「雇用」の概念がなくなる!? 働き方の変化が企業や人事の在り方を変える

総合「雇用」の概念がなくなる!? 働き方の変化が企業や人事の在り方を変える

雇用の流動性・多様性が加速している。副業やパラレルキャリアといった言葉がクローズアップされ、一つの企業に勤め、キャリアを積んでいくこれまでの「日本の働き方」が大きな転換期を迎えつつある。ビジネス環境もまた、めまぐるしく変化し、人材を確保し、生産性を維持・向上させていくことが喫緊の経営課題となっている企業も少なくない。こうした変革期において、求められる人事部門の役割・価値とは何なのか。

前回は従来型の雇用概念がなくなるとの見解から、働く人や人事部門の変容予測についてお話いただいた。後編は人事部門、人事パーソンは何をしなければならないのか掘り下げていく。

人事部門はどう変わらなければならないのか?

寺澤最近HRテックの重要性が叫ばれています。

守島人事は昔から情報戦をやってきました。昔優れた人事部長はいろんな社員の情報を知っていて、なんでそこまで知っているのかと思われるくらい情報を持っていました。例えばAさんはこういうキャリアを持って、こういう風に生きてきて、今こういう状態にいるからそろそろ異動させてやらなければならない、といったような適材適所の人材配置や社員の成長支援、職場の活性化に貢献してきました。しかしグローバルになって広がりが大きくなり、また分散的に働くようになると、そういった貢献の仕方が非常に難しい。DBを使って情報をきちんとマネジメントし、意思決定に繋がるレベルの情報を駆使して、企業価値貢献に寄与できる意志決定を行っていける人事にならなければなりません。

例えばブラジルの支社長が必要だったとします。その後任としてベルギーで××事業部の○○をやっているAさんがいいですよと東京本社の人事トップが提案できるかどうか。最終的に決めるのは事業のトップですが、そういう提案ができる情報の粒度が意思決定できるレベルにまで落とし込まれていかなければなりません。そのためには引き続き足で稼ぐ行動力に支えられた情報力が必要です。

テクノロジーという「ハード」を何にするか、どうするかといったものは問題ではありません。その中に入っている情報を人材調達・確保する時の意思決定材料としていくためにデータそのものと使い方の質をどう高めていくかが人事部門にとって最も重要なことです。

例えばある人がこの仕事のために必要なスキルが何で、それをもっているか、なければ学習する可能性はあるかというレベルだけではなく、その人がこの仕事に就いたとき、EQやメンタリティは適切なのかといったことまで踏み込んで情報を獲得し、DBやテクノロジーのなかに入力し、意思決定できるレベルにまでしていけるかどうかが、人事部門に問われるのではないかと思います。別の言い方をすれば、人員の配置は最後は人柄ですから、そこまでの情報が得られているかです。

寺澤そういった人事部門になるためにはどう変わらなければならないのでしょうか?

守島これからは仕事面のケアテイカー(守護神)は事業部のトップで、人事部門は人的資源のケアテイカーになっていくと思っています。こういう人材が居る、こういう人材を成長支援することが会社にとって必要だ、こういう人材のモチベーションを上げたいといった面で経営や現場トップにドンドン提案し行動していく存在です。人事部は人のスペシャリスト、人間のスペシャリストで、ビジネスのスペシャリストは事業部のトップが担う。人事の人事たる所以は人の側面に関して、どれだけ人間を理解しているのか、どういう人材が(社内に)いるのかをわかっていることだと思います。そういう意味では日本企業の人事部は昔から人をしっかり見てきた。その特徴にもう一度フォーカスしてそうした強みを活かしていくことが求められます。また、そうした強みに基づいて、ビジネスと人をマッチングしていく、主体的なリーダーシップも必要です。

寺澤昨今グローバルで見た時にマネジメント層がメンバーシップ型社員とジョブ型社員を区分けしてマネジメントしている傾向があると思いますが、これからどうなるのでしょうか。

守島先進国での大きなトレンドとして、エリートとノンエリートを区分けしなくなってきています。選抜される人、されない人の概念もなくってきています。なぜなら基本的には全世界的に人材不足だからです。よって全員を人材(財)として考えていくことの方が企業貢献に繋がっていきます。

全ての人材を同じくくりとして、今こういうビジネスがあるから、それにベストな人はこういう人である、というようなマッチングをしていく。また現状のマッチングだけではなく、将来の社会やビジネスはこうなっていく、だから、いつまでにこの人にどう成長してもらうか、といったところまで考えておくことが人事部に求められるようになってきます。

寺澤これから短期的な仕事が増え、業務委託型人材が増えていく中、企業が永続するためにマネジメントの仕方が非常に難しくなってきます。どのように行っていけばいいのでしょうか?

