ただ言われたことをやって一生終わるか?それとも、会社を使い倒して結果的に評価されるか?

総合ただ言われたことをやって一生終わるか?それとも、会社を使い倒して結果的に評価されるか?

井上 1990年代になって変革者タイプの「リーダーシップ2.0」が登場した。しかし、変革や結果に対する過剰な圧力などによって、組織はギスギスし、メンタルも増えた。そこで、また昔のようなコミュニティのあり方が注目されているわけですが、Googleの研究などもすごく面白いですよね。

彼らがあれほどのテクノロジーを持った会社で徹底的に大量の人員とお金を投下して、どういうやり方が一番生産性が高いかを解き明かしてみたら、意外と日本企業が昔やっていたようなことが一番良い、みたいな結論になっている。

小杉 アメリカの先進的な企業や学者が分析をして、「やっぱりそうだよね」という話なんですが、その後、日本企業は、個人のレベルでも目標管理制度を入れて成果を取るようになりました。管理職も、管理職ではなくて、プレイングマネージャーになった。その中で職場がどんどん機能化し、結果的にコミュニティ意識を排除していったんですよね。すると、どういうことが起こるかというと、人間がやっていることとして思えなくなっている。部下にとって、上司は、あくまで「上司」であって人間じゃないんですよ。
昔は「人間」だったんです。運動会をやれば、上司が不格好に転んだり、思いのほか活躍したりしました。社員旅行に行けば、酔っぱらって裸踊りしたり、卓球が上手だったりした。あるいは、上司の家に行ってごちそうになると、実は奥さんに頭が上がらないこともわかった。そんな人間的な側面を見る機会がたくさんありました。しかし、今は、それがどんどん排除されたんですね。

特に21世紀に入ってから、日本企業は、機能的に、単一の会社として効率や成果をあげることを、アメリカ企業以上にやってしまった。だから職場がギスギスして、人間の営みではなくなり、コミュニティ意識が持てなくなって、悩みが増え、簡単に辞めるようになってしまった。むしろアメリカ以上に進んでしまったというのが、私の懸念なんですよね。
アメリカなどは、グーグルのような先進的なところだけでなくても、オフサイトミーティングを頻繁に開きます。それって半分は遊びじゃないの?という感じです。また、お互いに精神性を高め合うために、目隠しして手をつないでアクティビティをしたり、景色のいい海や湖の近くでさまざまなことをして関係性をつくったりするのがチームビルディングですよね。そこに、お金も時間もすごく投資している。一方、日本はそこを今まったくやっていない。

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井上 そうですよね。外資系企業などが、それこそサプライズバースデーパーティなどを結構やりますよね。

小杉 シリコンバレーも金曜日の夕方4時くらいになるとみんなでビアバスト(ビールパーティ)をやっていますからね。ビール飲んでCEOも来て話したりしている。日本の多くの企業では、CEOと社員が接する機会なんてないですよね。だから、「今自分のやっている仕事が組織の中でどんな意味があるのか?」とか「世の中とどうつながっているのか?」といったことが全然わからない。

井上 思い返せば、どこの会社でもやっていたようなこと、例えば、今更「京セラのコンパ(飲み会)」などが”すごい方法論”として注目されるのも、個人的には違和感があるんですよね。逆に言うと、普通の会社では、そういうのが無くなってしまったということなんでしょうけど。

小杉 ホンダの「ワイガヤ」とかね。そうしたことを排除していったのが、今の日本の現場だと思うんですよ。

井上 ところで、小杉さんが書かれた『起業家のように企業で働く』(クロスメディア・パブリッシング)と強引にこじつけるわけではないのですが、リーダーシップ3.0との関係について解説いただければ……。

