総合「日本の生産性」は、どうして低すぎるのか D・アトキンソン×伊賀泰代×木下斉が語る
ダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランスなど、働き方をめぐり、さまざまな議論が行われている。なぜ今、働き方が問われているのか。それは、日本がいよいよ本格的な人口減少社会に入ってきたからだ。働き手が減っても、経済水準を大きく落とさないようにするためには、労働者1人あたりの生産性を高める必要がある。
日本の銀行はいつまで女性行員を窓口に張り付けるのか
そもそも日本の生産性は低いのか。この単純な疑問に対し、アトキンソン氏は1人あたりGDPを用いて検証した。「日本のGDPは世界第3位。でも、1人あたりGDPで見ると、3年前が24位、2年前が27位で、昨年は30位というように、年々低下している」。
1人あたりGDPは、GDPの総額を総人口で割って求められる。GDPは国内総生産のこと。一定期間中、国内で生み出された付加価値の総額を示す。それを総人口で割って求められる1人あたりGDPが国際比較で低いのは、国民1人が生み出す付加価値が低い、つまり生産性が他の国に比べて低いことを意味する。
ではなぜ生産性が低いのか。
アトキンソン氏は、銀行窓口に座っている女性行員を例に挙げ、なぜ日本企業の生産性が低いのかを指摘した。
「いまや、銀行窓口を通して行われている顧客対応業務の大半は、コンビニエンスストアに設置されているATM(現金自動預け払い機)でも可能になった。なのに、今も大勢の女性行員を窓口に張り付けている。本来なら、彼女たちの優秀な能力を他に活かせるよう、人員を再配置しなければならない。1979年、米国における男性収入に占める女性収入は69%だったが、昨年にかけて83%まで上昇した。一方、日本の場合、1979年の比率が55%だったのが、昨年は56%で、ほとんど変わっていない。つまり、女性の労働力が正当に評価されていない証拠だ」
問題は「現場」よりも「マネジメント側」にあり
人材コンサルタントの伊賀泰代氏は、工場以外の生産性という前提で、日本企業の生産性の問題は、現場よりもマネジメント側にあると指摘した。
「生産性はある意味、現場の人がきびきび働いているかどうかとは関係のないところで決まる。たとえば、無駄な作業を一所懸命きびきびやっても、あるいは対価が取れないサービスを一所懸命に提供しても、生産性は上がらない。生産性の良しあしは、現場ではなくマネジメントの問題に帰着する。また生産性が低い要因は、労働賃金が安かった時代の成功体験が、そのままマネジメントの考え方に残っていて、稼ぎ方を変えようという意識が希薄だからだ」
生産性は、企業だけの目線ではとらえられない。地方行政にも、さまざまな無駄が隠れている。
エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉氏は次のように話す。「地方は、大勢の人を動かしながら、1銭にもならないことをやっていることが少なくない。夕張市はその典型例で、炭鉱が次々に閉山された後、テーマパークやスキー場の開発などリゾート開発に力を入れたものの、失敗。その揚げ句、粉飾を重ねて財政再建団体になった。また、たとえば全国にある『道の駅』は、約8割が行政の設置。わずかな成果をあげるために、過剰な投資が行われる」と指摘。補助金が入る結果、生産性が低くても、施設の運営が維持されてしまう「地方の構造問題」を指摘した。
税収不足の昨今、本当の意味で生産性を高めなければならないのは、地方公共団体のほうなのかもしれない。
では、どうすれば生産性を向上できるのか。この点について、伊賀氏は次のように説明する。
「研究活動、営業活動、人材育成、管理業務、意思決定のそれぞれにかかわっている人が、各人で生産性を向上させているかどうか自問することが肝心。たとえば人材育成なら、研修に参加することが生産性を向上させるきっかけにつながっているのか。また、意思決定にかかわっている人なら、1分1秒でも速い意思決定を行っているかどうかを、それぞれ振り返るようにする」
また、会議時間を短縮させることが生産性の向上につながるという人もいるが、「それは間違い。生産性の高い意思決定ができたかどうかが大事であり、会議時間を短縮できたかどうかは、その結果にすぎない」。
経営者や地方の首長にプレッシャーをかけよ
アトキンソン氏は、もっと経営者にプレッシャーをかけるべきだという。
「欧州も、人口が増えないから、社会保障を維持するのに生産性を向上させる必要がある。企業が生産性を向上させ、リスクを取ってリターンを上げないことには、株価が上昇せず、年金運用もままならなくなる。だから、日本も、まずは経営者にプレッシャーをかけること。生産性の向上によって株価が上がれば、投資家はもちろんのこと、企業の従業員や、年金にとってもハッピーになる」
アトキンソン氏が言うように「経営者にプレッシャーをかける」ことは、欧州だけでなく、超高齢社会に入った日本にとっても有効な処方箋だ。
また、プレッシャーがかかるのは企業経営者だけではない。地方の首長クラスも同様だ。
「人口が増え、予算が増えている時代は、大きな施設を造っても何とか回していけたが、今は地方の人口は減少し、予算もない。そのなかで、100億円、200億円規模の損失を伴うような公共事業の失敗をすれば、それだけでリコールにつながる。だから、地方も公共事業も、生産性を無視したものではなく、地方の生産性を引き上げるような事業でなくてはならない」と、木下氏は言う。
人口減少社会を迎える日本にとって、生産性の向上は必須だ。そのためには、組織のリーダーがその必要性を認識することが、何よりも求められる。