「地方よりも、むしろ東京が疲弊している」――地域おこしベンチャー「459」の挑戦

総合「地方よりも、むしろ東京が疲弊している」――地域おこしベンチャー「459」の挑戦

高齢化や過疎化、歯止めがかからない人口流出をどうにかするため、地域おこし、地方活性化といったキーワードが叫ばれて久しい。こうした課題に向き合うベンチャー企業がある。今回は四国や瀬戸内海の島々の地域おこしに奮闘する地域活性ベンチャー、459の取り組みを紹介しよう。

代表の真鍋邦大氏は生まれも育ちも高松だが、大学進学をきっかけに上京し、卒業後はそのまま東京に残って外資系金融機関に就職した。新卒当時は地域おこしどころか、地元に戻る気もまったくなかったという。

転機は2008年だった。当時からメディアでは「地方はダメだ、地方は疲弊している」などと散々言われており、東京にいるころは真鍋氏もそれを疑わなかった。しかし、半年ほど米国に滞在することになり、渡米までの間、東京の家を引き払って1か月ほど実家で過ごすうちに、東京より地方のほうがよほど元気なことに気づく。

「東京では毎日、通勤で満員電車に詰め込まれ、表情もしかめっ面ばかり。マクロに見れば、確かに地方は疲弊しているかもしれませんが、一人ひとりを見てみれば東京の人たちのほうがよほど疲弊していると思ったのです」(真鍋氏)

一方、地方の人たちは日常が当たり前になっていて、地元の良さに気付いていない。ならば、都会と田舎の両方を知る自分が地域の良いところを発信することで、地域の人たちがその土地に誇りを持てるようにできないか、と考えたのが始まりだったという。

震災を期に、パラダイムシフトが起こる

photo459代表の真鍋邦大氏

とはいえ、それをすぐに行動に移したわけではなかった。予定通り渡米し、帰国してからもしばらく東京で働いていたが、間もなくして東日本大震災が発生した。

「東日本大震災は太平洋戦争以来の有事といっても過言ではなく、震災を境にパラダイムシフトが起きると直感しました。パラダイムシフトにはさまざまな定義がありますが、私は『優先順位の変更』であると考えており、従来の“貨幣”から“安全・安心”に対する価値観へ、優先順位が変わるに違いないと思ったのです」(真鍋氏)

価値観が変わったからと言って、すぐに行動に移す人は少ないかもしれない。しかし例えば、子どもが就学するタイミング、定年退職のタイミング、といった人生の節目節目で移住を検討するなど、数年から十数年の単位で見れば、必ず地方志向が高まると真鍋氏は考えた。

そのような中で課題先進地域とも言われる、自分が生まれ育った四国を舞台に、新しいライフスタイルやビジネススタイルを発信していこうと考え、株式会社459を設立するに至ったという。

小豆島を拠点に活動、一体なぜ?

真鍋氏は事業を始めるにあたって、地元の高松ではなく、あえて小豆島を拠点とした。なぜだろうか。

「取り組みを始めるにあたって、何か象徴的な存在を軸にするのが分かりやすいと考えました。香川と言えば“うどん”が真っ先に思い浮かぶと思いますが、既に『うどん県』などのPRが行われています。では、次に代表的なものを考えると瀬戸内海の島々であり、その中でも象徴的存在と言えるのが小豆島でした」(真鍋氏)

photo小豆島は数々の名産と社会問題という二面性を持った地域だ

小豆島はオリーブで有名だが、素麺や醤油などほかにもさまざまな名産があるが、一部の人にしか知られていないという。また、小豆島は香川県のなかでも高齢化や少子化などが進んでいる。有力なコンテンツを持ちながら、社会問題も抱える――このような二面性を持った地域ということで、拠点にふさわしいと真鍋氏は考えたそうだ。

459では、島のさまざまな食材を使ったお菓子を作るとともに、それらにまつわる物語を交えて販売する「ポン菓子」や、地元の生産者と産品が描かれた12枚のカードから野菜や果物、加工品などお好みの商品を選んで申し込むと、旬の時期に地元の生産者から直接送られてくる「小豆島のギフト」といった事業を手がけている。地元経済に関する活動であれば、分野を問わず積極的に手掛けていく姿勢だ。

photo地元の生産者と産品が描かれたカードの中から商品を選んで申し込む「小豆島のギフト」

2014年5月からは新たに「四国食べる通信」を始めた。一言でいうと“食べる情報誌”。隔月で四国の食材と情報誌を一緒にして消費者に届ける。創刊号では高知のカツオと有機しょうが、天日塩が同梱された。

この「四国食べる通信」の狙いを真鍋氏は次のように語る。

「別に1万部を売る必要はなく、1000部でいいと思っています。仮に1万部受注したとしても、1万個の作物を作れるわけでもなければ、1万匹の魚を釣れるわけでもない。地場の食材は大量生産・大量消費のモデルではないのです。その代わり、1000人の“仲間”を作る――つまり、本当の意味で生産者と消費者をつなぎたいと思っています」

photo四国の食材と情報誌を一緒に届ける「四国食べる通信」

毎日SNSで情報を発信、“メディアになる”ことを目指す

また459では、日常的に生産者と消費者を近づけるために、積極的にSNSを活用して情報発信を進めている。情報の発信にはいろいろな方法がある。しかし、メディアに“取り上げられる”ことはコントロールできないし、メディアを“つくる”のも労力や費用がかかるので難しい。

そこで、真鍋氏は3つ目の選択肢として“メディアになる”ことを選んだ。現代はSNSが発達しており、自ら情報を発信するのも楽に行える。自分が本当に良いと思えるものを直接伝えるとともに、「あいつがやることならば、面白いに違いない」と思ってもらえるように個人のブランディングも図っている。そのためには、毎日欠かさずに情報発信することが重要だと真鍋氏は語る。

「新聞は毎日届きますし、テレビも電源を入れたらいつでも流れているように、私も毎日SNSで、会社の取り組みや思いについて投稿するようにしています。そうすることで、逆に『真鍋にこの情報を教えてあげよう』『真鍋に相談してみよう』と情報が入ることにもつながっています。情報を発信する人のところに、情報が集まってくるのだと思います」(真鍋氏)

そんな信条を持っている真鍋氏だが、とはいえ459はメディアで報道されることも多い。それはきっと“自分がメディアになる”べく常に情報発信しているからこそ、メディアの目にも留まるのだろう。

photo459のFacebookページ。毎日情報を発信しているという

田舎で最も必要なのは“パワーポイント”ではなく“パワー”

459はこれからどのように展開していくのか。今後の抱負について聞くと「田舎で最も必要ないものは“パワーポイント”であり、最も必要なものは“パワー”」という言葉が返ってきた。

「人は論理では決して動かず、どれだけ思いを伝えられるかにすべてがかかっている。特に地方に行けば行くほどその傾向は顕著だという。企画書などは一切作らず、思いついたらまずやってみる、そしてやりながら形にしていく――そんなスタイルで今までもやってきたし、これからも続けていきたい。5年後、10年後うんぬんではなく、目にしたこと、肌で感じたことを大切にして、目の前のことを1つずつ形にしていきたいと思います」と真鍋氏は力強く語ってくれた。(小槻博文)