小杉 『リーダーシップ3.0』は経営管理サイドから書いた話なんですよね。『起業家のように企業で働く』は、そこで働く一社員の視点から書いていて、結局は同じことを言っています。それは自律的に働くということです。せっかく会社に入って、特に大企業、ブランドのある会社であればなおのことアセットがすごいわけで、それを使わない手はないですよね。名前が知られた名刺だったらどこでも誰でも会ってくれるから、それを使って、自分のやりたいことをやっている人はいます。ただ言われたことをやって一生終わるのか? それとも、会社を使い倒して自分の好きなこと――結果的に会社に貢献しているので評価されるわけですが――をやるのか? そのどちらを選びますかということです。

井上 後者のように働くことができている人は、どのくらいの割合でいると考えていらっしゃいますか? 僕の印象ではかなり少ないのですが。

小杉 『2%のエース思考――あなたはいつまで「同期」の中に埋もれているのか?』(ワニブックス)という本に書きましたが、大企業だと、それができる人の割合は2%くらいしかいません。それぐらいだと、会社はほとんど活性化していないですよ。ただし、井上さんがいた頃のリクルートなら、60パーセントぐらいはいたのでは? 今はもっと少ないかもしれませんが。

井上 マインドセットとしては今もそうだと思いますが、少なくとも僕が在籍していた頃までのリクルートは、おそらく8割の社員がそうだったと思います。

小杉 言い古されたことですが、世の中でそういうメンタリティで働いた人は、自分で独立したり、他の会社に入ってもバリューが出せます。しかも、これからは、そういう働き方をしていかないとますます厳しいですよね。

井上 本当にそうですね。

小杉 そんなふうに考えている人は、残念ながらまだ少ないんですよ。

井上 独立志向の若手サラリーマンで、「会社のブランドとか資源を使わないで個人でどれだけのことができるか? と考えると、今の自分にはまだハードルが高い」と話している人がいたときに、小杉さんならどんなアドバイスをされますか。

小杉 もちろん、自分の市場価値を意識したり、会社のアセットがなくても独立して仕事ができればいいんですが、そこまで考える必要もないと思います。会社のブランドや金やネットワークを使って、どれだけ世の中にインパクトを与えるか? 新しいことができるか? と考えればいいだけの話で、その先はまだ要らないです。
会社としては、社員の考えたことが儲かる柱になりそうだったら、絶対に「やってみろ」という話になるわけで、これはリクルートのような会社でなくても、どこもそうです。「これはイケそうだな」ということを会社がみすみす放っておくわけはないんです。
そういうことをやれば好きなことができてしまう。実際どんな堅い会社でも、好きなようにやっている人って、いるんですよ。

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井上 そうですね。例えば、食品会社さんとか雑貨メーカーさんなどで、変わり種のヒット商品を開発している人たちも一緒だという気がします。たぶん彼らは、いかに売上をあげるか? というところからはスタートしていない。この対談の冒頭にお話しいただいた、まさしく正しい循環をつないでいると思います。

小杉 例えば、「ガリガリ君」アイスで有名な赤城乳業もそうでしょうね。とにかく社員が幸せに働いてもらいたいということで、社員に任せる。若い人が次々に提案する新商品を経営陣が首をひねりながらGoサインを出して、ナポリタン味のような失敗もあるけれど、コーンポタージュ味や、シチュー味のような大ヒットも生まれていますよね。

井上 ナポリタン味を出して失敗した社員さんも、会社の代表として、テレビに出て失敗談を語っていますよね。赤城乳業には、「新しい味をどんどんつくれ。古臭い概念を取っ払って、お客さんに喜んでもらえそうな味をつくれ」という価値観が会社のベースにあると思うんです。失敗した社員も責任は感じているわけで、そこで、「お前こんな損失を出してどうするんだ? クビだ」みたいに責めるのではなく、「帳尻は合わせなきゃいかんよ」みたいな期待をされれば、モチベーションは上がりますよね。結果、それがいい方向にいっている。

小杉 赤城乳業は、社員一人当たり一億数千万円を売っていますからね、非常に経営効率がいい。メーカーでは稀有な例です。銀行とか不動産は一人あたりの売上で億単位に行くけれど、メーカーではなかなかない。社内の関係性がいいのでしょう。環境がそうなっているのが素晴らしいですよね。