「同一労働同一賃金は誤り」――元アサヒ社員が引き出す「眠れる主婦パワー」

総合「同一労働同一賃金は誤り」――元アサヒ社員が引き出す「眠れる主婦パワー」

時間でなく「業務」に報酬を払う

埋もれた主婦の力を掘り起こし、出産・育児と生産性の高い働き方を両立――。小売店の売り場改善や販促支援を手掛けるソフトブレーン・フィールドは、独自のビジネスモデルで女性の活躍を後押ししています。木名瀬博社長に狙いなどを聞きました。


――店舗を回って売り場改善や販促支援をする人を「ラウンダー」と呼ぶそうですね。そもそも、どんな仕事なのですか。

大きく分けて2つあります。1つは小売店に商品を供給する食品、日用品、化粧品などのメーカーから委託を受けて、小売店の店頭でそのメーカーの商品を目立たせたり、手に取ってもらいやすくしたりする業務。もう1つは、スーパーやドラッグストアといった小売店の委託により、売り場を改善する業務です。

いずれも本来なら、そのメーカーや小売店の従業員がやるべき仕事です。しかし、全国に何万店もある小売店すべてに人を派遣して売り場をチェックすることは難しい。それに新商品は毎週のように発売され、とても人手が追い付かないのが実情です。そこで、当社のようにラウンダーを派遣する専門業者の存在が欠かせなくなっているのです。

――同業他社に比べて、ソフトブレーン・フィールドの特長はどういう点でしょう。

当社はラウンダーを「キャスト」と呼んでおり、全国に約6万人が登録しています。他社と大きく違うのは、勤務時間に応じて賃金を払うのではなく、業務内容に応じて報酬を払う「訪問単価制」を取っていることです。例えば、1日に4店舗の売り場改善を実施するとします。7時間勤務のフルタイム型ラウンダーの場合、実際の業務にかかる時間のほかに、移動時間がかかります。交通費も必要です。一方、当社では実際の業務ごとに報酬を払います。1人で4店回る必要はなく、店舗に近い場所に住むキャストが回るので移動時間も交通費も発生しません。これは業務を委託するメーカーや小売店のメリットです。

一方、働くキャストにとっては、業務ごとに報酬が決まっているため、短時間でやれば、それだけ時給が上がる計算になります。空いた時間で、ほかの業務をやることもできるし、育児や買い物に充てることもできます。個人の意欲や能力には差があります。やる気も時間もある人にはどんどん仕事をしていただく。そうでない人はできる範囲でOK。ノルマもなく、成果に応じて報酬を払うことで、やる気を引き出しているわけです。

「同一労働同一賃金は誤り」――元アサヒ社員が引き出す「眠れる主婦パワー」

――どうして、このような仕組みを思い付いたのですか。そして、他社はどうしてまねできないのでしょう。

生活に合わせて仕事を用意

私はもともとアサヒビール時代に、子会社で売り場サポートをする業務に携わりました。1500人くらいの主婦の方をスタッフとして抱えていたのですが、一番悩んだのが、やる気のある人をどう正当に評価するかでした。当時は時給いくらで賃金を払っていましたので、成果をあげた人からは不満が出ていました。活動に応じてポイントを付与したりしましたが、雇用契約を結ぶ以上、賃金に大きく差を付けるのは難しかったのです。

一方で、家事や育児で忙しく、働きたいけれども時間に制約がある主婦の方も大勢いました。せっかく持っている能力をなんとか引き出せないか。そこで、仕事の内容を細かく分けて定義し、それに応じて報酬を決めることにしたのです。もちろん、仕事の内容や報酬はクライアントであるメーカーや小売店と議論して決めます。定められた仕事をちゃんとやっているかどうか、効率的にチェックする仕組みも整えてきました。13年間の実績やノウハウを積み重ねて、今の仕組みと全国規模のネットワークを作ってきましたので、他社がまねをしようとしても、そう簡単にはできないわけです。

――最近は人手不足で主婦の方にとっても働く場所の選択肢は増えています。ソフトブレーン・フィールドのキャストに登録するのはどんな方が多いのですか。

当社のキャストはもともと企業で働いた経験がある方が多いです。また、それまで主婦をしていたということは、ある程度、家計に余裕があることも想像できます。余裕がなければ、どんな条件でも働く必要が出てきますからね。逆に言えば、生活を犠牲にしてまで働く必要は感じていない。ですから、働ける場所、時間、内容をこちらで用意しなければ、外に出て来てくれません。そのかわり、やると決めた仕事に対する責任感やモチベーションは非常に強い。希望に合う仕事を用意すれば、ものすごいパフォーマンスを発揮してくれます。だから、クライアントの満足度も高く、クレームはほとんどありません。

