされたのかを伺いたいです。多くの企業が職掌統合をやりましたが、もともと一般職で入社しているために意識がついていかず、不平が出たり、かえってモチベーションが下がったりということも起きています。

武富:それまでの事務中心の定型的な仕事から、営業のコンサルティングや支払いの判断といった専門的な業務、数十人を束ねるマネジメントなど、いろんな仕事にどんどん就かせると、本音が多々出てきました。「自分は自信がないし、○○さんみたいにできない」と言うのです。あとは、「私たちがやる前に、総合職の人がもっとやるべきでしょう!」。これが一番強烈です。

当然ながら、人は高いハードルを課していかないと成長しません。本当は一人ひとりに強みと個性があるわけですが、それまではずっと一つの仕事をやってきたので、気づかせることができなかった。私は「難しい仕事、あなたにとってチャレンジングな仕事をやってもらうけれど、それはあなたの強みを発見するための策なんだよ」ということを伝え、人事部と所属長、本人とでいろいろ議論して、どういうキャリアが望ましいのかを見てきました。その結果、さまざまな仕事を経験することで自分の強みを知り、それがモチベーションとなって本人にもプラスに働くというケースが増えてきました。

私がよく言うのは、「ポストが人をつくる」いうことです。「場」と「訓練」を経験することで、人は変わってくると思っています。

第一生命保険では女性管理職比率を2018年4月までに25%にするという目標を立てていますが、こちらの進捗はいかがですか。

武富:非常に厳しい目標ではありますが、2017年4月時点で24.2%まで来ましたので、何とか達成したいと思っています。

女性のメンタリングが役員の固定観念を崩す

女性の登用に関して、役員の方々が関与するようなしくみをつくったと伺いました。

武富:別の部門を経て久しぶりに役員として人事に戻ったときに一番のボトルネックだと感じたのが、女性たちの意識は変わり始めているのに、組織のトップが変わっていないということでした。

たとえばある女性をこういうキャリアで育てたいから抜擢しましょうと言っても、「まだまだこのポストは無理、それよりもこっちの男性のほうがいいよ」と答えるんです。要するにどうしても課題やマイナス面から入ってしまう。実績を出すには気心の知れた男性がいい、女性には無理をさせられない、という古い発想です。

一番大事なのは「できるように育てること」であって、それこそが上の仕事。当時社長だった渡邉と、まずは役員の意識を変えていこうと決めました。

その一つとして、女性の幹部候補のメンタリングを役員に担当してもらいました。最初は私が試しにということで、ライン長を目指す女性2人を担当し、1年の間に5回ほど個別に面談しました。実際にやってみて、「ああ、これは役員にとっても勉強になるな」とピンときました。1年かけて女性のメンタリングをするとなると、相当準備して臨まなくてはいけません。女性にとっても経営の話をじかに聞ける貴重な機会になります。翌年から毎年5~10人程度、若手役員を中心にやってもらっています。

役員と女性社員とのラウンドテーブルの様子

女性に働きかけるだけでなく、役員自身の勉強になるというのは面白いですね。

武富:ほかにも、社内で「次世代女性リーダー塾」というものをやっているのですが、役員にも各チームの担当になってもらっています。

当事者として関わることで、女性に対する固定概念が崩れます。一人ひとりと向き合うと、みんなすごくいいものを持っていることがわかるんです。今は非常に前向きに変わって「この女性を引き上げたい」と話すと、「オレもそう思う」みたいな話がどんどん増えています。メンターもリーダー塾の担当も、最近は役員のほうからやらせてくれって言いますよ。

役員が変われば部長や支社長も変わっていく。今度は彼らが自分事化して、責任をもって一人ひとりをきちんと見て育てていこうというふうに連鎖していると思っています。

ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みの中で、女性に限らず、上司の部下に対する見方が変わってきたと思います。一人ひとりの個性や価値観を大事にすること、それを伸ばすためにはどうしたらいいかということを、上の人間が考えるようになる。当たり前のことですが、以前はそれがなかなかできていませんでした。女性のキャリアアップを一つのきっかけにして、人を生かす力を高める動きが会社全体に広がってきていると思います。

RPAを活用し働き方改革を推進し、人は価値創造に注力する

現在どの企業も働き方改革を推進していまが、その成功の鍵は、テクノロジーの活用ともいわれています。特に金融業界は積極的に取り入れている会社が多いという印象です。第一生命保険ではその点はいかがでしょうか。

武富:AIは保険金支払査定等の一部の業務で活用し始めていますが、まだまだこれからの段階です。いま考えていることとして、まず私共は膨大な保険の事務を抱えていますので、データの入力や検証、突合をRPAに任せ、人は価値創造に注力する。もう一つは、医療情報やマーケティングなどに関する膨大なデータをより有効に使い、商品開発やサービスに役立てることです。

当社は国内では第一生命、第一フロンティア生命、ネオファースト生命という3つの生命保険のブランドを展開しています。コンサルティングをしっかりやってほしい、安い保険料やエッジの効いた商品が欲しいといったお客様のニーズ等により迅速に応えていくためにブランドを分けているのですが、エッジの効いた商品企画や営業(ホールセラー)において女性が活躍しています。性別で分けることはないのでしょうが、新しいものを生み出したり、既存のものに囚われないのは、女性の強みではないかと思います。

テクノロジーを使って事務的な仕事を減らし、お客様に提供する商品やサービス、コンサルティングにもっと労力を費やしていく。そこに女性ならではの価値創造が組み合わされば、経営にとっても非常にプラスになります。第一生命グループにとっての働き方改革は、単に残業や業務量を減らすことが目的ではなく、いまやっている仕事を組み替えて時間をつくり、よりお客様のために向かっていくこと。その結果として生産性を上げていくことだと考えています。

海外グループ各社の実務担当者が一堂に集まるグローバル・マネジメント・カンファレンスを部門ごとに開催する

海外のグループ会社との交流にも力を入れているそうですね。

武富:当社のグループ会社がアメリカやオーストラリアにありますが、グローバルベースでの働き方改革はこうした国々のほうが進んでいますので、グループの中で共に学びあう機会をつくりました。互いに人財を派遣したり、海外グループ各社の実務責任者が一堂に集まるグローバル・マネジメント・カンファレンスを部門ごとに開催したりしています。

メガバンクや損保のような再編の経験がない我々にとって、海外展開を通してさまざまな違いや価値観の多様化を経験することは、大きなダイバーシティの一つです。一般的なM&Aではコストシナジーの追求を前面に打ち出しますが、我々は人財やノウハウのシナジーにより「共に学び共に成長する」ことを大事にしたいと考えています。

生命保険というのは国の歴史や文化、規制等が背景にあるので、世界中で同じ商品やサービスは成り立ちません。ローカルそれぞれのブランドを大事にしながら、今までとは違った価値観を経営に取り入れてグループ全体としてプラスにしていく。そういったグローバル・ダイバーシティが次のステップになると思っています。