総合企業の研究開発に「女性が少なすぎる」大問題 理系の女性が少ないだけが理由ではない
ネット通販の進展で日常生活が便利になるなか、そのあおりを受ける形で長時間労働が問題化しているのが運送業界。
産業別月間実労働時間数(厚生労働省)において、運送業界は建設業界と並ぶ、長時間労働の典型的な業界です。
女性比率が低く、働き方を改善すべき職種
取材すると運送業界の経営者たちから「仕事の引き合いもある。だけど人がいないのだよ」と嘆く声をたくさん聞きます。業界大手企業でも荷物量の増加に対応できず配送の遅延が起きるくらいの人手不足。このままでは近い将来に物が運べないという世の中になるかもしれない……と不安を口にする経営者がいるくらい状況は深刻なのです。
日本全体の「働き方改革」を推進する政府も、ついに腰を上げました。省庁横断の検討会を新設して、過酷な長時間労働の改善策を検討し始めたのです。
ちなみに運送業の運転手は残業規制の例外職種となっているため、時間外の労働時間の上限がありません。この点の改正も検討されていますが、それと並行して、重要テーマとなっているのが「女性の活躍機会を増やす」こと。現在、運送業界の運転手=ドライバーに占める女性の割合は2%程度にとどまっており、子どもを抱えた女性も働きやすくなるよう、事業所内保育所の整備や短距離ドライバーの採用促進のための具体策を盛り込むとのこと。確かに、いい取り組みであることは間違いありません。でも、筆者がこの事実を知ったときに感じたのは、
《すでに女性が活躍していて当たり前のような気がするのに、運送業のドライバーと同様、女性比率が低く、働き方を改善すべき職種がいくつもある》
ということ。この連載でたびたび取り上げている管理職や営業職などが、その代表です。でも、筆者が特に注目しているのが「研究開発職」です。
研究開発とは、研究によって得た知識なり技術を商品として開発する仕事で、主に理系職で、理工系の学部出身(大学院卒も比率が高い)の人が就くことの多い職種。基礎研究的でやや内向的な印象も持たれがちですが、英語でR&D(Research & Development)ということを考えると、印象が変わってきます。会社の“将来の飯の種”を創造するため、営業やマーケティングとかかわる外交的な役割を担うこともあります。
たとえば、食品メーカーの研究開発職として勤務すれば、営業と販売先の店舗で市場調査や消費者の声を聞いて、新たな商品開発に活用するのも当たり前。黙々と研究開発に勤しむこともある大学の研究室に残るのとでは大きな違いがあります。そんな研究開発の仕事で女性の数が少ないのです。
日本における女性研究者は約10万人。その数は研究者全体の約1割と少ないですが、民間企業に勤務しているのは、そのうち3割しかいません。
うち会社勤務 男性:女性=60万:3万
会社における研究開発職は男女比で20倍ということになります。このように、民間企業における研究開発職の女性比率は甚だ低い状態なのです。
筆者は営業職や管理職はストレスも大きく、出産・育児・介護等で休職後に復職するには仕事のブランクが大きな障害となるため困難さが伴う。それと比べて研究開発は女性には働きやすい職業と思い込んでいました。ところが、そうでもないようです。
メディプラス研究所が発表した「女性のストレスオフな職業や働き方」によると研究開発職はストレスが高い職業の上位にランクインしています。筆者の考えはちょっと違っていたようです。
ポスドク問題と呼ばれて
理系の女子学生で会社の研究開発分野で仕事をすることを望む人は少ないようです。ちなみに理系学生の男女比はだいたい2:1。
そもそも、大学に残って研究を続けるのは大変。博士号取得者が量産されて、就職の受け皿となる大学や公的研究機関のポストを増やさなかったため、1万人以上のドクター(博士号取得者)でも正規の職につけていない状況。ポスドク問題と呼ばれ、研究開発職の就職に苦労していることを示す言葉として有名になりました。
大学の研究室に残って研究を続けるのは簡単ではないのです。ならば、民間企業への就職が課題になるわけですが、それも厳しいのが実情のようです。就職したくても内定が出ず、20社受けても内定が出ない。ついには就職をあきらめたという話も珍しいケースではありません。
専門により違いますが、研究職1人の募集に対して2000人以上の応募がある分野もあるくらい。それだけに今の就職環境が売り手市場にもかかわらず、理系女子の研究開発職への道のりは困難です。さらに運よく就職できても長続きしないケースも多いようです。筆者の取材では、狭き門を通過して民間企業で研究開発職に就いた理系女子が入社間もなく辞めるケースは少なくありません。その理由はどこにあるのでしょうか?
理系女子の就職には大きく3つのパターンがあります。
パターン2:理系を生かした就職
パターン3:こだわらない就職(文系転向含む)
そのなかで、本記事が題材としているのはパターン1。たとえば水産に関する研究室に所属している場合、水産に関する研究を行うバイオ企業や水産関係の食品メーカーの研究室に就職すること。そもそも、求人数も少なく、競争の激しい就職活動ですから、昨今の人手不足状況はあまり関係ありません。もし、パターン1を理系女子が選ぶと入社前、入社後に「不利な状況」になり、希望がなかなかかなわないこともあるでしょう。
選考に感じた「ガラスの天井」
たとえば、研究職希望で最終面接まで何回もいきながら内定に至らなかった理系女子のSさん。女性であることが障害になっていたと感じたようです。その理由は最終面接で女性がいたことがあっても、内定が出た学生が男性ばかりであったから。「最後に誰を選ぶかとなると、女性を選ぶことにためらうのかもしれませんね」と肩を落として話してくれました。面接等ではわからない、社内における選考プロセスで男性優位な判断があったに違いない……とSさんは研究開発職の採用には“ガラスの天井”があると感じているようです。
このガラスの天井を生み出す理由はどこにあるのか? 企業は研究開発職の人が長く勤務して同じ研究に従事することで成果が出ると考える傾向があるようです。ゆえに人事異動どころか、仕事自体の変更が長期間ないのも当たり前。なかには20年以上も同じ研究に携わることも普通にあるといいます。
他の職種に比べても、明らかに長期間の勤務を期待されています。なので、結婚・出産等で仕事にブランクができたり退職したりする可能性が低い男子を採用したい。そのため理系女子の選考にバイアスがかかって狭き門になってしまうのではないでしょうか。
さらに運よく企業の研究開発職になれても、職場環境は男性社会で住み心地がよくないかもしれません。筆者が取材したところ、セクハラ、パワハラが厳しい時代ですから、相手を傷つけるような同僚の接し方や上司のマネジメントは減少していますが、仕事を1人に任せてくれない……など不平等な扱いを受けていると感じている研究開発職女性が何人もいました。
このままの環境では女性の活躍は相当に難しいようにみえますが、どのように状況を変えていけばいいのでしょうか? こうした不平等な扱いを解消する方法としてアファーマティブアクションと呼ばれる「積極的格差是正措置」があります。不公平な扱いを解消するため、企業に優先入社など雇用義務づけを行うことです。海外では賛否両論がありながらも格差是正の推進のため各国で導入がされて、米国では入学者選抜時の格差是正措置により多様な学生の構成で学習効果の向上という効果をもたらすなど、それなりに成果を出しています。
こうした、やや「力業」の取り組みで研究職の女性比率を上げることで、女性の活躍を推進することを検討する必要があるかもしれません。
さて、女性の活躍機会が広がる業種も出てきていますが、それで十分とは思いません。職種などで個別に、細かい打ち手を持たないと、うっかりガラスの天井に阻まれる可能性がどこまでも残ることは意識しておくべきでしょう。