IoT時代をリードする人材とは

総合IoT時代をリードする人材とは

IoT(モノのインターネット)時代に求められる人材について、これから数回にわたり、考察していく。まず、IoTとともにビジネス現場で流行語となっている「イノベーション」という言葉とともに考えていきたい。

モノのインターネットとよばれることが多いIoT(Internet of Things)と共に流行語のように登場するキーワードがイノベーションである。イノベーションはヨーゼフ・シュンペーター(Joseph Schumpeter)が1912年に提唱したものであるが、少し立ち止まって以下のことを振り返ってみよう。

  • シュンペーターが提唱したかったことはイノベーション?
  • イノベーションを遂行するとは?
  • 自社の中でイノベーションの意味や目的は共有されている?

流行に後れたくないといった焦りでイノベーションという言葉を未消化のまま使用すると、この言葉に振り回されて成果を得るどころかビジネスも人材育成もマイナスに働いてしまう可能性が出てくる。

図1:イノベーションに対する態度 

シュンペーターが生み出した言葉はイノベーション以外にも、新結合あるいは創造的破壊などがある。これらの言葉を使うならば、正しく理解しておく必要がある*1、2)。シュンペーターが大作「資本主義、社会主義、民主主義」の中で論じている資本主義経済の特性に関する議論は、経営戦略や技術戦略などを企画立案あるいは実施する上で極めて有効な内容となろう。そもそも、インターネット、IoT、AI(人工知能)あるいはレジャーを消費財とするビジネスなど想像もつかなかったであろう時代の著作である。それにもかかわらず、現代の資本主義経済の動的プロセスの特性を示し、その中でさまざまに発生する事象を予見する考え方が示されている。

さてこの段階で、IoTに関連する技術開発あるいはビジネスに関わる人材に関する最初の要件を示すことができる。

IoT時代の人材に関わる要件 その1

 経営や技術などの判断に使用する言葉について、その意味を科学的に検証あるいは確認でき、各種文脈の中で正しく活用できる能力と態度。

資本主義の発展プロセスを示す創造的破壊のモデル化

シュンペーターによる創造的破壊の概念は資本主義経済の成長プロセスの本質として示されたものである。資本主義経済は常に新陳代謝を繰り返し発展していくものであり、これを繰り返す力の源は人々の欲望であるとした。その欲望に応える推進力として5項目を挙げている。さらに、シュンペーターは資本主義経済発展のプロセスを推進する上で銀行などに対する信用は必須のものであるとしている。そこで、シュンペーターが提唱した5項目に、信用という項目を追加した6項目で作成した資本主義経済の発展プロセスモデルを図2に示す。

図2:資本主義経済成長プロセスのモデル

資本主義経済は経済構造の創造と破壊を繰り返す創造的破壊というプロセスによって成長する。このプロセスを推進する力として6つの項目がある。これら6項目をそろえていくことで、これまでなかった新しい経済構造を創造し推進していくことができる。その一方で、古くなった経済構造は淘汰(とうた)されていくことになる。

新しい経済構造が創造された後は、発展期、最盛期、衰退期をたどり、新しい経済構造もいつしか古い経済構造となる。資本主義経済の中にある企業はこうした資本主義経済のプロセスの荒波を自ら生み出す、あるいは襲い掛かる荒波を乗り切る力が必要である。ここで、IoTに関連する技術開発あるいはビジネスに関わる人材に関する2つ目の要件を示すことができる。

IoT時代の人材に関わる要件 その2

 資本主義経済発展のプロセスを背景に、その推進力である6項目を自社内部からの成長戦略の中に反映していくことができる。

IoTと資本主義経済成長プロセスにおける生産

創造的破壊という革命的な次元まで行かなくとも、新しい経済構造の中で企業経営に求められる改革や新システムの開発には、投資を拡大して発展期を加速し、最盛期に一番乗りして利益を上げ、深手を負わないように衰退期を乗り越えるまでの連続するプロセスをコントロールすることにある。

シュンペーターはこの連続するプロセスにおいては生産が軸となることから、生産段階の本質は既存の物と力という要素の結合、あるいは既存の物と力と労働といった要素の結合であると言っている。しかし、新たな製品の生産は、これまでとは異なる要素の結合となる。従って、生産物を変更し、生産方法を変更するならばその変更具合によって、次の2つの場合が考えられる。

  • ①古い結合から新たな結合に連続的に変化する。
  • ②非連続的に新たな結合が登場する。

このを新結合とよんでいる。これこそがイノベーションである。しかし、こうしたイノベーションは日常的に行われるようになるであろうとシュンペーターは言っている。創造的破壊と似ているが、新結合(イノベーション)を遂行する5項目を示している。

  1. 新しい品質の財貨の生産
  2. 新しい生産方式(商品の商業的取扱いに関する新しい方法を含む)
  3. 新しい販路の開拓
  4. 原料や半製品の新しい供給源の獲得
  5. 新しい組織の実現(独占的地位の確保か、相手の独占を打破するか)

このように、シュンペーターが定義するイノベーションは生産というプロセスの切り口からきているものである。現在では、生産に限定することなく組織内部からの革新あるいは革命のプロセスとしてイノベーションという言葉を使うようになっている。IoTは新結合を加速する環境でもあり、これまで以上にイノベーションが同時多発的に発生していくことになる。ここで、IoTに関連する技術開発あるいはビジネスに関わる人材に関する3つ目の要件を示すことができる。