実はこうした「眠れるハイパフォーマー」の女性は多いのではないかと思っています。生活に余裕がなく、仕事を選ばず働く必要のある方。一方、元の職場に復帰したり、新しい会社に再就職したりしてフルタイムで働く方。その中間に位置する方々と言ってもいいでしょうか。そうした才能や能力を眠ったままにしておくのは実にもったいない。だからこそ今の会社を立ち上げたと言っても過言ではありません。

――もともと潜在能力の高い方が登録しているということですが、何千、何万人というキャストの能力を一定のレベルで維持するのは大変だと思います。どのような人材育成策を取っていますか。

まず、やればやるほど能力が高まる仕組みを作っています。約6万人いるキャストのうち、非常にレベルの高い仕事ができる人は3000人、約5%ほどです。この層はもともと能力の高い方が多い。その他の方はどうするかというと、能力のレベルに応じて仕事を用意しています。例えば最近、一般のお客さんが店舗で商品を買ったレシートをスマホなどで撮影して送ってもらい、なぜ買ったかを聞き取る事業を始めました。そのレシート画像の日付や店名などをチェックする仕事なら、在宅でもできますよね。単価は安いですが、こうした仕事をたくさん用意して、徐々に仕事のレベルを上げてもらっています。

もう一つは当社の社員によるサポートです。社員は70人ほどいますが、うち7~8割がキャストのサポートや業務運営に携わっています。わかりやすいマニュアルを作成したり、キャストが働きやすい環境を整えたりする工夫を重ねています。最近はネットを介して仕事と人をマッチングさせるクラウドソーシングが広がっていますが、品質の維持が課題になっているようです。私たちの仕組みは、業務を発注する側と受ける側の間に当社が入り、業務内容に応じてキャストに発注するので、企業は安心して任せられます。

「同一労働同一賃金」には違和感

――女性を支援したいという会社は多いですが、ここまで女性の立場を考えている経営者は少ないように思います。

私の原点はアサヒビール時代ですね。新人の頃からずっと身近に女性社員がいましたが、仕事のできる方が多く、「すごいな」と思ってきました。食品メーカーは消費者とじかに接する場面が多く、女性の気配りや細やかさが業績を左右する度合いが大きいのです。一方、男性は細かいことを言わず、「お前に任せた」と言う方が能力を発揮する。こうした男女の能力やモチベーションの違いを生かすことを心がけてきました。

最も大事なのは、店頭で起きていることが一番正しいということ。キャストが業務上で不満を持っているとしたら、彼女たちの方が正しいんだと、口を酸っぱくして言っています。言うだけでなく、私自身が率先して「ありがとう」という感謝の気持ちを表に出すようにしています。キャストのモチベーションが上がれば、クライアントにも満足していただける。キャストと私たち社員、そしてメーカーなどのクライアントはパートナーだということを徹底しています。

――最後に、政府が旗を振って進める「働き方改革」について、どう見ていますか。

働き方改革の最大の課題は生産性の向上です。その意味では「同一労働同一賃金」という考え方は根本的に間違っていると思います。正社員と非正社員の賃金差をなくすと言えば聞こえはいいですが、個人の能力を全く無視していますし、働く人の気持ちも見ていないからです。働く人の能力は千差万別。先ほども言いましたが、同じ時間働いたら同じ給料がもらえるというのは真の平等ではありません。がんばった人が正当に報いられる仕組みでなければ、生産性は上がりません。

ではどうすればよいか。「企業ありき、雇用ありき」という今の雇用形態を抜本的に見直し、「人ありき、仕事ありき」の仕組みにする必要があるのではないでしょうか。日本は少子高齢化が進み、これからは女性のほか、高齢者も中心的な働き手になってもらわないと経済が回らなくなります。その際に大事なのは、お金のためにやむなく働くのでなく、それぞれの能力に応じた仕事をしてもらい、その分の対価を払う仕組みだと思います。やりたい人が、やりたい仕事を、やりたい時に。当社の取り組みが少しでもご参考になれば、と願っています。