守島まず正社員だから大切にしている、非正規社員だから大切にする程度を減らすということは問題外です。基本的には働く人が自分で自分を成長させていきます。企業はそのために仕事をアサインし、よい経験をさせられるかがとても重要になってきます。その作業の中心的な担い手は人事部門です。例えば、一人ひとりを見ながら、Aさんという人がいれば、今のキャリアを高めるために一番よい仕事をアサインするが、Aさんをアサインすることが、企業にとっても一番いいベネフィットになるという判断のもと、意思決定をスピーディに行える。また、その成果に見合った評価をきちんと行いフィードバックし、フェアな報酬を支払い、次のマッチングに繋げていく。それが「一人ひとりを大切にしている企業」だと私は考えています。

一人ひとりを大切に扱えば短期雇用も長期雇用も区別なく、結果として人を大切にするという評判が評判を呼び、良い仕事をする良い人材が集まってきます。そういった企業は永続的に発展します。その中核的な役割を担えるのは人事部門だけであり、競争優位の源泉になりうるとても大切なポジションだといえます。

寺澤良い仕事をする人が集まるために「一人ひとりを大切にしている企業」として高い評判を得る企業でなければならない、そのためには人事部門はどうあるべきでしょうか?

守島前回申し上げましたが、ビジネス成長や活性化に寄与する人材調達機能と現場や現場リーダーに対しての人的側面からサポートの提供や感情・モチベーションのケアを行うことが求められます。

前者については、自社のビジネス並びにビジネス周辺の人の情報を持っているか、かつビジネスを成長・活性化できる人材のマッチングができるかが重要です。人の情報ではスキルや実績を「知っている」というレベルでは足りません。その人がどういう性格なのか、ビジネスや組織の危機・変化に対してどう役に立つ可能性があるのかといった可能性まで含めて、把握していることが大切です。そのためには、自社の展開しているビジネスは勿論、その周辺やステークホルダーに関わる人材を多数知っており、事業部の要請に対してスピーディで的確なマッチングをできることが求められます。

後者としては、ビジネスニーズから今までのような長期雇用というフレームワークがなくなる中、一人ひとりをどうみていくか、把握していくかを働く人のキャリアという観点含めて手段を考え、実行していくことが求められます。いわゆる創造力を働かせ、一人ひとりに応じてサポート・ケアする方法やコミュニケーションが求められます。
つまり一人ひとりが「大切にされている」と感じられるように「人事の創造力」を発揮する必要があります。

寺澤「人事の創造力」を発揮するために人事パーソンは何を学習し、何を学習棄却しなければならないでしょうか?

守島ベーシックなところで二つあります。一つ目はビジネスを理解する力とビジネストレンドを理解する力です。事業部長クラスレベルが把握している詳細までは必要ありません。現場のリーダーと話をして、大体こうなるだろうとある程度想定できることです。

もう一つは働く人の気持ちがわかり、働く人の気持ちにどこまで寄り添えるかです。
労務関係について知っていなくてはならないというのが、日本企業の人事ではベーシックな要素だと思われており、最近でも人や組織を巡る法律関係の知識が重視されていますが、今後そこは法律家に任せればいいと思います。アメリカでは法律関係は完全に法律家に任せています。それよりも重要なのは働く人の心がわかることです。

二つを実践するためには、一般的になりますが、コミュニケーションスキル、財務諸表を読める力、戦略論がわかっていること、EQ共感力といったところが重要となってくるのではないでしょうか。ビジネスの先端は知っていなくても、現場リーダーとビジネス言葉でコミュニケ―ションでき、信頼され、ビジネス目標を実現するために、人に関する課題を解決してもらえると思われることが重要です。また、現場の方々からも同様に人事に相談すれば解決してくれる、解決までいかなくても不安がなくなると思われるようにならなくてはいけません。

今の人事パーソンは人事制度設計を巡る知識についてよく学んでいますが、その先にあるものとは何か、また基礎にあるものは何かを考えて、上記に挙げさせていただいたことを深く学ばれるといいかと思います。

未来において、私は制度設計という仕事は人事部がやらなくてもいいと思っています。企業の人の状況やビジネスの状況がわかっていれば、制度設計はアウトソーシングしてもいいのではないでしょうか?現在、所属している社員や仕事に関わっている人達は、こういう人達で、取り組んでいるビジネスの状況はこうなっていると理解できている。経営や現場から人材調達の要請があればマッチングする、といったプロセスの理解があり、運用ができれば、制度設計はコンサルタントに任せて全然問題ないのではないかと思っています。

人事部の仕事から制度設計がなくなる世界というものもあるのではないか。この意味するところは5年~10年後の未来において、人事部門は、ビジネス目標や働く人の理想の状態を実現することやシナリオを描く創造力を発揮することが必要だからです。人事部門の本来の存在理由は、ビジネスの成長や人材を活性化させることで、これらは制度設計業務を凌駕する重要な仕事であるからです。