社員がイキイキと働いている会社はなぜ、「経営がガラス張り」で「評価がフェアに思える」のか?

総合社員がイキイキと働いている会社はなぜ、「経営がガラス張り」で「評価がフェアに思える」のか?

井上 前回、今の上司には内発的動機付けという、今までと違うコミュニケーション能力が求められているが、強権的な命令で部下を動かしてきた彼らはそのトレーニングをしてきていない――という指摘が前川君からあったけれども、上に立つ世代の人は、そのへんのことが本当にはわかっていないんだろうね。自分が当たり前のように上の言うことを聞いてきたから、部下も言うことを聞くものだと思っている。


前川 その点、僕たちが育ったリクルートなんて、入社一年目から「お前はどうしたいんだ?」って聞かれた。こんな話は普通の会社にはないよね。一般的には、「お前がどうしたいなんかどうでもいい。つべこべ言わずにこれをやれ!」と言われるわけで、それでは自立性や思考力といったことが育たない。だから、自分が上司になったときも、部下に「やれ!」と言ったら動くと思ってしまう。

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井上 ミドルやシニアクラスの社員の問題点ということで関連しつつも、話が少し飛ぶけれども、僕は企業から依頼を受けて外部から幹部社員や経営者を採用する手伝いをしていることもあって、彼らの甘さを感じる場面があるんだよね。命令1つで部下を動かせるというのは、その代わりに終身雇用や年功序列などを保証していたということだから、いざ自分が転職を考えるときにも安定とか身分保証が前提になっている人がいる。
もちろん、何の保証もなしに突撃はできないけれど、それなりの責任を負った中に自由や好待遇がある――という、企業と社員の関係性の捉え方がおかしくなっている気がする。例えば、転職の相談を受けていると、組織長クラスの中にも「こういう役割をくれ。年収はいくら以上を保証してほしい。しかも安定した地位を」ということをまず主張する人がいるからね。そんな都合の良い話が世の中にあるわけがないんだけれど。

前川 僕らも幹部層の人たちにキャリアカウンセリングをする中で、それは感じることがある。例えば、大企業のメーカーで年収700~800万円もらっていた課長さんが、「給料も上がらないし転職したい」と言ってすごく不満を溜めていた。しかし、転職に関する希望をうかがったら、「年収は100万円ダウンまででお願いします」と言う。そこで僕が、「正社員で年収700万円をもらおうとしたら、社会保障
も全部その上に乗っかってくるから、その3倍くらいは粗利に貢献しないといけないですよね?」と諭すように言ったら、「それ何の話ですか?」とキョトンとしていた。商売の基本をわかっていないんだよね。

井上 それはよくある話。僕も同じことを言ったことがある。待遇に不満を持っていたある管理職の方に、「現在、部の目標はどのようになっているのですか?」と尋ねたところ、「部員5人で年間の売上が2000万だ」と。単純に5で割ったら400万。それなのに、その人は年収800万くらいもらっていた。その時点で帳尻が合っていないよね。本当は会社に感謝しなければいけない話だと思う(苦笑)。
もっとも、その部署に対する会社の役割の与え方もあるから、その管理職の年収の高さ自体を否定するつもりはなくて、僕がそこで聞きたかったのは、「今の会社は本来、このようにすべきで、そうすればこのように事業も上手くいく/改善できると考えている。しかし、どう考えてもその策が妥当だと自分は確信しているが、どう提言しても経営者や会社に受け入れてもらえず、自分ではこういうことをしたくてもできない。それであれば、確信する自分の考えを取り入れてくれる可能性のある場、自分の力を発揮できる環境を探してほしい」というリクエストだった。そこまで考え尽くした上で言ってくれれば、僕もやりようがあるわけだけど、その人は、現状の問題点をまったく理解していなかった。日本の会社は、こういうミドル・シニア層の人はまだまだ多いと思う。

