総合人材育成担当者に聞く! 現場が変わる人事研修とは?
ともすれば理論偏重になりがちな企業研修。そんな中、自然林の中や研修地に行くまでの交通機関での集中ロープレなど、ユニークな取り組みで、研修参加者のパフォーマンスを劇的に変える取り組みをしている人材育成担当者がいる。サントリーグループのサンリーブ株式会社飲料営業推進部担当部長である松尾英理子氏だ。
「試行錯誤による成長」を鍵として人材育成に携わる彼女に、分解スキル反復演習型能力開発ブログラムの開発者である山口博氏がその取り組みについて話を聞いた。
誰にも能力向上させる素地はある
山口:今を去ること1年半前、私がトレーナーを務める日経ビジネス主催のリーダーシッププログラムに松尾さんに参加いただきました。90%が演習で構成される「分解スキル反復演習」によるリーダーシップスキルの強化演習です。松尾さんは、最前列中央のグループで、一際存在感を示し、演習をリードしてくださったのをよく覚えています。
松尾:私は普段、スーパーなど販売店で、プロモーションなどを提案する営業担当者の人材育成と活動推進を担っています。基本、直行直帰の営業スタイルなので、先輩の背中を見ながら学ぶことはできません。ですから、座学ではない、実践に即つながる能力開発プログラムを探し求めていたところだったんです。理論や理屈の解説は極力省き、通常の仕事の中ではウィークポイントが見えにくく我流になりやすいので、ウィークポイントを発見し改善できるようなプログラムを探していました。
日経ビジネスのセミナーで学んだ「分解スキル反復演習」は、理屈より実際にやって身に付けるプログラムで、弊社に合っていると直感が働きました。早速、上司に相談し、リーダー研修でこのプログラムを導入することにしたんです。
山口:検討、実施計画の策定、合意形成に、それぞれ数か月かかる企業や団体はざらにあります。年間計画を立てたら、その一年は、その計画どおり何も変更しないで実施するだけという会社も少なくありません。
しかし、松尾さんはわずか数か月後には、自社での展開を実現していました。その迅速さの原動力は何だったのでしょう?
松尾:私は大手百貨店勤務を経て、サントリーで国内外のマーケティング業務に従事してきました。意見を通そうとするあまり上司とぶつかったり、育児と仕事の両立のために奮闘するも、理解してもらえないと悩んだり、右往左往しながら進んできました。しかし、振り返ってみれば、うまくいったことよりも、うまくいかなった時に努力したことのほうが、自分を成長させてくれていると思えたんです。営業担当者と相対している中で、彼らも私と同様、思い通りにパフォーマンスが上げられない、キャリアが築けないと苦悩する姿を見て、突破口を一緒に見つける手伝いがしたかった。
「誰にも能力を向上させる素地はある」、「うまくいかない時こそ、スキル向上の絶好の機会だ」、「もがいているメンバーの役に立ちたい」・・・このような衝動が、原動力になっているように思います。
現場での試行錯誤経験が生きる
山口:営業活動をする中で、試行錯誤しながら進歩するモデルを実現したいのでしょうか。
松尾:確かにそういう側面は強いと思います。大学4年で師事した早稲田大学の加藤諦三教授の教えは、まさに試行錯誤による成長でした。間違ったら正す。うまくいったら、さらにうまくいくように工夫する。失敗も成功もたくさん経験し、その都度振り返って次に活かしていくこと。これが成長するためのキーなのだと思っています。
山口:いわば、失敗を是認して、失敗したことにではなく、それを是正したり問題解決したりすることに意義があるという考え方ですね。そのように考える人材開発担当者は多くありません。
松尾:私はこれまで人事部門や人材開発部門ではなく、さまざまな事業や現場でビジネス推進をしてきました。自らの現場での経験から、机上の空論、お仕着せの理論ではない、実践に即役立つプログラムこそ人材開発に効くはず、と考えるようになったんです。
聞き手の山口博氏(左)と松尾氏
スキル開発の共通用語が組織を変える
山口:松尾さんの手法は、実にダイナミックですね。私は1対1ロープレを反復して、コアスキルであるパーツ話法を定着させる手法をとりがちです。例えば、4つの質問による合意形成、5つの質問によるコーチング実践などです。
それを、松尾さんは、例えば、マネジャーと対象となるメンバー、メンバーに影響を与えるインフルエンサーの同僚2人といった、より現場の実践に近い設定での演習方式をつくりだしておられました。
松尾:いつもの仕事に近いシチュエーションでスキル訓練をしたほうが身につくはず、というごく普通の発想なのかもしれませんね。ロープレの相手役もできるだけたくさんのバリエーションを揃えて効果を高めたのも同じ発想です。
現場の私と、分解スキル反復演習の専門家とでダイアログしながら、プログラム開発することにも手ごたえを感じています。
山口:秋には、サントリー白州工場での分解スキル反復演習プログラムも実施させていただきます。東京から白州工場へ向かう特急あずさの車中で、演習をするという松尾さんのアイデアにも感銘を受けました。
松尾:研修プログラムを作る際に一番大事にしたいことは、メンバーのスキルを上げるだけでなく、そのスキルを定着させるプログラムになっているか、ということです。そのためには移動時間も有効に活用したいと思ったんです。また、日常とは異なる環境だからこそ、さらに高まるスキル、触発されて生まれるアイデアもあるはずです。異なる環境で演習する機会を生かさない手はありません。
分解スキル反復演習に参加したリーダーが、スキル向上のモチベーションをさらに高め、次々とパフォーマンスを高めています。同僚からも変わったといわれるリーダーも増えてきました。研修を受けたもの同士で学んだスキルが共通用語として語られるようにもなりました。現場が変わりつつあることを実感しています。
<対談を終えて>
能力開発にとっても最も大事なことは、自分自身が能力を高めたいと思うかどうかに尽きる。人それぞれが持つモチベーションファクターを梃に、分解スキル反復演習を大いに活用し、能力開発に役立てていただいた、象徴的な事例をつくってくださった松尾氏は、わが国ビジネスパーソンの人材開発をさらに牽引していくに違いない。
キーとなる個々のメンバーが変わると、組織そのものが変わる。制度や規程をいじるよりも、個々のメンバーの行動を変えることこそが、組織を変える力がある。その意味で、分解スキル反復演習は、組織を変える絶大なパワーを持つ。(モチベーションファクター株式会社代表取締役 山口 博)
●松尾英理子(まつお えりこ)サンリーブ株式会社 飲料営業推進部担当部長。大手百貨店を経て、サントリーホールディングス入社。マーケティング業務に従事した後、サンリーブ株式会社へ出向し現職。早稲田大学第一文学部社会学専攻卒業、法政大学大学院マーケティング専攻修了。