浮いた残業代 人に投資 企業、働き方改革で競争力

総合浮いた残業代 人に投資 企業、働き方改革で競争力

働き方改革で減少した残業代の一部を原資に、研修など従業員に投資する企業が出始めた。かんぽ生命保険は9月にも全国1万人の社員が能力開発のネット講座を受けられるようにする方針だ。サントリーホールディングス(HD)は従業員の健康状態向上の原資に充てる。産業界全体で年14兆円と見積もられる残業代。人材への投資は生産性の向上への要諦となる。

 

残業代にあたる所定外給与は、5月下旬発表の厚生労働省の2016年度の毎月勤労統計調査で、前年度比0.6%のマイナスになった。残業時間の減少(0.7%減)に連動した形だ。ひと月の平均残業代は約1万9千円で現金給与総額の6%を占める。

日本総合研究所の同統計に基づく試算によると、産業界全体での残業代は年14兆円規模にのぼる。残業代が0.6%減った16年度は、約840億円の削減があった計算だ。

働き方改革に取り組む企業に、実際にいくら残業代が減ったかを日本経済新聞が調査したところ、従業員1500人換算の比較で、年数千万円から10億円程度と幅があった。総人件費に占める残業代の割合も0.1%未満から5%程度と開きが出た。

各社状況は異なるものの、本来支払うはずだった残業代の使い方は、従業員の士気を保つために重要な課題との認識は共通する。

 

■100講座超が無料

 

働き方問題に詳しい日本総研の山田久チーフエコノミストは「働き方改革の最大の課題は生産性の向上だ」と指摘する。

政府は9日閣議決定の経済財政運営の基本方針(骨太の方針)で「人材への投資」を柱に掲げ、安倍晋三首相は経済財政諮問会議で「人材への投資を通じた経済社会の生産性の向上こそがカギとなる」とした。

従業員一人ひとりの能力アップが不可欠となるなか、研修・教育に投資する企業が相次いでいる。かんぽ生命はパソコンの使い方や英語、組織運営など100種類超のネット講座を無料で提供する。16年秋から小規模で始めていたが、今秋から全国に広げる方針だ。対象は1万人増え、7倍の規模になる。

この2年で残業代が3割減り、一部を原資にした。社員の利用率は約2割。社員からは「自分で本を買って勉強していたので無料の研修はありがたい」(20代女性)といった声が上がる。講座の1番人気は企業の社会的責任(CSR)と法令順守という。会社側は「社員の能力向上が本業拡大につながれば」(人事部)と期待する。

残業削減の取り組みで先行する大和証券グループ本社もネット講座やビジネススキル研修への投資を増やし、内容を充実させる。17年4月からは若手育成プログラムの対象を入社2年目から5年目までに広げた。ファイナンシャルプランナーや証券アナリストの資格取得を後押しし、企業競争力を高める。

残業代を社員用スマートフォン(スマホ)の貸与経費に充てているのがユニリーバ・ジャパン(東京・目黒)だ。IT(情報技術)活用で働きやすい環境整備を進める。

サントリーHDは生産性を左右する従業員の健康づくりの原資にする。16年9月から、従業員に健康診断受診や1日の歩数などに応じてポイントを与え、自社の健康食品などに交換できる制度を始めた。

 

■全額直接還元も

 

「お金」というより直接的な形で従業員に還元する企業もある。日本電産は残業減で浮いた人件費の半分を語学や専門知識など能力向上のための研修拡充に充てる一方、残りの半分はボーナスにまわす。所得が大きく減らないようにすることで不安払拭に努める。

人手不足がより深刻な業界ではボーナスで従業員に還元する企業が目立つ。5月からノー残業デーを月2回導入した松屋フーズは残業代減少分をボーナスに上乗せして還元する予定だ。

ボーナスは「一時的な報酬支払いの要素」が濃い。リクルートワークス研究所の石原直子人事研究センター長は「効率的な働き方をした人により報いることが大切だ」と語り「責任に見合った形で給与体系全体を見直すべきだ」と指摘する。ボーナスだけでなく、長期的な視点の月額給与を変えることがポイントとなる。

ヤフーはすでに残業のあり方を見直し、16年秋から一般従業員約2800人の給与に月25時間分の「残業代」を上乗せしている。実際に残業したかどうかは関係なく支払われる。15年の平均残業時間が月25時間だったことを目安にした。上回った場合、所定の残業代を支払う。

ワタミは1984年の創業以来初めて、基本給を底上げするベースアップ(ベア)を3月に実施した。その原資としたのが残業時間の削減分だった。今後も残業が減った効果を全額、給与に充てる方針だ。

働き方改革、残業代減少によって生まれた資金を、単なるコスト削減ととらえていては持続的な成長は見込めない。従業員以外にも学生などからのチェックの目は厳しく、取り組みによって採用活動にも影響が出てきそうだ。