人事部門こそが第4次産業革命の成功の鍵を握る

総合人事部門こそが第4次産業革命の成功の鍵を握る

ビックデータや人工知能、IoTというテクノロジーの進化はまさに産業革命である。雇用の在り方や産業構造の大きな転換を迎えつつある中、日本企業はこうした「変革」への対応を迫られる。そのとき、人事部門はどう対応していかなければならないのか?

「第4次産業革命」を掲げ、その舵取りの一端を担う経済産業省 産業人材政策室長・伊藤禎則参事官をお招きし、企業活動や雇用の未来予測や人事部門の重要性についてお話を伺った。

産業が発展するために旧来の日本型雇用モデルは変化していかなければならない

寺澤国力を高めるためには産業が発展しなければなりません。これから産業が発展するためには日本企業が抱える問題・課題はどこにあるのでしょうか?

伊藤2015年、経産省の人材政策の責任者として着任しました。まず、旧来の日本型雇用モデルを変えていかなければならないと思い、取り組みをはじめました。あくまでも旧来モデルを進化させることであって、単純にアメリカ型とかヨーロッパ型に変えればいいという議論ではありません。

2015年着任前までは政府の成長戦略を担当してきましたが、成長戦略の大きな柱が第4次産業革命への対応で、こういう産業構造変化の中で旧来の日本型雇用モデルのいくつかの仕組みがサスティナブルでなくなっていると感じていました。その理由は3つあると考えます。

一つ目は、新卒一括採用から終身(年功長期)雇用に至るまでの「タコツボ/縦割り型モデル」の限界です。大学を卒業して会社に就社し、定年まで勤め上げるというモデルにはメリットもたくさんあったのですが、転職できにくい結果となっています。最近の電機メーカーを中心とした相次ぐ大型経営破綻で、最後の最後で何万人もリストラされると、社会的損失があまりにも大きい。加えて、流動性が低く企業でも国全体でも人材の最適配置が困難です。

二つ目は、「職務の無限定性」と「長時間労働」の問題です。日本型雇用の実態として、仕事は会社や上司から言われたことが全てであって、職務の範囲が明確ではありませんでした。これは国際的には必ずしも一般的ではありません。ある程度職務や役割を明確化していくことが、国際的な雇用モデルの趨勢です。職務が無限定であり、チームで取り組むという日本型雇用モデルの特性が相まると、誰かが残っているから帰れない、仕事が残っているから手伝うといった、長時間労働に繋がりやすい慣行になります。明らかに世の中の流れとはミスマッチとなっています。育児・出産・介護といった制約を持っている方が増える中で、旧来の長時間労働を前提とした仕事のスタイルというのはサスティナブルではなくなってきています。職務、労働時間あたりの「成果」をはっきりさせていく必要があります。

三つ目は、「社内完結型人材育成システムの限界」です。教育といえばOJTと同義で使われてきました。古き良き時代の特徴として、会社の中の色々なスキルが先輩から後輩へと伝承されてきました。しかし、ITを中心として産業構造の変化のスピードが速くなってくると、社内で教えきれなくなっています。あのトヨタ自動車でさえ、OJTをうまく活用しつつも、人工知能や自動運転の新しい分野においては、社内のみでは育成に必要な人材や知見が賄いきれません。そこで、アメリカにトヨタリサーチインスティテュートを立ち上げ、アメリカにいる専門家を雇用する動きがあります。そうした背景から、日本で、社内に完結しない人材育成システムを作らなければなりません。

この三つの論点は、元々日本企業が抱えていた問題で、ここ数年の中で顕在化してきました。日本が直面している産業構造の転換に対応して、旧来の日本型雇用モデルを進化させることと同時に、連立方程式として人口減少と高齢化といった問題を解かなければなりません。そうした背景から、政府は「働き方改革」に取り組んでいます。長時間労働問題を解消し、今まで主であった男性労働者以外の働き手、女性や、介護で離職された方、一部の領域においては外国の方々にも働いてもらわないと、日本の労働の現場は廻っていきません。

第4次産業革命と雇用への影響とは

寺澤働き方改革は第4次産業革命への対応のために重要な政策とおっしゃっていますが、第4次産業革命について具体的に教えてください

伊藤第4次産業革命とは、テクノロジーの進化による産業構造・社会構造の変革です。それも今までと違って比較にならないくらい速いです。圧倒的に大きいのは、データの処理速度が上がり、扱うデータの量が増加したことです。リアルタイムで全量データを処理することができるようになりました。よって、ビックデータ、人工知能、IoTといった技術が発達し、それらが互いに組み合わされることによって、ビジネス現場で大きな変革が起きました。

リアルタイムでデータ処理することによって新しいサービスが生まれています。例えば、Uber(ウーバー)、Airbnb(エアビーアンドビー)などは、眠っているデータ資産を消費者一人ひとりのニーズに結び付けて、具体的なビジネスを展開しています。また、センサーであらゆるデータを取得し分析結果をビジネスに活かすことは、製造業のみならず、あらゆる分野で日常化してきています。

それらがインターネットでつながっていくため、日本では「第4次産業革命」という呼び名だけでなく、「ソサエティ5.0」、「コネクテッドインダストリー」などとも呼ばれています。
第4次産業革命は、色々な要素が「つながる」ことによって産業・社会・国民生活が変わっていくことなのです。

寺澤そういったテクノロジーの進化によって雇用が奪われるといわれています。実際雇用への影響はどうなるのでしょうか?