IoT時代の人材に関わる要件 その3

 IoT空間上に分布もしくは分布させたエッジ、各種アプリケーション、ビッグデータなどを相互に接続して、圧倒的な力を持った新しいシステム価値を創造するプロセスを提案できる。

自社がイノベーションを起こせる環境をもっているかの調査

一般社団法人スキルマネージメント協会(SMA)では、個人を対象に「人材を育成する環境があるか」に関するアンケート調査を行なった。この調査は個人がSMAのWebサイト上のアンケート項目に直接答えたもので、一切、勤務先(会社)は関与していない。そのため、かなりの確度で回答者の本音が反映されているものと考えられる。以下に、このアンケートの中から、イノベーションを起こすことに関連する3つの調査結果を紹介する。

図3は、業務改善や新技術の開発などの提案に対する会社側の対応に関するものである。

図3:アンケート調査結果その1。設問「業務改善や新技術の開発などの提案に対する会社の対応についてお聞かせください」の回答結果

「前向きに検討してくれる」が30%、「ある程度前向きに検討してくれる」が41%であるが、残りの29%はネガティブな対応であると答えた。この状況は会社側に積極的にイノベーションを起こすモチベーションがなくても、資本主義経済の中での発展プロセスを考えると極めて危険な態度のように見える。

図4は、業務の仕組みや技術開発の試みに失敗した場合の会社側の対応について問うた結果である。

図4:アンケート調査結果その2。設問「業務の仕組みあるいは技術開発などへの試みが失敗した場合の会社の対応」の回答結果

「前向きに許容される」が65%で、残りはネガティブな対応との回答になっている。これについても35%の人たちがイノベーションあるいは新たな経済構造を生み出すことに関連する仕事とは程遠いところにいることが分かる。

図5は、会社で働くモチベーションについて聞いたものである。

図5:アンケート調査結果その3。設問「会社で働くモチベーションはどれですか(複数回答あり)」の回答結果

最も多いものが「仕事にやりがいがある」であり回答率は53.7%に達した。ただ、「仕事にモチベーションはない」と答えた割合も18.2%に及んだ。実に2割弱の人たちがモチベーションなく働いているのである。人材を廃棄してしまっているに等しい由々しき状況である。

こうしたネガティブな状況を会社側は把握していないであろう。会社が実施するアンケートにこうした生々しい回答は得られない可能性がある。詳細なアンケート結果についてはぜひSMAのWebサイトをご覧いただきたい。ここで、技術開発あるいはビジネスに関わる人材に関する4つ目の要件を示すことができる。

IoT時代の人材に関わる要件 その4

 資本主義経済を推進させる要件を満たす環境を用意し、その環境の中で人材が力を発揮できる仕組みを提供している。

イノベーション人材育成の考え方は日本の伝統の中にある!

ある領域に関して内側から改革を進めていくイノベーションは、それまでの領域を捨てて全く異なる領域を生み出すわけではない。人材の育成段階の構造を示した組込みスキル標準(ETSS)を図6図7に示す。ETSSは組込み技術を応用した製品を開発する技術、管理技術、要素技術、ビジネススキル、パーソナルスキルを、扱う製品に応じて定義できる仕組みを提供するものである。特に重要な点は、スキル評価の考え方である。

図6に示すように、守破離(しゅはり)という枠組みで階層化されている。これは日本の武道や茶道など伝統文化の中で、人材(門人)に期待する到達点を示したものである。

図6:ETSS(組込みスキル標準)のフレームワークは「守破離」の枠組みで階層化されている (クリックで拡大)

守はその流派に伝わる知識、礼儀作法そして型を修得し、指導を受けなくても一人でできるようになることを目指す。

破は守で修得したさまざまな項目を、意識せずに振る舞えるだけでなく、後進の指導もできるようになることを目指す。

離はその流派から離れた(卒業)後、自分自身の流派を興すことを目指す。

この離の人材を育成することこそ流派の指導者の役割である。まさに、イノベーションを起こせる人材を育成することを旨としているのであり、日本文化の中に根付いている画期的な思想でもある。残念ながらこの思想が薄れつつあるようにも思われる。

図7は具体的に個人のスキルを可視化するテーブルである。

図7:ETSS(組込みスキル標準)のフレームワークの個人のスキルを可視化するテーブル (クリックで拡大)

図7左側のシートには目的を達成するために必要となる知識や技術項目を詳細化して記述する。右側のシートにはその個人がもつ知識項目ごとのスキルレベルをマークする。これによって、個人ごとにスキルの分布を可視化することができる。

最後に

本稿では、シュンペーターの資本主義経済の成長プロセスの考え方を軸にIoT人材やETSSについて紹介した。特に資本主義経済の発展プロセスと創造的破壊についてはモデル化して示した。また、イノベーションについても明確化した。IoTが製造や流通に密接に関わる時代の中で、われわれにはこれまで以上に資本主義経済発展のプロセスを理解し、活用できる力が必要である。また、時代の先端を行くような人材を育成する企業の環境について、SMAの調査結果についても紹介した。この調査は今後も続けていくので、読者の皆さんにはぜひともご協力をいただきたいところである。本稿が皆さんの参考になれば幸いである。