総合ダニエル・キム教授が提唱する「組織の成功循環モデル」は、個人が成功するための考え方にもなる。
井上 小杉さんの著書『元人事部長が教える「結果を出す人」の働きかた』(大和書房)を興味深く拝読したのですが、その冒頭でダニエル・キム教授(マサチューセッツ工科大学)の「組織の成功循環モデル」を紹介されていましたよね。
《組織の成功は「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」の4つの要素にどのような順に取り組むかで決まる》。そして、「関係の質」から取り組むのが「Good cycle」で、「結果の質」から取り組むのが「Bad cycle」だという話でした。
小杉さんは、この理論は組織の成功だけではなく、《一社員が成功するための考え方にもなる》と書かれていましたが、まずは、そのあたりからご説明いただいてよろしいでしょうか。
小杉 それはこういうことです。企業では結果を求められるので「では、どうやって結果を出すか?」という話を考えます。管理者なら、「どうやってチームで結果を出すか?」、社長なら、「どうやって会社で結果を出すか?」と考えるわけですが、そうすると循環はつながりません。結果に集中すると、特に結果が出ないときは「できた、できない」あるいは「どこが悪い、何を改善すべき」という話になって、疑心暗鬼になり守りの姿勢をとるようになり、関係の質は悪くなります。そして、関係の質が悪くなると思考停止に陥り、後ろ向きになって、「言われたことだけやればいい」と思うようになるから行動が委縮する。行動が起こらないと結局は成果につながらない。すると責任のなすり付けあいや自己防衛により、関係がさらに悪化する――というのが、多くの企業が実際に陥っている問題ですよね。

井上 すごく古くて新しいテーマですが、「職場活性」や「やりがいを持って働く」といったことなどが、今のお話とつながっているなと改めて思いました。
小杉 後で話にも出てくるであろう「リーダーシップ3.0」や「リーダーシップ4.0」に関わってくる話だと思うんですが、勇気を持って関係性の質を高めることからスタートすると、思考が前向きになって、みんなで意見を出すようになる。信頼関係も醸成されるので、安心して行動が取れる。すると、自発的に新しい挑戦もするようになる。みんなが行動をとれるようになると自ずと結果が出る――。あの本でそれを引用したのは、「個人のレベルでも一緒ですよ」ということが言いたかったのです。「目の前の、与えられた課題をいかに解くか?」ということをやってしまうと結果が出ない。そうではなく、「いかに周りとの関係性やネットワークを築くか?」というところからスタートすると、循環が回り出します。
井上 それはうなずける話ですね。そういったことも含めて、今回ぜひ、いくつか小杉さんに伺ってみたいことがあります。1つは、昔に比べて、より結果を求めに行ったときに、時代の流れもあって、社員が窮屈に感じる状況が蔓延しているように感じますが、実際に最近激しくなっているのでしょうか。
小杉 『リーダーシップ3.0』(祥伝社新書)の中にまさに書いてあるのですが、時代背景の変化、労働環境の変化、雇用関係の変化ということはどうしても起こりますよね。昔は新卒で入って、基本的には一生そこに骨をうずめるという覚悟で他に選択肢もなかった。会社を辞めるというのは裏切り者であり、敗者であり、逆に、基本的には長くやっていれば定年までいられて、後は年金で暮らせる。だから冷や飯を食わされても我慢したわけです。そういう上下関係のある時代に「やれ!」と言われたらやりますよね。
それが横並びになって、会社側も社員にいてもらう努力が必要だし、本人もエンプロイアビリティを高めるために自助努力をし続けないといけなくなった。自己投資しないと、今は雇用者が変わってしまいますからね。急に外資系になったり、ファンドが入ってきたりすると、その時点で評価されて、価値がないとされた人間は「要らないよ」と言われてしまう。
井上 良いか悪いかは置いておいて、今の話と逆になりますけれども、昔は厳しくも優しく「もう少しやれ!」という指導もあったし、わりとそれで頑張って結果を出していたところもあったのかなと思うのですが、小杉さんは、そのあたりはどう見ていらっしゃいますか?
小杉 井上さんがおっしゃられるように、昔は親方と徒弟のような関係性の中で、上の人がよくわかっていて、「俺も若い頃はそうだったよ」などと、手のひらの上で、厳しくもあり優しくもあり、弟子を育てていくようなことがありました。その手法はいろいろあると思うんですが、いずれにしても、どうすればいいかという正解を上の人間がわかっていたので、「育てる」ということが可能でした。
ところが、今は育てる方向もわからない。どうやって仕事をAI(ロボット)に奪われないようにしていいかもわからない。その前に、外国人に奪われてしまうかもしれない。この環境は誰もが初めてで、上の人間もわからないわけです。そうすると、命じること自体、自信がないんですよね。
井上 正解がわからなくなっていますからね。
小杉 そこで、いたずらに権威をふりかざしてマネジメントする人間には、部下がついてこない。部下は見透かしていますからね。「自分だってわかってないでしょ?」「そういうあんたは偉そうに言っているけどホントは自信がないでしょ?」と。その中では旧来のやり方が非常に機能しにくくなってしまっていますよね。
井上 かつて「日本的」と言っていたような、いわゆる三種の神器(終身雇用、年功序列、労使協調)みたいなものが崩れていき、ある意味、グローバルスタンダード的な働き方になってきた。しかし、一方では、「安心して働けることや仲間は大事だよね」という声もあります。

小杉 その通りですよね。特に日本は、基本的に新卒一括採用をしていて、かなり特殊ですよね。それがあるので、私が「リーダーシップ1.5(調整者型)」と呼んでいる時代(1970年代~80年代)に、三種の神器的なやり方が、世界のお手本とされました。例えば、トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマン・Jrの『エクセレント・カンパニー』や、エズラ・ヴォ―ゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』、ウィリアム・G・オオウチの『セオリーZ――日本に学び、日本を超える』といったベストセラーがありましたね。
井上 「リーダーシップ1.5」というのは、《組織全体に価値観と働く意味を与えること、雇用の安定を図るなど協調を促し、組織全体の一体感を醸成することにより組織を牽引する》タイプのリーダーですね。(*前掲『リーダーシップ3.0 ――カリスマから支援者へ』より)
小杉 そうです。で、1990年代になると、競争が激化する中で、「そんな生ぬるいことを言っていたら潰れてしまう」とばかりに、それまでのリーダーシップを否定するリーダーが出てきました。「リーダーシップ2.0(変革者型)」です(=組織の方向性を大胆に提示して、部門間の再編・競争・交流を促すことで組織を変革していくタイプのリーダー)。
しかし、今の時代でも、アメリカなどは、「やっぱりレイオフをするにしてもレイオフのされ方の問題があるだろう」と改めて言っているわけです。「ちゃんと情報共有して信頼関係をつくる」、「社内顧客として社員を扱う」といったこともそうですし、今や、辞めた人間を敵にするのではなくて、いかに味方として同じコミュニティの中に留めて一緒に発展するかを考える方が、お互いに得だということがわかってきた。逆に、日本企業の場合は、「辞めたやつは裏切り者だ」みたい風潮がある。あまりに運命共同体として強すぎたために、今でもそれが残ってしまっていたところがあります。