伊藤2013年、オックスフォードのオズボーン教授は、アメリカにおける雇用の47%の仕事がAIによって代替されるというレポートを発表しました。それを受けて、2016年4月に、経済産業省の産業構造審議会において、どういう仕事が減って、どういう仕事が増えるかを詳細に分析しました。製造分野や調達分野では、サプライチェーンの自動化や効率化によって雇用は減ります。また、バックオフィス、経理や一部の人事の現業分野、コールセンター、銀行窓口といった定型化された分野も減ります。

一方で、雇用が増える分野もありました。ハイスキルなマーケティングやAIを活用して商品企画等ができる人材は増えるという予測です。

今まで、ものづくりやサービス提供するために大量生産で行われてきましたが、これからはリアルタイムで全量データを処理することができるため、カスタマイズ化でき、それを個々の消費者のニーズに合わせて、商品開発、サービス開発していくことが求められるからです。また、最後まで残るヒューマンイントラクション(人と人とのふれあい)は、今まで以上に重要になります。オズボーン教授は、半分近くの仕事がAIに代替されると言っていましたが、我々の分析結果では実際にはそうはならないと考えています。

また、「人工知能」VS「人間」という構図ではなく、「AIを使って付加価値を高めることができる人間」VS「AIを使うことができない人間」という対立軸が起きる可能性があるので、その可能性(格差)を最小化しなければならないという問題意識を持っています。仕事の付加価値を提供する人をピラミッド構造で分けています。ハイエンドゾーン(高付加価値提供者)~ミドルエンドゾーン(中付加価値提供者)~ボリュームエンドゾーン(低付加価値提供者)と分けていますが、今後それらの全体をどう底上げしていくか求められます。底上げしなければ、ボリュームゾーンの一部の仕事は人工知能に代替されることは事実で、ミドルゾーンは低付加価値化されてしまうと、やはりいずれ人工知能に代替されます。ハイエンドゾーンに近づけるためにも、人材育成と教育の充実がこれまで以上に重要になっていきます。

日本の高い技術力がアドバンテージに。一方で旧来型雇用モデルが招く弊害も

寺澤第4次産業革命は日本企業にとってチャンスなのでしょうか?チャンスにするためにどうしなければならないのでしょうか?

伊藤産業構造審議会の新産業構造部会という審議会で、2年間にわたって第4次産業革命のあらゆる事象を徹底的に研究してきました。かなり元気の出るビジョンが描けていると思いますので、ぜひご覧ください。

まずはチャンスの面からお話します。ご存知の通り、サイバー(ネット上)のバーチャルデータを巡る競争では圧倒的に日本企業は負けました。グーグル、アマゾンなどのプラットフォーマ―に利益の源泉を持っていかれました。しかし、製造業におけるセンサーから取得したデータ、自動車産業では走行データ、医療・高齢者介護業界では様々な人の営みにおける「リアルデータ」を活用してビジネスに役立てることには一日の長があります。特に、ものづくりにおける高い技術力と相まって考えると、アドバンテージはまだまだあります。

また、日本が置かれている状況にチャンスがあります。短期的には経済成長への最大の足かせである人手不足、中長期的には日本の人口減少という問題があります。そうした中では、日本の場合、第4次産業革命によって雇用を奪っていくというリスクは、相対的には少ないとみています。むしろ、日本は第4次産業革命によって生産性を高めて雇用不足を解消していかなければならないというニーズの方が強いので、国際的に言われている第4次産業革命が与える影響を日本流にソフトランディングできるのではないかと思っています。

一方、ピンチの面もあります。第4次産業革命によって、ある分野と別の分野の技術を融合させて新しい技術を産み出し、ビジネスのやり方を変える企業が勝ちます。UberやAirbnb、あるいはアマゾンといった会社では、異なる分野の技術、人を組み合わせることで生まれたサービスが、ビジネスのやり方を変え成功しています。そうした中、日本型雇用システムの特徴である「タコツボ/縦割り型」の流動性の低いシステムは、「異なるもの同士を組み合わせる」ことは非常に不得手です。第4次産業革命で新しい付加価値を産み出そうとしたときに、必ずしも適していない面が目に付きます。そういった意味からも旧来の日本型雇用モデルを変えていかなければならない理由もここにもあります。