総合ルールも働き手も変化が必要 関係者に聞く 働き方改革 さびつくルール(下)
イノベーションは働き方の多様性や人材の流動性を高めるが、既存の労働法制では対応しきれない部分もある。ルール整備をどう考えるか。専門家の立場から日本総合研究所の山田久主席研究員と、料理配達サービス「ウーバーイーツ」配達員のための支援会社を立ち上げた尾崎浩二さんに、それぞれ話を聞いた。
■日本総研の山田主席研究員「労働者保護へルール運用の工夫を」
――日本の労働ルールや働き方が変化に追いつかなくなっているのはなぜですか。
「労働者が一つの企業でキャリアを形成して極力定年まで勤め、会社は雇用を保障するという日本的な『就社型』の慣行が、色々な面で限界に達した。技術の革新、産業構造の変化、人口減が進むなか、女性・高齢者・外国人といった働き手の多様化などに対応するためには、就社型の働き方を唯一の標準とするのでは時代に合わなくなっている」
「例えば、専門性が高く自分で労働時間をコントロールできる働き手には、仕事の実態が既存制度に合わない。このため、一定の雇用流動性があることを前提に導入しようというのが、働く時間と給与のリンクを外す『高度プロフェッショナル(脱時間給)』制度だ。世界的に見て、この制度が日本に無かったのもバランスを欠く」
――どういうルールや労働環境を整えていく必要があるのでしょうか。
「変化に対し、既存の雇用ルールが適用できるところと難しいところがある。米国のようにルールを緩めて柔軟性を上げつつ、トラブルが起きれば司法判断によって時代に合わせようとする考え方がある。他方で欧州のように、ルールは厳格に作るが、適用除外も認め、それを労使で決める考え方もある。日本には欧州型が参考になる」
「日本企業は組織の力で競争してきたというのも事実。世の中の変化を考えると、大学などが実践的な教育内容を企業と連携して作っていく必要がある。入社後しばらくは複数の仕事を経験させたり、社内のコミュニケーションを緊密にしたりするなど日本的なやり方は実は競争力があり、意識的に残すべきだ」
――日本でも既存の労働ルールで守られない働き手が増えています。
「米国で『インディペンデントワーカー』という新しい概念を確立しようという動きがある。例えば、ウーバーテクノロジーズに対し、個人事業主である運転手には(本来は認められていない)団結権や団体交渉権などを認め、ウーバーには疑似的な社会保険料の負担を求める一方、最低賃金や労働時間規制は適用しないといった規制のミックスだ。事業者と労働者の中間形態を模索する提案といえる。既存の規制をどう組み合わせて運用していくかという議論の仕方は、働き方が多様になる時代の工夫として有用だ」
――外国人の受け入れはどう考えますか。
「イノベーティブで異なる発想のスキルが高い外国人の存在は重要だ。同時に人口減で労働力不足が深刻な地方経済は、外国人労働力を受け入れないと産業の維持は難しい。受け入れる環境を整えないといけない。先例として韓国の『雇用許可制度』がある。日本人の採用が難しいことを前提に、数年の滞在に限って受け入れる。その後、日本語や技能の習得などをした場合は受け入れ期間の延長や永住にも道を開くべきだろう」
(聞き手は田中浩司)
■ウーバーイーツ配達員の尾崎浩二さん「一緒に損保に入れる仕組み作りめざす」
――なぜウーバーイーツの配達員という仕事を選んだのですか。
「自由な働き方ができると思い、昨年10月から始めた。以前は放送局下請けのAD(アシスタントディレクター)をしていたが、仕事が不規則で体を壊し、辞めた。その後転職し警備員になったが、やはり長時間勤務。働きながら資格試験の勉強をする時間をとれる仕事はないかと思い、まず個人タクシーの運転手になろうかと思った。だが数年タクシー会社での運転手経験を積む必要があり、ハードルが高かった。昨秋始まったウーバーイーツは、専用アプリで簡単に応募でき、難しい資格要件もなかったため、始めてみた」
「集中して稼ぎたい時は週6日間、午前10時から午後11時まで、渋谷、恵比寿、代官山、六本木を中心に回り、月約30万円の収入を得ることもある。スマートフォンをオフラインにすれば配達に応じる義務はない。勉強の時間もとれる。自分に向いていると思った」
――個人事業主は自由ですが、福利厚生面で不安はありませんでしたか。
「いちばん困ったのは損害保険の加入だ。自転車か原付きで運ぶので、気をつけても事故の可能性はつきまとう。業務に不可欠だが、ウーバーからみれば我々は個人事業主なので保険を用意してもらえなかった。アプリの操作方法を教わった他は、デリバリー用のバッグを渡されただけ。自分で保険会社の窓口に赴き、ウーバーイーツの仕組みの説明から始めて『保険がないと働けない』と訴えたが、なかなか見つからず、結局今年2月にやっと入れる商品を代理店に紹介してもらった」
「同じように困っている配達員は多いと思い、その後ウーバーイーツ配達員のグループを交流サイト(SNS)で立ち上げた。今では200人以上のメンバーがいる。自分が入った保険の情報を流したら、さっそく30人が同じ保険に加入した。SNSのグループで我々は、配達業務に役立つ情報を交換したり、仕事の進捗を報告し合ったりしている。この経験がきっかけで、配達員が助け合える仕組みを自分の手で作りたいと思うようになった」
――具体的な動きはありますか。
「今年7月に会社を立ち上げた。配達員が自立するには、まず仕事の繁閑を平準化する必要がある。デリバリーの依頼が少なく稼げない時間帯に、別の仕事を回す仕組みを提供する。まずレンタル電動自転車の運営会社から仕事を受注した。都内を巡回するウーバーイーツ配達員が、レンタル自転車が置いてある複数の場所に、呼び出しを受けたら駆けつけバッテリー交換などの整備をする仕事だ」
「今後のプランとして考えているのは、配達員が一緒に損害保険に入れる仕組み作りだ。団体で入った方が掛け金も安くなるだろうし、私のように保険会社を探し回らないでもすむ。配達員が集まって情報交換できる待機所も設置したい」
――ウーバー側は、自社の配達員を組織化して別のビジネスに使ったりすることにどのような反応を示していますか。
「ウーバーは隙間時間に副業で働くライフスタイルが社会に定着することを推奨している。配達員が副業を持つことで経済的に自立できる仕組み作りは歓迎された。我々を雇用という形で守らない代わりに、配達員が他社の仕事を引き受けるのも、皆で団結するのも自由、ということだ」
――夢は何ですか。
「大企業で雇用されなくても、働き手がコミュニティーを作り、フラットな関係で自由に仕事に従事できる社会づくりに関わりたい。シェアエコノミーが定着すれば、日本の消費だけでなく働き方も変わる。現在、配達員の傍ら、新会社を軌道に乗せることにも注力しているので、仕事は忙しい。だが未来に備えて、配達員仲間と助け合いの仕組みやビジネスプランを考える毎日は楽しい」
(聞き手は編集委員 瀬川奈都子)