前川 多いよね。ただ、僕も自分で起業してみて初めてわかることがたくさんあった。だから、商売の基本が理解できていない方々とお会いしていて僕が思うのは、環境がそうさせているんだということ。例えば、1940年代に日本で働いている人たちの半分は、自営業と家族従事者で、サラリーマンは5割しかいなかった。ところが、今は9割がサラリーマンになっている。しかもGHQが原案を作った源泉徴収、年末調整という諸悪の根源があって、本来は国や自治体がやる税徴収を企業にやらせている。「税」というと反発が来るから「社会保険」っていう別名の項目まで作ってさらに上乗せして、とりっぱぐれのないように企業に徴収させている。だから、会社員は、その徴収額が、人によっては自分がもらっている手取りの半分くらいはあることをあまりわかっていない。
それに加えて、もはや現実的ではない年功序列幻想がまだ残っているから、若い時期はちょっと収入が少ないけど中高年になって徐々に上がっていくという、即時性でペイしない仕組みもマジックになっていて、余計に煙に巻かれてしまっている。

井上 煙に巻かれているよね。終身雇用的なことでいうと、ある面で後払い制になっているから、貢献と自分の収入とのバランスがとれていない。そこでみんなは、社歴とポジションみたいなところに貼りついているけれど、それはある意味、幻想だからね。

前川 ベンチャーとか中小オーナー経営企業は違うと思うけれど、中堅規模以上の企業になると、役員や経営者もサラリーマンからなっていく。そういう意味では、彼らにも酷で、今まで経営者としてのトレーニングをしてきていないのに、経営ボードに入ったとたんに、それを考えなければいけなくなるわけだから。

井上 役員研修で初めて財務とかを勉強したりね。もっとも、我々も偉そうなことを言っているけれど、リクルートにずっといたら社内の中のことでも、たぶんわからないことが多かったと思う。

前川 そうだね(笑)。いざ起業してみて、守ってくれる会社の看板や盾がなくなり、体を張って必死に商売をして社員を守ってきたからこそ学べたことが多いよね。ところで、今、うちの会社は、中小企業の支援をさせてもらうようになってきているんだけど、社員がイキイキイキイキと、当事者意識を持って、日々の仕事の手ごたえと満足度を感じる会社には、ある特徴がある。それは、経営がガラス張りであること。財務も社長の頭の中も全部オープンにしていて、その中で「あなたの貢献はいくらで、給料はいくらになります」と説明されるから、安いとか低いとかの文句をつけようがない。

井上 ある面、企業再生をやるときに上手くやられている方の共通点はそこだね。個人の収入や人事をそこまでオープンにやっている会社はないとしても、会社全体の財務状況とか、整合性みたいなものをまず開示するケースも多い。

前川 うちも、小さい会社だけど、毎月、財務レビューとして説明している。エクセルでシンプルな一枚の表にして、「今月の売上はこれ、外注費はこれ、販管費はこれ、どれだけの利益が出て、自分のお給料はここから出るよ」と。一般の会社の場合は、経営陣が社員にそこまで説明しないから、多くの中高年の人がわかっていないに状態になってしまう。うちでは、財務レビューの説明が、社員と僕にとっての生きる力の鍛錬だと思っている。

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井上 ついでに聞くと、社員がイキイキと働いている会社の特徴として、他に思い浮かぶことはある?

前川 あとはフェアだよね。評価がフェアだと思う。人事評価というのは、受ける側にとってはどこまでいっても不公平感があるけれど、一歩引いて自分の会社を見たときに、とてもフェアだと思えることが大事だと思う。「男性だから、女性だから、外国人だから……」といったことは評価には何も関係がない。本当に意欲と能力がある人が評価されて抜擢されていくことが徹底しているよね。
以前、インタビューさせていただいて感動したんだけれど、例えば、中小企業庁長官賞を受賞した専門商社がある。そこの社長は僕から見てもすごくフェアな方だった。
同社は、もともと上場企業の子会社だったのが従業員も一緒になって株式買収して独立した会社で、生涯雇用と実力主義という2つの面から社員を見ている。終身雇用ではなくて、生涯雇用。その代わりに実力主義は徹底するということ。だから、高い価値を発揮した社員に対しては公平なペイがある従って年功序列ではない。頑張った人はどんどん報われていくわけだよね。
その一方で、「今は仕事のペースを抑えて人生を楽しむ」という個人の判断も尊重して、その分給料は下がるけれどクビは切らないというようなところもあって、全てにフェアだった。社員がイキイキ満足に働くためには、こんなふうに、職場に働きがいがあって、評価がフェアであることが大きい気がする。